村上征生さんの原画展を見に行く

1995.12.24

 先日、サキとこうへいを連れて見に行き、その時買ってきた『パスタの日記』という絵本を毎晩眺めているうちに、どうしてもまた行きたくなった。
 村上さんの絵本は3冊出ているのだけど、もう1冊の『きつね』も欲しくなってしまったのだ。
 それに、なんといってもあのすばらしい原画をもう一度見たい。

――『パスタ』というのはビーグル犬につけられた名前で、大学教授に飼われている。イギリスを舞台にして描かれたこの『パスタの日記』、この絵本もほんとにすてきなの。
 原画とは別に、パスタが描かれている絵も展示されていて、これを見たサキが「あっ、ルンルンとリュウくんだ!」と叫んだ。
 というのも、実家の父が狩猟が好きで、私が5歳のときからずっとビーグル犬を飼っていたのである。ビーグルばかりではなく、雑種も飼ったりして、多い時には7匹くらい犬がいた。最低2匹はいつもいた。
 ビーグルは家族であり、私の大事な友だちでもあったのだ。(小学校の頃、よく犬のことを作文に書いたものだ)
 そんなわけで、サキも小さい頃から実家へ行くとこれらのビーグル犬と一緒によく遊んでいたのである。仔犬が生まれた時など、ダンボール箱に入れて家の中に持ってきては飽きずに遊んでいた。
 そして、最後に飼っていたのがメスのルンルンとオスのリュウくんだったのだ。

 3年ほど前、父がからだを悪くしてからというもの、もう猟にはいけなくなってしまったので(殺生はよくないということもあって)、山にいけなくて家においておくのはかわいそうだからと、リュウくんは父の狩猟仲間にあずけられることになった。
 ルンルンはそれより前に、父が山へ連れていったときに行方不明になってしまった。以前にもそういうことがあったけど、きっと誰かがルンルンを黙って連れていってしまったのだと思う。

 ルンルンもリュウも、血統書つきのりっぱな猟犬だった。
 リュウはしばらくして、あずけた先で死んでしまった。サキがこれを聞いたときはがっくりと肩を落としたものだ。生きていてくれるだけで、いつかまたリュウくんに会える…って希望があったわけだから。
 話がだいぶそれたが、そんなわけで、この『パスタの日記』は私にとってはとてもうれしい絵本だった。
 パスタの表情とかうしろ姿。その子どもたち。…まさに、ルンルンとリュウ、そしてそれまで実家で飼っていたビーグルたちそのものなんだから。(たいていの犬は私が名前をつけた)

――――― 『パスタの日記』 ―――― 

パスタのモデルになるビーグル犬をずいぶん探した、ということだった。
 ある日、県立美術館への道を歩いていたら、ビーグルを連れた女の子に出遭ったのだそうだ。
 この犬こそ、捜し求めていたビーグル!
 …と、写真を300枚くらい撮って、それをもとに『パスタ』を描いたのだそう。
 で、私は原画展の会場にあった『パスタ』の絵がほしくて、う〜ん、なんとかローンで…とかお小遣いをためて…とか、ちょっと真剣に考えてしまった。15万円だった。この絵を父にあげたいと思ったのだが、やはりそんな簡単な値段ではなかった。(収入のない主婦にはねえ…)
 そこで、『パスタの日記』を購入して、父へクリスマスプレゼントとして贈ることにした。
 絵本なんてびっくりしただろうが、母も一緒に、「なつかしいねえ。」と喜んでくれた。
 『パスタ』をしげしげと眺めて、父は「ルンルンはここに点があった。」などと言っていたそうだ。



再び原画展へ。――村上氏にお会いする!

