おはなし |
あるところに、機織りが上手な瓜子姫という娘がいた。 ある日、瓜子姫の爺さんと婆さんは籠を買うために出かけていたため、 瓜子姫は一人留守番をして機を織っていた。 そこへ突然の天邪鬼が来訪してくる。 聞けば「戸を開けてくれ」とのこと。 爺さんから決して戸を開けてはいけないと言われていたために瓜子姫は一旦は断るのだが、 「指が入る隙間だけ」「腕が入る隙間だけ」という天邪鬼の悪知恵に乗ってしまう。 ある程度戸が開いてしまった隙に天邪鬼に押し入られてしまった。 そして天邪鬼は瓜子姫を庭の柿の木に縛り、瓜子姫に化けて機を織る真似を始めた。 爺さん婆さんが帰ってくると、瓜子姫に化けた天邪鬼を籠に乗せて宮参りをしようとした。 しかしその時、柿の木に縛られていた本物の瓜子姫が泣きだしてしまう。 その声を聞いた爺さんと婆さんは本物の瓜子姫ではないことに気づき、 怒って天邪鬼を籠の棒で突き刺し、首を切ってキビ畑に捨てたと言う。 |
地方色の強い話 |
瓜子姫と天邪鬼の話は各地方によって内容が異なります。 まず、瓜子姫の出生ですが、 某鬼退治のカリスマのように「瓜から生まれた」というものから、 「庭に植えた瓜の実から生まれた」「瓜畑の真ん中にいた」「瓜を食べたら子供を授かった」などなど 様々なバリエーションがあります。 そして、天邪鬼が瓜子姫の家を訪ねた目的は、 「一緒に遊びたいから」「贅沢な暮らしをしたいから」「瓜子姫の幸せを壊す」などの複数の説があり、 天邪鬼に捕まった瓜子姫に関しても、上記で紹介したような「庭の柿の木に縛られた」というものから、 「いきなり殺されて身包み剥がされる」という残虐なものもあります。 究極に恐ろしいところで「殺した瓜子姫を煮て食べてしまう」というバリエーションも。 この「身包み剥がされる」という話限定になれば、 身包みを剥がされるという表現が「着ている物を剥がされる」と「皮(皮膚)を剥がされる」の二通りがあり、 御伽噺の枠を超えて都市伝説級の恐ろしいものになっています。 勿論、天邪鬼の最後(最期)も様々で、 「殺して首をキビ畑に捨てた」「三つに切られてクリとソバとキビの根本に埋められる」 単純な所で「殴り殺される」「逃げ延びる」といったパターンがあります。 なお、瓜子姫を煮て食べてしまった話では、爺さんと婆さんに煮物を食べさせた後に逃げ延びています。 このように、地方毎に様々なバリエーションが存在する話です。 それでもまだまだありそうですから怖いですね。 何処の地方でどんな話なのかの紹介は、キリがないので外します。ゴメンナサイ。 で、どの話も共通して気が付くのは何らかの形で「死」が関わっているという点です。 流石に子供に聞かせるような御伽噺の場合は、グロテスクな表現を避けられていますが、 瓜子姫が殺されるパターンと天邪鬼が殺されるパターンと両方殺されるパターンの3つがあります。 要するにどちらにせよ死者(?)が出るということですね。 実は、ちょっと意味ありげな御話なんです。 なお、上で紹介した話は『出雲の南部、仁多郡』で伝わる話をベースに 朝が来ない夜に抱かれての作中で語られる話のポイントを多々盛り込んでアレンジした物です。 (いいのかな、勝手にアレンジして書いちゃって。まあ、話の骨格は変わってないからいいか。) |
「死」の意味するもの 〜作物起源神話 |
上記で述べた通り、瓜子姫と天邪鬼の話は少なからず死者を出します。 PTAの方々が黙っていられないんじゃないかと心配するほど、それはもう非常に残酷な話なのです。 ゲームにしたら「グロテスク表現が含まれている」と18禁規制を受けることでしょう。 ただ、この話で語られる「死」を単純に捉えてはいけません。 あらすじとか書いてあるだけの本では単に「殺された」で済まされていますが、 その背景には古代人の信仰の名残が残されているのです。 この信仰は、 『人々は、生まれ、育ち、死に、その死体から再び生まれる、という自然の再生に地母神の偉大さを感じ、 地母神は、殺され、刻まれ、大地に撒かれることによって人間の食物を芽生えさせた。』 という「作物起源神話」と呼ばれるものになります。 日本に伝わる代表的なものでは、古事記にあるスサノヲがオホゲツヒメの話や、 日本書紀にあるツクヨミとウケモチの話がそれに当たります。 