柔のADVを「EVEシリーズ」とするならば、剛のADVは「神宮寺三郎シリーズ」だと常々評価してきましたが、 ついに柔も剛も兼ね揃えている走行守三拍子揃ったADVがこの世に君臨しました。 その名は・・・「Missing Parts」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− まず最初に断言しておきましょう。 DCかPS2をお持ちで推理ADVに興味のある方、必ずプレイしてください。 はっきり言ってプレイしないと損します。 ゲームは全6話にわたって繰り広げられるオーソドックスな推理ADVです。 「EVE」や「神宮寺三郎」や「ファミコン探偵倶楽部」を想像して頂ければ宜しいと思います。 実際、F・O・G公式ホームページを見てもあまり飾られた表現をしておりません。 淡々とゲーム紹介と人物紹介を載せてあるくらいです。 DC版はDC製造中止の報があった後に発売されているので仕方ないかもしれませんが、 現役バリバリPS2版の発売直前になっても大々的に取り上げている雑誌は少なく、 下手したらPS2版はこのまま年末商戦に向けた大作ゲームの陰に静かに埋もれてしまう可能性もあります。 しかし、このゲームを埋もれさせてはいけません。 パッと見は地味(失礼)ですが中身は非常に濃厚なテイストを秘めています。 ゲームという媒体が持つ面白さの本質を再認識させられるでしょう。 お金をかければ、最新技術を使えば、それで良いという訳ではないのです。 例えれば、現役バリバリメジャーリーガーと鳴り物入りで入団したのに全然ダメだった外人ではなく、 メジャー経験は浅いが日本向きとの触れ込みで入団してかなりの成績を残した外人であり、 金を使った補強もせずに現有戦力で優勝した2001年のヤクルトスワローズ、と言える作品であります。 (うわ、我ながら例えが悪い)
DC版は『隠れた名作』と言われて久しいですが、 PS2版発売を機にその称号を『不朽の名作』に変えるべきです。 では、私が何故こんなに熱く薦めるのか。 それを稚拙な文章ではありますが説明します。 1−ストーリー 全6話をプレイしての評価になりますが、 「よくぞまあこんなの作ったな」というのが大枠での感想。 勿論、誉め言葉ですよ。 もう内容が素晴らしいの一言。 ベタ褒めします、マジで。 ボリューム的には1話につき約8時間のプレイ時間が6話分、約計48時間のストーリーになります。 そのストーリーはオムニバス形式の単発なものではなく、 各話でそれぞれベースとなるメインの事件が起こるのと同時に、 その裏側で「恭介の両親について」「母親のペンダントについて」といった真神恭介自身に関する謎や 鳴海京香・月嶋成美・白石哲平と言ったサブキャラの謎が全編に渡りじわじわと解き明かされていきます。 まずはそれを一つの物語としてきっちり収束しているところにまず脱帽。 全体的に火曜サスペンス劇場のシリーズ物を見るような安心感があるんですよね。 また、話の展開の仕方が秀逸。 プレイヤーに与える情報の出し方、ある意味挑発的なユーザへの謎の投げかけ、などなど 一見何も関係無さそうな事でも何かしらに関係してくるので気が抜けません。 その方法も時にはコミカルに時にはシリアスに、喜怒哀楽交えてくるのです。 その際、プレイヤーに性格が植え付けられるレギュラー陣を上手く使っています。 鳴海京香・月嶋成美・氷室裕・白石哲平・森川直治、これらの性格や人間関係を存分に利用しているのです。 中には奈々子の料理のようにちょっと無理がある関係付けもありますが、 私は逆に「そうきたか!」と唸ってしまったくらい。 また、自由行動の前には恭介の「独り言」という形で次にやるべきことを呟いてくれるので プレイヤーが何もない所へいきなり投げ出されるような感じはありません。 根本にはテキストのセンスが良いというのもありますが、人間関係も絡めて良く練られていると思います。 そして、プレイヤーにも推理するフィールドをきっちり与えているのがポイント。 システムの話でまた書きますが、このゲームはコマンド総当りが通用しません。 正しい情報収集・正しい推理をしないと事件は解決できないのです。 これは上述した「話の展開」が下手だとプレイヤーにとってはストレスになってしまう危険性があります。 プレイヤーの頭の中で整理できないまま話が進んでしまう、といった具合で。 ですが、その心配はありません。 プレイヤーを置いてきぼりにしない絶妙なバランスで「推理する」という権限を与えています。 これが推理ADVファンにはたまらなく面白い部分です。 ストーリーが一本道なゲームでは「推理する」ことはできてもゲームの結果には反映されないですからね。 また、つまらないADVにありがちなユーザ無視の自慰的展開はありません。
