君たちの、大先輩のY君から旭川医科大学のレポートです。

<TOMMY注、何と私と全く面識のない旭川医科大の6年生、Y・I君からの突然のメールが届いた。この企画に賛同してくれてありがとう。医学部の学生は忙しい、Y君はしかも6年生で国家試験が控えているのでは、そんな時にこんな「熱いレポート」を書いてくれた意気込みに読者の皆さん感謝しましょう。>

<TOMMY注 文章の後半部に「医者」とは何かという根元的な問に触れている箇所があります。医学部をめざす皆さん。必読です。>


Tommy先生はじめまして。私は某F高校OBのY.I.です。
現在は旭川医科大学の6年です。
私が卒業してもう丸6年程経ちましたので、先生は私のことはご存知ないかもしれませんが、ふらっと立ち寄った母校の関連HPであまりの熱さに感激し、大学レポートを送ろうと思った次第です。

医学部はかなり特殊な学部だと思いますので、旭川医大のことを述べる前に、医学部一般のことを少し説明しておきます。
医学部は医師を育てるための学部で、6年制の大学です。“卒業=医師になる”という公式がほぼ当てはまります。国家試験の合格率は90%以上で、そのほとんど全員が病院で医師として働きます。大学というよりは専門学校といった感じだと私は思います。
現在医学部で行われている一般的な課目は大きく分けて基礎科目と臨床科目そして臨床実習に区別されています。基礎科目には有名な解剖学をはじめ、組織学、病理学、薬理学、微生物学などがあります。臨床科目とは、よく病院で目にする科で内科学、外科学、小児科学、産婦人科学などです。臨床実習とは病院に実際に出て、現場で実習を行います。基礎2年、臨床2年、実習2年というのがスタンダードな医学部ではな
いかと思います。また、他の大学もたぶん同じだと思いますが、医学部は単位制ではなくて学年制です。
医学部には専攻は存在しません。全員が同じように全ての科を勉強します。選択科目は一般教養以外には存在せず、全員が同じ講義を受け、同じテストを受けます。“大学を選ぶ=カリキュラムを選ぶ”ということになります。余談かもしれませんが、専門の科を大学時代に決めないことには重要な意味があります。病気は体のどこに症状を出すかわかりませんし、治療による副作用もどこに出るのかわかりません。全身のことをわかっていないと診断・治療ができないのです。
医学部では講義の内容は全国的に見て大きな差はないと私は考えます。それは、医師国家試験に合格することが卒業生には求められるため、ある程度国家試験のガイドラインに沿った教育がなされるからです。地方によって多い病気がありますから、ある程度の地域差はあるとは思いますが、その内容には大きな差はないと思います。差があるのは講義や実習を行う時期やその形態ではないかと私は思います。
医学部には卒業論文が存在しません。研究室に入って研究をするといったことは制度としてはありません。その代わりに臨床実習があり、卒業試験があります。

