めにはみえないこと


 あの悪夢のような事件の後、ぼくは意外な人物から
意外な言葉をもらった。

 母上が即位されていたころから、何度と無く足を運んでいたが
ウルリーケと言葉を交わしたことはそう無い。
この国唯一の、偉大なる巫女と気軽に言葉を交わしていたのは母上くらいのものだ。
あの完璧な兄上でさえ、ウルリーケには一歩下がって、静かに言葉を聴くのみだったのだ。

 でもあの人間どもの起こした忌まわしい事件のあと、まったく手がかりの無い
ユーリの行方を読み取れるのは、ウルリーケしかいない。
 だから無理を承知で何とか聞き出そうと、必死で眞王廟の門戸をたたいたぼくに
あの日(不本意ではあったにしろ)彼女はその扉を開いたのだ。

 そして、ぼくの感は当たっていた。
特別に見せてもらった仄白い球体。
それには煌々と輝く母上の魂の星をかすめて、一瞬だかくっきりと!
強大で凶悪で、不安定な魂の光が移しだされたのだ。
 ユーリだ!!
ウルリーケは半信半疑で「あなたの言うことを信じるならば…」とか言っていたが
ぼくには彼女にユーリが感じ取れない事のほうが理解できなかった。
 確信できたのだ!!
ほかに何があるというのだ?間違いない!
 張り詰めていた緊張が少しだけ和らいで、心臓の鼓動も少し穏やかになった。

 それからウルリーケに、母上のおおよその現在地を聞き出して
ユーリが人間の土地にいるらしい…ということが分かった。大成果だ!
眞王の導きに内心感謝しつつ、早速兄上に指示をあおごうと
部屋を出ようとした時だった。

 「ヴォルフラム」
ふいに彼女がぼくをよびとめた。
 「何だ?ユーリの事で、まだ何かあるのか?」

 「…いいえ。陛下のこと、よろしくお願いします。」
そういって真摯なまなざしをぼくに向ける。
 「あたりまえだ!ユーリはぼくの婚約者なんだからな!
  おまえなんかに言われなくても、ぼくが絶対に守ってやる!!」
当然だが、自信を持って答えたぼくに、彼女はすっと不思議な感じで目を細めた。
 「……ええ。そうですね。
  そしてすべての出来事に偶然は無いのですから、ユーリ陛下があなたを選ばれたのも
  また眞王陛下のご意思なのでしょう。」

それからウルリーケは眞王に祈るように両手をあげて言った。
 「眞王の御霊がいつも共にあって、あなた方を守り、お導きくださいますように…」

 この祝福の言葉にひとつ礼をして、ぼくは部屋を出た。
ウルリーケがなぜ、突然そんな言葉を発したのかよく分からなかったが
不思議と勇気をもらった気がした。





                                 
おわり

               ウルリーケは、本当はもう感情とかにたやすく左右されない感じがします。
              …というか、1000年巫女希望。 落ち着いた感じの巫女さま妄想!
                                            
 





                                       
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