知的障害をもつ子が地域の県立高校へ通えるように、高校入試の改善を県教委に求めました



1999年11月5日(金)
静岡県教育委員長 鈴木壽美子 様
静岡県教育長    杉田豊   様
                         障害児(者)の高校進学を実現する
                         静岡県ネットワーク事務局
                         
 
                                    要望書
 
 
 “どの子も地域の学校へ”と叫び続けて、小学校・中学校を経た子どもたちが、地域の中で他の子たちと同じ高校生活を送りたいと願っています。
 「高校生」というひびきの中に「青春」そのものがあります。障害を持つ子たちも青春に輝いていい筈です。どんな障害を持とうと、地域の中で他の子たちと同じ高校生活を送ることが出来て当然です。
 既に、時代は「高校希望者の全入時代」に入りつつあります。ところが、静岡県では依然として定員に満たないのに合格を認めない「定員内不合格」が多く、ハンディのある子がなかなか入れないという実状です。
 改善してください。以下のことを要望します。
 
1.「定員内不合格」は絶対に出さないこと。
 
(1)「定員内不合格を出さない」いう文書通知を出す。
 教育長は各県立高等学校長あて、文書にて「定員内不合格を出さない」という通知を出すべきです。東京都がすでに行っています。【参考資料@】千葉県も同様です。(入学許可候補者の決定)【参考資料A】
 
(2)欠員に対する補充措置を講じる。
 教育委員会は各高等学校の2次募集終了後すみやかに欠員状況を把握し、欠員が生じている学校があれば3次募集を行うなどの補充措置を行うべきです。東京都ですでに実施してます。  
2.「知的障害者」に対する受験手続きの配慮をすること
 
 不利益を与えないという文書通知
 「障害」をもつ子は受験に際しても不利益を受けます。たとえば「中学側の進路指導により、養護学校や訓練校などに偏った指導がされる」「推薦希望を受け入れてもらえない」などです。そこで、教育長は各市町村教育委員会を通じ、各中学校長宛「障害をもつ生徒の入学者選抜に当たっては、障害をもつことにより、不利益な取扱いをすることのないよう留意する」という趣旨の通知を文書で行うべきです。千葉県ですでに実施してます。【参考資料B】
 
3.入試方法を改善すること。
 
(1)文部省は「障害のある者については障害の種類や程度等に応じて適切な評価が可能となるよう、(中略)、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化を図ること」と通知しています。(H9年11 月28日、高等学校の入学者選抜の改善について)この趣旨に沿って、「静岡県立高等学校入学者選抜実施要領」に示されている「身体に障害のある志願者への配慮」という表記から「身体に」を削除すべきです。この表現によって、配慮は身体障害者に限定されるという誤解が生じます。
 
(2)この通知が示すように、学力に偏重した現状の評価方法はあらため、「高校生になりたい」「この高校に通いたい」などの意欲などについての評価尺度を重視すべきです。また、ペーパーテストによる入試ではなく、面接のみ実施するなどの評価方法も取り入れるべきです。
 
(3)入試方法は「点字受験」「読唇受験」「別室受験」「代読」「時間延長」のみでなく、「代筆」「○×式解答用紙」「指さしによる回答」「カードによる回答」など多種多様なものにすべきです。
 
4.推薦枠を拡大し、推薦要件の緩和させ、「障害」をもつ生徒の推薦入学を認めること。
 
(1)推薦枠を拡大すべきです。
【参考資料C】
推薦入学を実施した学科の割合
高等学校入学者選抜の改善等に関する状況(平成11年4月、文部省刊)より抜粋
 

全学科
普通課
科専門学
総合学科
静岡県
75.0%
50.7%
100%
100%
埼玉県
100.0%
100.0%
100%
100%
東京都
96.3%
94.8%
100%
100%
千葉県
100%
100%
100%
100%

 
【参考資料D】
推薦入学定員枠の割合(全入学定員に対する推薦入学の募集定員の割合)
  高等学校入学者選抜の改善等に関する状況(平成11年4月、文部省刊)より抜粋


全学科普通課専門学科総合学科
静岡県19.3%3.7%48.8%50.0%
埼玉県26.5%20.0%50.3%30.0%
東京都22.7%21.4%26.9%50.8%
千葉県27.6%24.9%38.2%40.0%
 

