武器よさらば
--------------------------------------------------------------------
【 発言者 】堂本 江角


始めに:
この文章内には明らかにネタバレと思われる内容が含まれています。一応、まだ当ゲームをやり尽くしてない人には不適当な単語等が多数記述されています。今回は伏せ字を使わないつもりなので、そういった人は見ない方がいいかも。お許しを。

堂本 江住

本文:
二日前、ゲーム開始以来つきあって来た仲間と喧嘩した。勿論、口げんかしかできないのでそれは平行線で終わった。以来、まだ仲直りできない。できない理由は明白で、俺が折れないからだ。
遡る。
ラグオルにデフレーションの波が訪れ始めていた。
とある場所から、この数ヶ月貴重品であった筈の、そして皆そうだと思い疑わなかったアイテムの数々が、大量に流出し始めたからだ。
始まりはある銃だった。一ヶ月ほど前からちらほらと、その銃はミーティングやシークレットに現れ始めた。
無論、初めは皆それがこれまでと同様、希に出現するアイテムで、そしてついに誰かがそれを発見したから出始めたものだと思い疑わなかった。当然、その出現場所、出現フラグなどを巡って熱い論議が掲示板内を駆けめぐった。真面目に考えたら失笑するような取得方法論が次々と乱舞した。
勿論それは、ミーティングBBSにも出品され、当然の如く最高のレートで取り引きされた。出品者は頑として取得方法を明らかにしなかった。彼らは口を揃えてこういった。
「そんなことを教えたら価値がさがる」
なるほど。もっともな話だ。皆、納得した。納得して、改めてその入手方法をやっきになって探す作業に熱くなった。
オリジナル?は、本当に希に出現するものだったのか、今となっては不明である。今もわからない。ただ、このアイテムが引き金だったのは確かだと、筆者は思う。
ある日、銃のレートが突然急降下し始める。たたき売りする輩が出始めたのだ。
「きっと、オフラインか何かに確実な入手方法がある類の武器だったんだ。だからそれが見つかると※鎌の時のように暴落するから…」

※鎌の時…ソウルイーター。当初は希に出現する敵からのみ取得できるレートの高い武器だった。しかし、オフラインクエストにおいても、特定の手順を踏めば誰でも取得可能な武器であることがシークレットット掲示板で暴露され、急激にそのレートは下がった。ただ、それでも取得には時間と手間を要すること、そして当武器が実用に耐えうる優れたものであったため、未だレートはある程度の水準を維持し続けている。

皆、そう思った。だが、真実はもっと深刻だった。
大量に出回り始めた銃は、複製品だったのだ。拾えるものでも特殊条件で取得できるものでもなんでもなかった。一人のゲームデータを解析した人物が、GDに記憶されていたアイテムリストから、オリジナルのコードを解析し、そして開発者が構築した不正データ検出にひっかからない方法で、それをセーブデータから複製し始め、只同然で周りに配り始めていたのだ。
銃が最高レートで扱われていたのがまずかったのだと思う。
その後の状況は酷かった。ある人がその人物と銃を、手持ちのレートの高い(あまり出現しない貴重な)アイテムと交換する。交換した解析者は手に入れた貴重品のコードを解析し、それを複製する。あとは繰り返しだ。もう誰にも止められなかった。それまでレートが高いと言われていたものから順に、作業は速やかに行われ、数日の内に殆どの貴重品はコピーされ、事実上価値は消滅する。
解析者は止まらない。これまでの解析データを元に、アイテムコードの特徴を分析した彼は、それをもとにGDデータ内に存在していた未知のコードを調べ始める。割と時間はかからなかったようだ。
この3ヶ月間、誰も見たことも聞いたこともない名前の武器が、ミーティングにちらほら現れ始めた。一つどころではなく、それは複数同時に起こった。さすがにこの時点で皆異常事態に気づく。想像力を働かされば、すぐにわかる。ここ最近以上に出回っていたのは、殆ど複製品だったのだ…

