いまはまだ遠いけれど
シマロンでコンラッドと別れてから、おれはまた眞魔国へ戻ってきた。
久しぶりに見る血盟城は、あいかわらず荘厳で圧倒的な存在感をもって
おれを迎えてくれた。
…アニシナさんが取り付けたおかしな魔道装置には驚かされたけど…。
城の門をくぐり、やはり帰城していたツェリ様たちと一緒に久しぶりにみんなで
晩餐の食事をして、いろいろ話をした。
おれいない間、グレタたちががんばって城を守ってくれていたことや、
意外とアニシナさんが内政にも通じていて、立派に采配がとれていること。
(このときグウェンはなぜが持っていた給食スプーンをとりおとした)
そしてこの前グレタと一緒に植えたチューリップが、もうつぼみをつけれいることも。
コンラッドの話は出なかった。 みんな意識して、話題をずらしていたらしい。
でも言葉には出さない、心配する気持ちは晩餐を囲む誰からも感じられた。
食事を終えて、久しぶりにヴォルフや村田といっしょにあのでかい風呂に浸かった。
…けど、おれとしては…できればヴォルフはほかのやつと一緒に浸かるのは
避けてほしいと思う。
おれがあまり見せたくないだけだけど。
不自然にヴォルフと村田の真ん中に割ってはいるおれに、
村田は少々あきれていたようだった。
その証拠に風呂から上がって、部屋でグレタを交えてまったりしてるとき
グレタに向かって
「きみのご両親はとても仲が良いんだねー」
なんてわざとらしく語りかけていやがった。
でもそれをきいたおれがアセる間もなくグレタが大きくうなづき、
ヴォルフがいつもの踏ん反りポーズで
「当然だ!」
なんて威張っていたので、おれはなんとかその場を取り繕うことができた。
さんきゅーぷー。
そして夜も更けて、村田が「ちょっと散歩してくる」と部屋をあとにし
おれたち三人は久々に顔を合わせたこともあって、今夜は一緒に寝ることにした。
グレタを真ん中にして、絵に描いたような川の字で。
しばらくすると、二人の寝息が聞こえてきたけどおれはなかなか寝付けなかった。
コンラッドのことがどうしても頭からはなれず、もぞもぞしてしまう。
二人を起こすのもかわいそうなので、水でも飲もうとベッドを降りた。
切子ガラスの高そうなグラスに水を2杯。
一気に飲み干して窓の外を伺うと、満月があたり一面を明るく照らしていた。
ふと思い立って、部屋を出てコンラッドの私室に忍び込んでみる。
主のいない部屋は冷たくひっそりとしていたが、彼がいたそのままの部屋の様子に
ほんの少し前まで何の疑いもなくそばにいた、名付け親の姿を思い出す。
そしてシマロンで敵国の軍服を着た彼の姿も、彼が言った言葉も。
胸に熱いものがこみ上げて来て、涙がでそうになって必死でこらえた。
上を向く。
するとこの部屋からも、あかるい満月がやさしい光を照らしているのが見える。
それはきっと遠い異国で、今は別の王に仕えるコンラッドの上にも同じに違いない。
しばらくおれは、そのやさしい…温度さえ感じるような光を浴びていた。
それから部屋にもどって、ヴォルフとグレタの寝顔を確かめる。
おれは起こさないようにそっとベッドにもぐり込んで、
寄り添って眠る二人を抱きかかえた。
もう誰も大切な人を手放したくない。
だから、もっと強くなろうと、そう誓ってまわした腕に少し力を込める。
この先、おれたちがどういう未来へ進んでいくのか、今はまだ分からない。
けど絶対に、彼らを守りたい。そして、失ったものを取り戻せるように
前に進んでいきたい。
そんなことを思いながら、まぶたを閉じた。
おしまい。
マニメ37話より…妄想爆発。
ユーリと「瞳のおくに」のヴォルフと思いがちょっとリンクv