細部の話ですが、物語終盤の5〜6話にかけての話の盛り上げ方は推理ADVの中でも3本指に入ります。 犯罪の陰に潜む組織の全貌が薄っすらと見え始め、物語のキーとなる誠司所長の存在が明るみに出た矢先、 ・・・まさか、まさか、あんなことになるなんて! なーんて展開が色々待っています。 なお、各話単体で見れば面白さに少しバラつきがあると思いますが、 物語は是非とも全6話通して評価してください。 あと、一度クリアしても必ず再プレイした方がいいです。 「ああ、だからこの時こう言ったのか」みたいな伏線が分かり、 作品の理解度が上がるのと同時に面白くなります。 2−登場人物 文句なし。 これ以上望むものはありません。 それぞれに躍動感があり、見事にキャラを立たせています。 私流の言葉で言えば「登場人物に魂が吹き込まれている」という感じです。 お人好しの名探偵『真神恭介』と彼を支えるその仲間達、その全てが魅力的。 探偵に不向きな所長代理・ファザコン時代劇マニア『鳴海京香』 明るい場所が苦手な骨董品屋主人・下僕を抱えつつも実は優しい女王様『月嶋成美』 裏の世界を暗躍する下僕1号・友情パワーで恭介をサポートする闇のワトスン『白石哲平』 一見昼行灯警官・実は恐ろしく切れ者なのに娘にはボロボロの憎めない親父『氷室裕』 恭介に何かと楯突く警官兼下僕3号・しかし彼の信念と想いは誰よりも強く儚い『森川直治』 人類最終兵器ネットカフェ店員・人知を超えた天然が魅力な女子高生『鴨居奈々子』 また、他のレギュラー陣や恭介を取り巻くゲスト陣も一人一人が性格付けがしっかりしてあり、 夫々が何かしらの役割をしっかり持っています。 いわゆる「とりあえず出したけどあまり意味が無い人物」というのは皆無です。 全員がMissingPartsという作品の中で生きています。価値を持っています。 この「性格付け」という部分ですが、非常に人間味があるんですよ。 そもそも日常生活っぽい表現が多い(恭介が朝御飯を作るとか哲平の部屋を掃除するとか)ゲームなのですが、 根本に夫々の人物が持つ長所と短所を上手く表現していることがあるからだと思います。 そして互いに長所を生かし短所を補いあいながらなんとか難事件を解決していきます。 そう、ゲームにありがちな「スーパーマン」な人物は存在しないのです。 (注意:キレた人物なら何人かいますけど)
ですから話を進めていく上で愛着の沸く人物が多かったりします。 私の場合、哲平や奈々子や森川がその部類でした。 この辺の感覚は「はぐれ刑事−純情派」に匹敵しますね。 はぐれ刑事も何度も観ていると里見刑事や高木刑事にまで愛着が湧いてきます。 あと私の憶測ですが、物語に沿ったリアルタイムな性格の変化(対応)にも気を使ったのではないかと。 例えば、話が進む毎に恭介の突っ込みが鋭くなっていきますが、 これは明らかにボケ担当の哲平と一緒にいるからなのだと思いますし、 氷室の「・・・で?」という名台詞に恭介が対応していく姿も段階をきっちり踏んでいると思います。 この上手さがかな〜り悶絶モノ。 個人的に最終話で今までのゲスト陣全員集合みたいな感じになるのが評価高し。 決戦に向け真神恭介の元へ皆が集結する−これで役者が揃った!というノリが大好きなので。 最終話のスタッフロールを見ると「素晴らしき真神恭介とその仲間達」を脳内プレイバックできるでしょう。 結果的に全部のキャラが好きなんですけど、 その中でも、File1とFile6に出演する盲目御嬢様・嘉納潤ちゃんと レギュラー出演の昼行灯・氷室の2人は最強にして最高の存在。 もう、可愛すぎ&格好良すぎ。 うちのお連れ様に言わせると、男性登場キャラに関しては 「哲平×恭介」「森川×恭介」を筆頭に色々と801カップリングができるそうで。 (基本路線は「恭ちゃん総受け」らしい) もう哲平や森川にメロメロになっちゃってます。 そっちにはあまり詳しくない私も何となく言いたいことは分かるんですよね。 少なからず「哲平×恭介」に関しては納得。 賛同者求む! これに関してはまた別途コラムを書きたいと思います。
3−グラフィック キャラクターデザインはF・O・Gと言えばこの人!の岸上大策氏が担当。 もうこの時点で合格点以上のものがあります。 久遠の絆や風雨来記のイメージではギャルゲーの絵描きという感がありますが、 実際のところ氏の描く絵は老若男女問わず魅力的です。 顔パーツのバランスとかかなり人間的に描きますしね。 「目が異様に大きい」とか「髪の毛が緑」とか「服装がトンでる」など ゲームにありがちな常識を逸脱したキャラはありません。 また、立ち絵は重要キャラとそうでないキャラで数の差が激しいですが合格レベルです。
その他、背景画・一枚絵を含めて全体的にクオリティは高いです。 そしてそのグラフィックを使って効果的にカッコ良く演出してくれます。 こちらも全然文句ありません。 4−音楽 本作はF・O・G作品に素晴らしい音楽を提供してきた風水嵯峨氏ではなく、 橋本美佐氏がメインと言うことで正直一番不安だった部分(スミマセン橋本さん)でした。 (と言っても風水嵯峨氏は音楽監修で参加しています) とりあえず、とある場面で流れる『Painful Rain』という曲だけで御飯3杯はいけます。 今、着メロにしたい曲No.1です。 使った場面が反則だという意見もありそうですが、少なくとも私は後世に語り継ぎたい名曲です。 この他、『明日からはじめよう』などの名曲はありますが、 大声で言えるのはそのくらいで、それ以外は可もなく不可もなく。
