きんいろの…

 眞魔国は、地球儀に例えると日本の埼玉よりずっと北の方にあるのだと思う。
今はおそらく春…なんだと思うけど、それでも朝は遅くてずいぶん肌寒い。

 だからという訳でもないが、今朝もまたおれの公認婚約者さまは…
全身でおれに乗っかて腕だの足だのを絡ませて熟睡中だ。
 この状態に、最初のころは本当に苦労させられたが、習慣とは恐ろしいもので
このごろではさして苦にもならない。 あったかいしね。

 それにこっちに来るまで、洋服の『布地』なんて全然興味が無かったけれど、
ヴォルフの絹のネグリジェはさらさらしていて、すごく肌触りがいい。
パジャマ越しにもそのなめらかな感触が伝わってくる。
 なんとなく触ってみたくなったので、動く範囲で右手を持ち上げた。
そしてヴォルフの寝息を確認してから、そうっと腕の方から
背中の布の肌触りを確認してみる。肩甲骨から背筋をしたに…

……あ、やべ。セクハラかも!

 あぶないあぶない。 
なんか変な感じになる前に起きてしまおう。
おれは自分にも気合を入れながら、少し大きな声で起こしにかかった。

「おい、ヴォルフ起きろ! ていうか、はなせよ」
「………」
へんじがない、ぐっすりねむっているようだ。
「ヴォルフ!ヴォルフってば!起きろ!」
「う…ん…。にゃんだユーリ」
「にゃんだじゃねーよ、起きろよ!そしてどいてくれ」
「……ふ ぐぐ…」

「ふぐ??」
「ぐー」
こいつ起きる気も、様子も無い!
「あーもうっ!」

 こうなったら、日ごろの筋トレの成果をいまこそ披露してやろうと、体をぐいっと
斜めに向けた瞬間!

 金色のさらさらとした、最高級の絹糸がおれの顔をかすめた。
細かく砕かれた水晶の砂が滑り落ちるみたいな音がしたと思う。
なんか、その瞬間ほわ〜っとしたものに包まれた感じがして、おれは動くのをやめた
 もういちどベッドに転がる。

 見ると、ヴォルフの金色の髪が朝日に照らされて、やわらかく、やさしく光っている。
それがあまりにも綺麗で、気持ちよさそうで、触ってみたくなってしまった。
 しかし自分の腕は当のヴォルフによって拘束中。右手は髪に届かない。
おれはコッソリ髪の毛に顔をうずめるみたいにして、もう一度金の髪に触れてみる。
……予想どうり、ふんわりと柔らかくて幸せな気分になってしまう。
それにいいにおいがした。やば、多分ツェリ様のアレ…のような……。多分。

 で、でもまあ大きめの猫が乗っかっていると思えば大丈夫。 こいつ猫っぽいし。
婚約者なんだからこれくらい問題はないよな? つか、むしろおれのほうが
こいつにからめ取られてるわけだし。 不可抗力、不可抗力。 
 そう思いながら、サラサラの絹に包まれた体に腕をまわす。(ほとんど動かなかったけど)
すると、おれに絡まってるヴォルフの腕にもちょっとだけ力が入った…気がする。

 なんか、……今の顔だけは、絶対に誰にも見られたく無い。
でもこのまま起きてしまうには勿体無い。フワフワとした甘い香りが心地よくて
もう一度、やわらかい髪に顔をうずめた。



 今日の朝練はサボり。 
ひげの総料理長が、とびきりの食事を完成させてくれるまで、朝日に照らされた
きんいろのゆりかごでウトウトしていよう。

たまには、寝坊もいいなと思った。





                                         

                                            おわり。
                                         妄想爆発していてすみません・









                                 
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