(2)推薦要件を緩和すべきです。前年度に比べ緩和された形跡がありますが、「各学校で定める細部」が不明のため要件の全体像がわかりません。各校による「細部」の定めを廃止するか、「イ」の項目を廃止するなどが必要です。
 
【参考資料E】推薦要件の比較
       〈静岡県〉 (99年年度)       〈神奈川県〉(2000年度)
 次のアに示す条件を満たし、かつ、イに示す複数の項目に該当し、中学校長が推薦する者とする。
ア(ア)調査書の記載内容がおおむね良好であること。
 (イ)人物が優れていること。
イ(ア)志願した学科(科)に関する職業を将来希望していること。
(イ)志願した学科(科)を志願する動機、理由が明白、適切であること。
(ウ)校内活動、校外活動等において優れた活動をしていること。
(エ)特定の教科に特に優れていること。
なお、細部については、上記ア及びイの各項に準じて実施校ごとに定める。
 次の要件を満たす者で中学校の校長の推薦を得た者とする。
(1)原則として、平成12年3月31日までに卒業する見込みの者。
(2)志願する学科又はコースへの明確な目的意識を持ち、個性、適性の伸長を希望する者。
(3)志願する高等学校の教育を受けるにふさわしい資質を有する者。





 

 
(3)推薦機会の活用ができるための指導を行うべきです。
 中学校に於ける受験指導について、偏った指導をすることなく推薦についての保護者側の意向を受け入れるよう各市町村教育委員会を通じ指導すべきです。
 
5.研修の実施など取り組むこと。
 
(1)「中学校の進路指導に関して研究協議会等を開催」し、障害をもつ生徒に対する配慮を徹底させるべきです。また、「地区ごとなど入学者選抜の方法等を説明」する際、「定員内不合格」を出さないこと、障害をもつ生徒に対する配慮を徹底させるべきです。さらに、各高等学校ごとの学校説明会では、学力のみが選抜の基準ではなくいろいろな評価方法を講じることの趣旨が徹底されるよう高等学校を指導すべきです。
【参考資料F】静岡県の入学者選抜について教育委員会が講じているその他の措置
高等学校入学者選抜の改善等に関する状況(平成11年4月、文部省刊)より抜粋

 
内  容
実施
教育委員会において、学校案内や入学者選抜の方法等を
説明したパンフレットの作成・配布
都道府県の広報誌等において入学者選抜の方法等を説明 ○
中学校の進路指導に関して研究協議会等の開催
地区ごとなど入学者選抜の方法等の説明会の開催
各高等学校ごとの学校説明会の開催
各高等学校ごとに学校案内や入学者選抜方法等を説明し
たパンフレットの作成・配布
各高等学校ごとの体験入学の実施

(2)障害をもつ生徒が入学を希望した場合、この学校に於いて教職員のための「障害者理解」についての研修会を実施するべきです。すでに千葉県で実施されています。
 たとえば、この研修会のタイトルは「知的障害をもつ生徒の普通高校受け入れ」などとし、次のような観点が必要です。(千葉県の実績です)
@定数=募集人員=内の不合格者は出さない。
A定員=定員プラス2%=内に障害者がいた場合は原則として合格とする。ただし、複数  の場合は全体会議で審議する。
B障害を持った生徒が入学した場合は統合教育を実施する。
C同じく、その場合は、環境整備・人的配置の積極的要求を行っていく。
【障害を持った生徒の評価および進級・卒業について】
障害を持った生徒の評価および進級・卒業については出席状況と努力の度合いを見て判断する。なお「努力の度合い」の基準については、個々に教科会で話し合った後で、教科担
当者会議で定める。

 
(3)高等学校の体験学習の実施については、複数の高等学校に於いてできるようにするべきです。

6.入学後の状況に応じ、「加配教諭」や非常勤講師の配置など適宜行うこと。
 
 障害をもつ生徒の入学については、現状では教員配置などの環境整備が大きく影響するため、高等学校からの要請により「加配教諭」や「非常勤講師」などの配置が必要です。東京都などですでに実施されています。