クリスマスプレゼント
ユジンの寝息が聞こえてる。
それを確かめるとジュンサンはそっとベットを抜け出し、カーテンを開けて窓の外に耳を澄ませた。
サラ… サラ…
どうやらまだ雪は降っているようだ。
今がまだ夜明け前なのか、それとも日が立ち上ってきた朝なのか見当もつかないが、目が覚めてしまえば、それがジュンサンにとっての夜明けになる。
それは理にかなった決め事のようなもの。
後はユジンが目を覚ますのを、ベットの中で待つことにしよう…
ジュンサンは静かにベットに戻ると、再びユジンの横に身体を滑らせた。
「メリークリスマス…ユジン…」
ジュンサンは昨日からずっと言いたかった一言を口にすると、ユジンの寝息に微笑みながら目を閉じた。
思えば、こうやって2人でクリスマスを迎えるのは初めてだ。
これから2人で冬を越え、春を、夏を、秋を過ごして、そしてまた冬になって初雪を待つ。
そんな生活が始まる…
穏やかな日常の中に、当たり前のようにユジンがいて、僕の名前を呼んでくれる。
何処にいても、何処に行っても、この手をユジンが繋いでくれる。
その幸せを夢見てはいけないと、僕はずっと思っていた。
ユジンは守ってあげなきゃいけない人だった。
あの冬山で迷った時も、見つけたのは僕。
それからも、ユジンが泣く度に、僕が涙を拭いてあげて、いつでもこの手の中に抱きしめてきた。
だから、僕は光を失って、君を守れない辛さに怯えた。
でも…、君はそんな僕を追いかけて、追いかけて、…そして、僕に勇気をくれた。
ユジン、君は何時の間にそんなに強くなったんだろう…
あんなに泣き虫だったのに…
ジュンサンは横を向くと、思わずユジンの頬に手を伸ばした。
今まで何度となく拭った頬に、もちろん今は涙はない。
それが分かっていても確かめてしまう…
そうして溢れた愛情は、過去さえも全て自分の物にしようとする。
と、何かがジュンサンの頬に触れた。
その柔らかな感触が、ジュンサンの意識を呼び戻していく。
それは…、眠っているとばかり思っていたユジンの手だった。
「起こしちゃって、ごめん…」
ジュンサンはその事に気が付くと、すまなそうな声を出した。
「ううん…、いいの、もう外は少し明るいし…」
そう返事をしたユジンの声は、さすがにちょっと眠たそうだ。
「それよりどうしたの?」
「何が?」
「何がって…、とっても恐い顔してたわよ」
「僕が、恐い顔?」
そうか…恐い顔か…
ジュンサンはユジンからその事を聞いて、首を振り、ふっと笑みをもらした。
どうやら、僕は幸せを実感するのに、見えない分、これから長い時間が必要らしい。
「ちょっとね…、怖い夢を見たんだ」
ジュンサンはユジンの頭の下に自分の腕を回し入れると、上を向いて眉間にシワを寄せ、そらをついた。
「どんな夢?」ユジンはたまらず聞く。
「ユジンがいなくなっちゃって、必死で探す夢」
「だからあんな顔?」
「そう、真剣だっただろう?」
ユジンはその答えを聞いて神妙な顔になり、何かをこらえるように呟いた。
「夢の中でも、現実でも、私はどこにも行かないわ、ずっとあなたの腕の中にいる…」
「ユジン?」
ユジンの身体は震えていた。
あぁ、見えないと、こうだからいけない…
まして相手がユジンだと、ついつい以前のように軽口が出てしまう。
ジュンサンは慌ててユジンの頭を自分の方に向けると、明るい声で喋り出した。
「大丈夫だよ、大丈夫。夢だって分かったから、もう安心したよ」
「ホント?」
「ああ、本当だ。それにユジンが悪い訳じゃない…」
そうか、やっぱりユジンはユジンだった…
僕の傍にいるときのユジンは僕を頼って、泣き虫で…、何も変わっていないじゃないか。
ジュンサンはユジンを抱き寄せ、額についばむようなキスをすると、空いている方の腕をフワリとその背中に回した。
温かで柔らかな感触が、足の先からじわじわと浸みてくる。
「外はまだ雪が降ってるよ…」
ジュンサンは息が掛かるくらい近くにいるユジンに、今日最初のプレゼントをあげた。
ユジンの息は嬉しそうに弾む。
「そう、じゃあ、今日も雪合戦しましょう。それでね、もう1つ雪だるまを作るの…」
「うん。あと他には何をしたい?」
「えっとね…、えっと…もうちょっとこうしていたい…」
こんなに近いのに、ユジンの声は消え入りそうだ。
「えっ?」
ジュンサンは聞こえないふりをして、聞き返した。
「だから、その…」
ユジンは恥ずかしさで顔を上げられないまま口ごもる。
「えっと…もうちょっとこのままでいたい…って言ったの」
ユジンがやっとそう言って顔を上げると、ジュンサンの顔は笑っていた。
ユジンはその様子で自分が担がれた事を知り、ジュンサンを睨(み付ける。
「もう、人が悪いわよ、カン・ジュンサン」
「僕もクリスマスプレゼントが欲しかったんだ」
「これがクリスマスプレゼント?」
「そうだよ。ユジンにそう言われると最高に嬉しいからさ」
「安いプレゼントだわ」
「それは、お互い様だろう」
2人の微笑みが静かな部屋に広がる。
そして、ひとしきり笑うとジュンサンは優しい瞳のまま、ユジンを抱く手に力を入れた。