上までの話は、事実を元に筆者が分析した話で、事実とは異なる可能性がある。だけど、多分大筋はこのようなものだと思う。順序がどうだかは不明だけど。

続き:
喧嘩の原因は連れの一言だった
「ひょっとしてあの子、複製品配ってたのかな」
あの子とは、一ヶ月ほど前、俺達に冒険の後、当時貴重であった武器を格安で売ってくれた自称武器商人のことだ。

連れは、なんともなしに独り言のように言っただけだった。悪気も特になかっただろう。

「…もういっぺんいってみろ」
が、それまでの記憶がフラッシュバックした自分はその言葉に我慢できなかった。連れの何気ない一言から始まった言い争いは延々と数十分の論争につながり(現実なら確実に殴り合いに発展していたと思う)、最終的に連れは興奮するこちらに「ついていけない」と苦笑し落ちた。以来、ずっと会っていない。

それから数日は複雑な心境だった。連れの何気ない一言が自分の中で延々と駆けめぐり続けていたからだ。
声がささやく。あの子は複製品を配っていたのだ。だから、あんなに安く武器を売ったり譲ったりできたんだ。
違う。そんなんじゃない。
自己分析するまでもなく、もうわかってはいた。自分が激怒した本当の理由。自分は、あの時連れの言葉に一瞬とはいえ納得してしまった事が、我慢ならなかったんだ。
無性にあの子にあいたくなった。真実を知りたくなった。直接本人に問いただしたい。
そうだ。会ってみないと真実は永遠に見えない。会えばどちらも傷つくのかもしれない。だけど、会わずに結論を導き出すことなどできそうにない。いや、このまま会わずにいると連れの言葉に負けてしまいそうだ…
カードを検索する。いない。その日はそれで終わった。
オンラインを続けていた。借りた武器を返すために。あの時の誓いを守るために。ただ、コントローラーを握る手はどこかやる気に欠けていた。
メールが届いた。友人だろうか?取りあえず、謝るのは自分のほうだよな…
※閉店のお知らせ※
諸事情により、当店は閉店することになりました。お貸ししていた商品の所有権は放棄致します。貴方の自由にしてください ××

あの時、床に10メセタを置いた時並の早さで指が動いた。検索し、飛んだ。鍵を掛けた部屋で、その子は一人でメールを送っていたらしい。入れなかった。部屋名、天の岩戸。
このまま消えてしまうような気がした。慌てて返事を返した
”いれて”
”?…なんでですか?”
”い・れ・て”
”はあ…どうぞ。”
割とあっさり許可が降りた。入室。
「どうしたのですか?微妙にお顔が引きつってますよ…?」
んな訳あるかい。
「突然あんなもん送られたら誰だってくると思うぞ」
「…」

「そうかも…」
おい(汗)
「はあ…ちょっと商人、やめようと思いまして。一応通達…私って律儀…」
その微妙な間、なんとかならんか。
「受けますから…」
ねらってたんかい。
「冗談…このしゃべりかた、割と気に入ってるんです。聞かれてて不愉快なのでしたらやめますけど…」
いいけど
「感謝の踊り…」
回るな、回るな
「それでさ、なんで急にやめるなんて気になったの?」
「もう私の存在意義は消滅しましたから。このまま続けていきますと、あらぬ誤解を生みそうですし…計算高い私…」
ばたばた