では旭医のことについて説明しましょう。カリキュラムは大まかにいうと1〜2年生が基礎・一般教養の教育が行われ、3〜4年生では臨床科目の講義が行われ、5・6年生は病院実習といった形態です。
カリキュラムの特徴として、まずチュートリアル方式というのが挙げられます。
チュートリアル方式は少人数で問題を自分たちで解決する方式です。例えば、“意識のない人が救急車で運ばれてきました。あなたは医師です。どうしますか?”といった質問用紙が配られ、それに対して自分たちで考えて、調べて、意見をまとめるという形式です。この方式の特徴は自分たちで考える、というところにあります。従来の講義形式では学生は一方的に話を受け取るだけで、考えることはあまり必要とされてきませんでした。しかし、そのような教育では問題に対して実際にどう対応するか、といった実践的な教育ができなかったのです。
このように書くとチュートリアルには悪い点がないようですが、実はたくさんあります。まず、知識の量が人によってかなりばらつきが出てきます。それはチュートリアル教育の基本は自分たちで考えてわからないことは自学自習することにあるからです。したがって、何も調べずにあそび通すことも可能です。大学らしいといえばその通りですが。更に、課題のテーマに挙がらない内容に関しては全く勉強しない(と言うよりできない)といった弊害もあります。また、チュートリアルに多くの時間が割かれるため講義の時間がかなり圧迫されて、講義内容が以前と比較して限定されたものになったようです。
第2の特徴としては一部縦割りの講義を廃止したことにあります。縦割りの講義とは例えば消化器外科とか消化器内科といった“科”で区切られた授業のことです。そういった形ではなくて、消化器科というようなカテゴリーを作りました。
しかし、これは大変不評な制度でした。というのも、消化器科の中で系統立てた講義が行われるのではなくて、消化器内科・消化器外科両方が単純に時間を割り振りして、授業を行うだけのものだったからです。今までは科ごとに授業が行われていたものが、混合されることで単にわかりにくくなっただけといった意見がほとんどでした。
第3の特徴としては、参加型の臨床実習があげられます。今までの臨床実習は基本的には見学型と呼ばれる方式で、要は見ているだけの実習でした。現在では参加型ということで、患者さんの了解を得た上で血液採取や、病歴聴取など積極的に診療のお手伝いをする実習となってきています。医療チームの一員となることを理想としてあげられています。
これに関しては意見が分かれるところです。メリットとしては、参加することでより病気に対する理解が深まる、患者さんの気持ちが理解できる、一生懸命勉強せざるを得ない状況になる、といったことがあります。デメリットとしては、チームに入ることで時間的な拘束が大きくなる(手術が終わるまで帰れない)、医師によっては全く何もさせてもらえないなどがあります。6年生は高校3年生と同じような状況で、国家試験を控えた受験生です。そのため、実習も大事ですが、自分の勉強をしたいというのも本音です。

以上が簡単ですが、私の旭川医科大学のレポートです。

以下は医学部を目指している後輩へ。

医者は儲かる・・・これは嘘ではないですが、自分のQOL(quality of life :生活の質)は限りなく低いです。毎日12時間以上働いて、休日出勤は当たり前の世界ですよ。年間の休日は10〜20日くらいでしょうか。労働基準法は無視されています。看護師さんは3交代制度が整備されていますが、医者には交代はありません。制度自体に無理があるので、楽ではないです。その代わりお金がもらえるといった感じです。事実医者の平均寿命は一般人よりも短いです。あまりお勧めできる職業ではないと思います。
医学部は理系のTOP・・・入学した時点で偏差値的には間違いなくトップクラスです。ただ、実際の臨床医(医者)はただの労働者です。患者さんというお客さんを接客するという意味では、ウエイターと大差はないと思います(もちろん専門知識は必要ですが)。つまり、医学は科学ですが、医者は科学者ではないと私は考えます。科学者になりたいのであれば、他の道がいいと思いますよ。ちなみに、基礎系の研究室ならば医師免許がなくても研究はできます。医学部はどんなに早くても卒業に6年かかります。更に2年間の臨床研修が義務となっています。一般大学に進学した研究者と比べると4年間も遅れをとることになります。卒業後は理系のTOPではないです(事実ノーベル医学生理学賞は日本人では1人だけですよね)。
医学は理系科目か・・・文系でも生物を選択していればほとんど問題ないと私個人は思います。数学・物理は合格したら忘れていいです。数学・物理は家庭教師以外ではほとんど役に立たないです。逆に言うと生物を選択しないで医学部に入れる今の入試制度はおかしいと思います。ちなみに私自身も物理選択でしたが・・・。
医学部への道・・・最近は多様な人間を集めるため、さまざまな入学形態があります。大学を卒業した人を3年生くらいから編入させる制度(学士入学)が全国的に広まっています。一度大学に行って働いてから、医学部を目指すのも悪くないかもしれません。(ちなみにアメリカでの医学部は全員が大学を出た後に医学部に入学しています。)


駄文で申し訳ありませんが、後輩が大学を選ぶ際の参考になれば幸いです。
疑問・質問などございましたら
yasu4shi@hotmail.com までご連絡いただけたら幸いです。


旭川医科大学6年  □垣 □□(名前の公表は恥ずかしいからやめてください)