良い曲は多いと思うんですけど、ネックはサウンドモードが無いこと。 タイトルも分からずじっくり聞くことも出来ず、印象に残っても口ずさめるほどにならないのです。 PS2版はミュージックモードがあるようなので少し評価は変わるかもしれませんね。 全体的にMissingPartsの雰囲気に合う曲は提供しているので合格レベルではあります。 5−システム このゲームの大きな特徴は、時間の概念が存在するということ。 無駄な行動をしていると必要な情報を収集できずに事件の展開が変わってしまいます。 そう、単なるコマンド総当りではクリアできないのです。 (File1/File2に関しては時間の概念が無いようですが) そしてプレイヤーの行動を元にランク付けをしてくれます。 これがなかなか熱いんですよ。 自分が推理して取った行動に対する評価ですからね、まさに自分が起こした結果に基づいている訳です。 プレイヤーに自由に行動させ、その結果如何で話の展開を変えるのはなかなか難しいのですが、 このゲームではどの話も上手く収束させています。 流石に矛盾を感じた部分も所々にありましたが、許せるレベルです。 このクオリティは凄いと思いました。 ただ、推理することが苦手・慣れていない人には少々キツイかもしれません。 操作系は特に問題ありません。 メッセージスキップが「R+A」or「R+B」というのが押し難かったですけど。 あとこれは残念なことですが、 DC版はミュージックモードとグラフィック観賞モードがありません。 これはちょっとマイナス点ですね。 PS2版ではあるようなので安心安心。
6−ちょいと物申す 微々たる物ですが欠点が無いという訳ではありません。 連作故の魅力があるのは確かですが、連作故の柵もまたあるのですから。 DC版は完結までに3作、PS2は完結までに2作を要します。 勿論、一気に発売される訳ではなく期間をおいての発売です。 このタイムラグがどうも惜しいと思うんです。 なお、前・後編に分かれていた「ファミコン探偵倶楽部」や「神宮寺三郎・危険な二人」を思い出しました。 まず、プレイ期間が空くと言うこと。 私はDC版全3本が発売されてから一気に片付けたので問題ありませんでしたが、 (プレイ期間が空くのが嫌で完結編が出るまで未開封でした) 1本づつ遊んだ人は再プレイしなければ記憶に残っていない状態だったことでしょう。 「鉄は熱いうちに打て」ではないですが、やっぱり熱をあげている時に続きを見たいものです。 今度のPS2版も1本につき3話しか入っておらず、 残りの3話は来年2月までお預け状態になります。 今回の場合、どうしても我慢できない人はDC版で補完できますけどね。
また、傍から見れば「複数のシナリオがあってどれからも自由に遊べる」という手軽さがあるように見えますが、 一つ一つのシナリオを順を追って遊ばないと物語全体の理解は全くもってできません。 逆に言えば、遊ぶ順番を間違えるとつまらない作品に成り下がってしまう可能性があるのです。 各話がオムニバス形式の短編集という位置付けではなく、きっちり時間軸に沿っての事件である以上、 どのシナリオからでも遊べると言うのはプレイヤーの興味を半減させるネタを提供してしまいます。 時間軸に沿っていると後の話の中にどうしても前の話のネタバレ的な要素が含まれてしまいますから。 (それに気が付くかどうかはプレイヤー次第なのですが) 当然、2作目や3作目から買った新規ユーザへの配慮というのを考えてのことだと思いますが、 前の話を遊んでいないと理解できない内容では結局のところ配慮が足りないのと同じです。 結局は理解できなくて旧作を購入するでしょうけど、果たしてそれは正しいのかなと思ってしまう訳です。 それだったら順を追わないと話が進まないようにしても良かったのではないか、と。 先発のDC版は流石に仕方が無いとしても、 後発のPS2版はDVD2枚組で全話収めて発売して欲しかったと思います。 その場合、発売までに時間がかかっても構いませんし少々値段が割高になっても構いません。 待つ価値・高い金を払う価値、そういった価値を持っている作品なのですから。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 幾つか厳しいことも述べましたが、非常に魅力的な作品なのです。 (私の紹介でどこまで魅力が伝わったかどうかは疑問ですが) 取っ付き易い「柔」の部分を持ちつつ、かなりの推理力を求められる「剛」の部分も持ち合わせている、 冒頭で述べた「柔と剛を兼ね揃えた」にはそんな意味があります。 とにかく、ADVでは命となるストーリーと登場人物に隙が無いです。 このレベルの高さは本物だと断言できます。 最後にもう一度。 DCかPS2をお持ちで推理ADVに興味のある方、必ずプレイしてください。 はっきり言ってプレイしないと損します。
と、成美さんも申しておりますので。 |