前者は以下のような話です。 『スサノヲがオホゲツヒメに食物を乞うたところ、 鼻・口・尻から種々の食べ物を取りだし、色々な料理を作ってさしあげた。 しかし、これを覗き見たスサノヲは汚れた物を食べさせようとしたと怒り、オホゲツヒメを殺してしまう。 すると殺されたオホゲツヒメの頭から蚕が、二つの目から稲種が、二つの耳からアワが、 鼻から小豆が、女陰から麦が、尻から大豆が化生した。』 また、後者は以下のような話です。 五殻の起源を説明する話とされています。 『殺されたウケモチの頭から牛馬、額からアワ、眉から蚕、 眼からヒエ、腹からイネ、陰部からムギとマメが化生した。 天照大神は、アワ・ヒエ・ムギ・マメを「陸田種子(はたけつもの)」、 イネを「水田種子(たなつもの)」と区別し、 この世の人間の「食ひて活くべきものなり」とした。』 前述した通り、天邪鬼はただ殺されるだけではなく、 「殺して首をキビ畑に捨てた」「三つに切られてクリとソバとキビの根本に埋められる」など、 畑に捨てられたり埋められたりしています。 要するに、天邪鬼の死体はある意味で食物を養い育てているのです。 また、瓜子姫が殺された場合も、オホゲツヒメのように瓜子姫から多くの穀物が生まれたとされる話があります。 このように『生と死と再生』という自然界の理を忘れないようにする、 また、大地の恵みに対する感謝の気持ちや祈りを込める、 そんな背景が瓜子姫と天邪鬼の話にあるのではないかと言われています。 |
天邪鬼のルーツ |
天邪鬼は神話にある女神「天探女(あまのさぐめ)」が起源とも言われています。 天探女は大国主神に服従を説くという任務を遣わされた天若日子の部下で、 人の心や未来を探ることが出来たと言います。 その天若日子に対し、天照大神は『名鳴女(なきめ)』という雉を派遣します。 (いつまでたっても大国主神が服従しないから) 名鳴女が派遣されたことを事前に知った天探女は、天若日子にその旨を伝えました。 そして、名鳴女は天若日子に矢で射落とされてしまいます。 天照大神からすれば余計な告げ口をしたと言う事になり、 天の邪魔をするものとして天照大神の怒りを買ってしまうのです。 そしてひねくれた意地悪な女神とされ、現代に「あまんじゃく」に転化した名を残しました。 また、天探(あまのさぐ)とは『天の神の動勢を探る』という意味だそうで、 天探女は天の神の動勢を下界に伝達する女神、 自然現象の『やまびこ』を神化したものとされる説もあります。 やまびこですから同じことしか伝えられません。 ですから『ひねくれ者』と見られ『あまんじゃく』と言われるようになった、とも言われます。 なお、本作品では天邪鬼は「天探女」として登場します。 基本的には嫌なキャラクターですが、無貌の神の命により降臨した後の姿はなかなか可愛らしいです。 他にも天若日子が天邪鬼だ、とされる説や、 仏教の世界において仏教の教えに反対するものを天邪鬼と呼ぶ、といった説もあります。 |
どうでもいいかもしれませんが私の「瓜子姫と天邪鬼」解釈 |
調べれば調べるほど色々な説が出てきて正直迷いました。 ただ、どの考え方にも間違いは無いと思います。 で、私の中では作物起源神話の色が濃い「瓜子姫と天邪鬼」が一番強いですね。 まず、天邪鬼の起源は「天探女」であるとします。 まあゲームがそうでしたし、私的に一番しっくりきたんで。 で、天邪鬼という存在が元々は「天探女」という女神であったとするならば、 上記の作物起源神話と合わせて考えて見た場合に、 「瓜子姫と天邪鬼」の話はやっぱり民衆の大地神信仰の現れという解釈が一番良いように思います。 ひねくれ者という烙印を押されつつも、一方では天探女を食物を芽生えさせてくれた女神と崇められ、 やがて天邪鬼と言われるようになってもその崇拝が生きていて、 『天邪鬼=>自然の理の象徴』として現代に語り継がれているのではないだろうかと。 冒頭の「おはなし」は、結局この考えが反映されていますので。 人夫々色々な解釈がありますから、読む人にとっては間違っているかもしれません。 ま、その辺は適当に流していただければ。 「私はこう思う」というのがある人は、是非意見をお聞かせください。 |