 冬休みにはいり、私はもう一度原画展へ出かけた。
 年末、しかも連休で道路は混み、トンネルの前で渋滞してちっとも前に進めない。あきらめて家へ戻り、JRで行くことにした。
 行ってよかった! 会場に村上さんご本人がいらしたのだ。奥さまとごいっしょに!
 受付の若い女性が私のことを覚えていてくれて、「先生とお話ししてください。」とお茶を出してくれた。
 その時は村上さんもほかのお客様とお話をされていたので、「ど〜しよ〜」と思ったのだが、そのうちお客様が帰ると、受付の女性が私のことを村上さんに引き合わせてくれたのだ。
 それできっかけができて、村上さんとお話をすることができたのだ。
 それだけでもうれしかったのに、話が進むうちに奥様の妹さん(ウエールズ在住)と私の出身大学―学科、専攻までが同じだったということがわかって、ただただお互いびっくり!(私より3歳上ということだったから、もしかしたら1年重なっていたのかもしれない)
 『Santa Claus』の絵本で村上さんが静岡在住の画家ということに驚き、『パスタの日記』で大阪府出身ということがわかって妙に胸騒ぎがしたのだが、よもやこういうことだったとは…。
 静岡に突然引っ越してきて―それまで降りたこともなかったそうです―6年たつという村上さんは、ゆったりと穏やかな印象の人で、大阪のイメージとはほど遠いものを感じた。
 絵から想像していた画家像が、村上さんを一目みてそのまま重なり、具体的になったという気がした。

――― 『Santa Claus』 ―――
 偶然書店で見かけて手にとったこの絵本。―その真っ赤な表紙に惹かれる人は多いはず。
 表紙をめくると目に飛び込んでくるフィンランドの森と湖の風景。
 私はこの絵を見て、わぁ…!とドキドキしてしまったのだ。次々にページをめくるたびに「もうこれは、買うしかない!」
 ――久々にそんな絵本に出逢った。そして、その時点でこの絵の実物を見たい、と思ったのも初めて。
 もちろん、これまでにいくつもの原画展を見てきて、どれも原画はすばらしく、やっぱ原画は見るべきよねえ、と感動する。でもでも、絵本を見てすぐにそう思ったのは初めてだったのだ。
『Santa Claus』の原画はすばらしかった。
一緒に見に行ったサキ(小3)が「すごいすごい、砂絵だ!」と叫んだ。
セラミックを砕いたものを和紙の上にニカワで固め、その上から水彩絵の具で描くのだそうだ。
そのざらざらした質感は絵本からも感じ取ることができる。
村上さんの絵本は大人が見て静かに楽しめる作品。「画集」と言った方が合ってるかも。
 

大阪と静岡のテンポの違い

 私はまわりから「のんびりしている」と言われるけど、――実際そうなんだけど、でも好きなことにはせっかちになる。――その私でも、大阪から静岡へ来た当初は静岡のテンポののろいのにイライラしたものだった。
 大阪の街を歩いている時は私が次々と追い越されていくのに、静岡の街を歩いていると、私が前を歩く人たちを次々と追い越していくのだ。いつのまにかせかせかと走るように歩いていたのだ。
 たいていの大阪人は、静岡の人間、静岡の街を見るとイライラするだろう。
 ところが、である。
 村上さんは大阪のご出身なのに、大阪のテンポが合わないとおっしゃるのだ。大阪から抜け出したいと思っていた、と。

 大学の先生といった風貌の村上さんは、お話ししていてもあまり大阪という感じがしない。イントネーションも大阪弁という印象ではない。不思議と違和感を持たないのだ。
 大阪の街を歩いていると、うしろから大阪弁で頭をこづかれているような気もちになることがよくあった私は、大阪にもこういう人がいたのだということにすごく驚かされた。とても不思議な気がした。

 静岡のテンポとか自然が自分に合っているという村上さんだが、一方で静岡は刺激が少なく、情報量も絶対的に少ない…とおっしゃっていた。(私もそれはよく感じたことだ)
 そのうちまたどこかへ引っ越したくなるかも…と。いえいえ、そんなことおっしゃらずに、静岡で創作活動を続けていただきたいです。
 焼津港へもよく釣りに来られるということだった。焼津や藤枝はいいところだ、とおっしゃっていた。
 「そのうち『焼津港物語』ができるかも…」と、となりにいらっしゃる奥様が。―楽しみですね。


村上征生さんの絵本

『きつね』           絵・村上征生  文・リース・ダグラス・モートン
                 日本語文・坪内稔典    (くもん出版 1989)            
『パスタの日記』       絵と文・村上征生   (講談社 1992) 
『Santa Claus』       絵と文・村上征生   (講談社 1995)