「…それで、なんでしょう?」
「…いや、落ち込んでるんじゃないかと思って…」
そうはみえんが、そうには違いないだろう。複製品が乱舞する昨今に、この子の居場所はどこにもない。彼女の言う通り、続けたところで傷つくだけだ。
「?…私って落ち込んでるんですか?」
頼むから、人の気遣いを一瞬で否定するな(汗)
「いや…だって、商品売れる状況じゃなくなったじゃん。商人としては商売に…」
「…10メセタで貴重品販売するような商売は初めから破綻してるとおもうんですけど…」
そ、そうかも
間。
「あ…私、理解(ぽむ)」
は?
「解りました、貴方の不安。…解消するために、ちょっとお話しません?」
「…」
「さ、隣座ってください」
座れません
「私、このゲーム大好きなんです」
唐突に、間延びだった口調がなくなり、快活なそれへと変化していた。だけど、不思議とそれまでと印象はかわらない。
「RPGって、本来こーゆーものじゃないですか。複数の人と架空の話で永遠に物語りを作る…多分、大抵の人にとって初めてのことだと思うんですよ(ぽむ)」
擬音は変化なしかい
「…突っ込み不許可」(←ショートカット)
はい
「レベル低い内は、割とみんな必死じゃないですか。だから協力もしますし、それがとても楽しかったんです。ですけどー」
「実は嫌いなんです私。スペシャルウエポンって…ほら、あれが出始める頃から、みんなかわっちゃうですから。いつの間にか、協力しなくなってるんです。部屋に入ると真っ先にアイテムに突進していきますし、敵がアイテム落とされるともの凄い早さで集まってきますし…勝手にどんどん自分だけで進んでいくようになりますし」
「…」
「ね、貴方、私が落ち込んでると思ったんですよね?どうして貴方はそう思ったか…解ります?」
ごめんよくわかんない
「うーん…じゃあ、質問かえます。第10問(←何故)どうして皆な、貴重品をあつめたい〜!!って、思うんでしょうっ?」
はい先生。レアを探すのは男のロマンだから
「…何々ですかそれは(げし)」
何も蹴ることはないだろ
「多分、優越感と劣等感からなんです」
難しい話になりそうだった
「えーと、ようするにスネオさんなんです。皆さん」
「なんでいきなり漫画が…」
「…突っ込み不許可」
うい。
「誰でも人より上に立ちたいって気持ち、あるじゃないですか。その手段なんですよね、結局。誰ももってないアイテムを手に入れること、それを見せびらかすことで満たされるんです。ほら、スネオさんでしょ?」
なるほど。そしてそれを実力行使で奪うジャイアンはさしずめアイテム泥棒か
「…先読み不許可(ばきゃっ)」
痛い…
「例え続けますと、今ラグオルは、ドラさんの魔法の道具でその仕返しをしているのびたさんの世界です…」
「この漫画、落ちはいつも同じなんですよね。仕返しは始め成功しますけど、結局のびたさんがドジなところから崩壊して、こらしめられておわるんです。もっとも、こちらもそうなる保証はどこにもありませんけど…このままのびたさんが頂点でいつづけるかも。あはは」
「…」
「ですけど、のびたさんをこらしめても、それは解決ではないと、私は思うんですよ。ね、××さん、今の例え、一番悪いのは誰だと思います…?」
「…スネオ、かな」
「ぴんぽーん…正解…すーぱーひとしくん人形さしあげます…」
なにそれ(汗)
「そうなんです。最初からスネオさんが皆さんに見せびらかしたりしなければ、はじめからそこにいる人達に物を気軽に貸していれば、郷田さんは実力で奪いに走ったりもしなかったでしょうし、のびたさんも自分だけ仲間はずれにされて八つ当たりに走ったりもしないんですよ。」
だから…すーぱーひとしくんって…
「…つっこみ不許可っていってるじゃないですか…(じろ)」
う、うい
「私、多分取り戻したかったんです。最初の頃の感動…」
「それこそ、必死になってアイテム集めました。なんだか矛盾してるなって、自分でも思いましたけど…とにかく、集めたんです。友達にも頼んで、ネットワーク構築して、いろんなものを集めました。そして、冒険してくださった人達に安く売ってまわってたんです。」…なんで
「貴重品が楽に手に入れば、心に余裕が生まれます。必死に宝箱をあさったり、アイテム集めに無心することもなくなる、また皆さん、楽しく気楽に冒険するようになってくれる…って、そう思ったんだと思うです」
「…」
「もっとも、現実はそんなに甘くなかったですけど。想像力に欠けてました…需要に供給がおいつかなくなり、私の手元には殆ど何もない日が多くなりました。それでもメールは毎日届きます。何か、いい入って武器ない?って…実は、今も来てるんですよあはは…」

