手をつないで歩こう



 眞王国では春分、夏至、秋分、冬至の年4回、大きな祭りが行われる。
その中でも冬至は、眞王が逝去してから眞王廟に移るまでの死と再生の儀式を
再現するしきたりになっている。
この儀式の途中に新年を迎えて、一年が始まるわけだ。
今年初めてその祭りを見た新前魔王としては、その荘厳さに随分驚かされた。
 そしていま城では、春分の日を前に『命の祭』と称される一大イベントの準備で忙しい。
草木が、田畑が萌えいずるこの時期に、眞王が豊かな生命を与えてくれるよう祈るのだという。
それを聞いて…魔族って意外と農耕民族なのなのね、とおれは頭の中でつぶやいた。
ただしそんなのんきな意見は、目の前のあやしいコスプレ衣装を前に逃避しているにすぎない。
きんきらかつらと、かぼちゃの服。ごてごてとした、見るからに重そうな装飾品…。
こんなの宝塚か、上様サンバでしかお目にかかれないだろう。
なのに、ギュンターは「眞魔国の素晴らしい文化と歴史の賜物」なんていいやがる。

 「ですから陛下、ここで眞王の役を勤めるのは代々の魔王陛下の栄誉の義務です。
  どうかいやだなどとはおっしゃらずに…」
 「いややるよ?決まってることなんだろ?儀式は。
  でもこんな派手で重そうな服は着たくないっていってんの!しかも大勢の人前で!
  第一こーゆう担当おれじゃないから!似合わないから!サンバ踊らないからっ!!」
 「そうおっしゃらずに、お召しになってください。陛下は何を着ていてもお似合いです〜!」
 「に…似合いたくない……」

 さっきからずっとこの調子だ。話が進まないおれたちにしびれを切らしたのか
あきれたのか、壁際でせっせと雑用を片付けていたコンラッドが助け舟をだしてくれた。
 「まあまあギュンター、陛下ははじめての祭りの大役に戸惑っているだけだよ」
 「えっ?なんだよ、おれとまどってなんかいな…もが…」
とっさに切り返そうとしたおれの口を強引にふさいで、涼しい顔の名付け親は続ける。
 「今までずっと異世界でお過ごしだったんだから、見慣れない民族衣装に驚いたんですよね」
 「おれがなんとかするから」とにっこり笑って、ギュン汁いっぱいの超絶美形を下がらせてしまった。
そして部屋のドアを閉め、床に広がる衣装をざっとまとめてベッドにのせると
待ち構えていかように執事がやってきて、それを整えてしわを伸ばす。

 「ちぇー、なんだよー。この衣装はないだろって言ってるだけなのにー」
愚痴るおれを横目にコンラッドはにっこり笑って言った。
 「グウェンもヴォルフも似たような衣装着るんですから、ひとり目立つ訳じゃありませんよ」
 「えええええっ!?」
グウェンも?かぼちゃを??
ヴォルフはもとが可愛いし、なんたって元王子様なんだからかぼちゃのひとつやふたつ、
ドンと来いだろう。…でもグウェンは……いや、彼ももと王子様だけどさ。
 妄想の渦に巻き込まれつつ、そういえばコンラッドは?という新たな疑問が湧き出た。
 「じゃあさ、コンラッド。あんたも着るのかよ?」
 「ええ、おれのはもっと地味ですけどね。形は同じですから」
そうか…かぼちゃ三兄弟………。おれの頭には、数年前日本中に響き渡ったあのメロディーが
自動再生された。ああ、こんなことになるなんて…。
 「だからユーリがコレを着たところで、みんな着てるんだからそう目立ちません」
 「ふーん」
魔族の恐るべし文化に直面しているおれに、余裕の名付け親は何かを思い出したらしく
ふいにくっく…と笑い出した。
 「え?なになに?」
 「いや、ちょっと思い出してね。ヴォルフが昔コレを着て祭りに出たとき。
  成人前かな? 求婚者が殺到してね」
 「は?」
 「あの方に似てるから…ね」
 その含みのある物言いに、回廊に飾られていた肖像画を思い出す。
この国の創始者にして、救国の英雄。眞王陛下。おれを魔王に選んだ張本人。
 「あー、あの人ね」
確かにヴォルフにそっくりだ。で、かぼちゃ着てた。
似た人物が、同じ時代の衣装を身にまとえば自然に重なるのはあたりまえだよな。
けど、ならやっぱりヴォルフは「昔からもててたんだなあ…」
 「そうですね」
 「え?」
心のつぶやきのつもりが、うっかり声に出してしまって焦る。
 「あああの、えっと、だっておれもてない人生16年だしい!」
 「でも求婚者のほとんどは男性でしたから」
 「ええええええっ??」
…というか、やっぱり。
 「中には付き合っていたやつもいたみたいだし」
 「!」

 意外なところで、婚約者の身内に過去の恋愛遍歴を暴露されて
おれは驚いたというより、なんかもやもやしたものを感じてしまった。
なんか、これ… いままでに経験したことない。

 春はじめのの穏やかな、穏やかでない午後。



                つづく!






     ハーイ、続きます!