桜の木の下で…
「世の中に絶えて桜のなかりせば春 の心はのどけからまし…」
理得は満開の桜の下でそう呟いた。
「何て言ったの?」
ユーリには、耳慣れないその言葉遣いが呪文のように聞こえた。
「えっ、あ、これはね大昔の人が読んだ歌なの」
「ふ〜ん、でも意味がよく分からないよ」
「意味はね…」
理得はそう言うと地面に落ちた桜の花びらを掌に乗せて、それをユーリに手渡した。
「世の中に全く桜がなかったならば、春の人々の心はのどかだっただろうに…って」
「どうしてのどかなの?」
ユーリは不思議そうに理得の顔をのぞき込む。
「桜ってすごく綺麗でしょ?木に葉が出る前に花が咲くから、まるでピンクの大きな綿菓子みたいで…」
「ピンクの綿菓子?」
「そうよ、で、それがまた花が咲いてる期間が短いから余計に綺麗に感じるの…」
「うん、とても綺麗なのは分かるよ」
「でも綺麗すぎて、昔の人は桜には魔性があると思ってたのよ。見てると胸がザワザワするような感じ…魅せられるって分かるかな?」
「なんとなく…」
「で、春になって桜が咲くと、皆ソワソワして、こうしてお花見したり、桜を見ながらお酒飲んだりするの…、短い桜の花の命を一生懸命に愛そうとするようにね」
「僕も桜は好きだよ」
ユーリは桜並木の中、肩を並べて歩いている理得の手を取った。
「君に似てるから…」
理得はそう言われて恥ずかしそうな笑顔を向けた。
「清楚で、凛としてて、とても神秘的で、僕をザワザワさせるから…」
「ここがザワザワするの?」
理得はユーリと向き合うとその胸に手を置いた。
「ザワザワするよ…、今もしてる…」
理得を見つめるユーリの黒目がちの瞳がふっ笑うと、次の瞬間、理得の耳元が熱くなった。
首筋へのキスは不意打ちを食らうようにドキッとする。
「ユーリ…」
理得のちょっと驚いた顔が、赤くなり、そしてフイッと横を向いた。
「恥ずかしいじゃない…」
そう言って、理得は1人で歩き出した。
ユーリはその後を追いかける。
手には一杯の桜の花びら持って…
理得、君を呼び止めたらこれを君に降らせよう…
髪の毛についた花びらは僕が取ってあげるから…
そしたら、今度は君の口元の花びらにキスさせて…
いつも君を愛でていたい…ずっと…
僕の心にはいつでも桜が咲いているから…
レインボーママさん、20万アクセスゲット記念 2003/4/6