「そんな中、さいきん、ふと気づいたんですよ。私がしてきたことと、今アイテムをコピーして配ってる人と…どこが違うんだろう…って」

「本当の事いいますと、私、落ち込むどころか嬉しかったりするんですよね、今の現状…アイテムが貴重でなくなった今、皆な私の望んだ姿になりつつありますから…冒険やこうして話すこと自体を楽しみ始めてくれますし」

「勿論、これまでアイテムを必死に探して手に入れてきた人達は、私みたいな自己満足で偽善者ぶる人や、複製品つくってばらまく人は大嫌いなんでしょうけど…でも、価値が下がったって、それがなんだというのです…?」

「アイテムは、それ自体は只の二進数です。そこに意味なんてないです。なんでもない道具なんです。大切なのは、それに自分だけの価値を宿せる人の心なんです。第三者的な価値なんて、どうだっていいじゃないですか。友達にもらったもの、自分で必死で手に入れたもの、それがコピーでないと自分だけが解っている事実。その記憶は複製されず永遠に残ります。それで十分なんです」
「…」
「…だけど…私のしてきたことは、その、アイテムを大事だと思う人達を冒涜する行為だと気づいたんです。だからこの商売はこれでお仕舞い。これからは一冒険者として生きるの」

「以上…まいえっせいでした…完」

 なんて言ったらいいのか、よくわからなかった。ただ、やっぱり自分はこの子には永遠になれそうにない、そう思った。

「あ、もうこんな時間ですね…」
「あのさ」
「はい…?」
「俺…俺は、君にアイテム貰って、凄く嬉しかったよ。自分でみつけた何より嬉しかった」
「あはは…ありがとうございます…(おじぎ)」
口調は既に元の間延びする変な人に戻っていた。擬音を語尾につけるのは相変わらずで、変わらない。
「あれ、やっぱりいつか返すよ。自力だから、いつになるかわからないけど…やっぱり返したい」
「…」
「…承知致しました…返却されるのを心待ちにしております…」
「返せたら、君の冒険仲間に加えてくれよ。召使いから騎士までなんでもござれだ」
「あはは…承知致しました」
「うん…それと…あー」
「…?」
「最後に、一つお願い、聞いてくれないかな?」
「はい…なんでしょう…なんなりとおっしゃってください…(不安)」
不安て
「えっと、俺を最後の客にしてくれよ」
「…?」
「うん。君の輝かしい商歴の最後の客になりたいんだ」
合点がいったらしく、その子が笑う。
「はい…わかりました…ええと、今当店にありますのは…」
提示されていくアイテムのリスト。これだけ集めるのに、この子とその友達がどれだけ時間を割いたのかは解らない。だけど無駄だったとは思わない。少なくとも、彼女たちに、俺は救われたのだから。彼女の言葉通り、それは複製されずずっと残る。
「何を希望されますか…?えっと、」
「一度につき一人一つ。約束だもんな」
「はい…」
勿論、初めから注文する武器は決まっている

「ソウルバニッシュ」


この話はこれで終わり。編集が下手だから多少おかしいかも。だけどもう続けないし訂正もしない。俺達の先は想像に任せます。

最後だからなるべくカットせずにそのまま情景を書いた。勿論詳細は違うし俺の個人的な想いから自動的に脚色されている可能性は否定できないな。惚れた弱みかな(苦笑)

これまで読んでくれた全ての人に、心から感謝を込めて。

 堂本 江住


--------------------------------------------------------------------
\e