Yayoi's Detective Office - マージ 〜作品評価〜




『マージ 〜MARGINAL〜』に関して、私なりに評価してみたいと思います。
なお、Windows版とPS2版をプレイした結果を元に書いています。
システム面の話は別記しましたのでそちらを御覧ください。


非常に面白かったです。
小林且典氏初の18禁作品として注目された作品でしたが、その使命は全うしていると思います。

まず、ストーリー全体の安定感は流石。
一見、本筋とは全く関係ないような話も展開されるのですが、
最終黒幕を意識させる伏線ははってあり、ストーリー全体が良くまとまっています。
個別にシナリオを見ても一筋縄では済まない(終わりそうで終わらない)展開で楽しいです。
キャラクターの個性も巧妙に表現されています。
複数キャラを攻略できるゲームでは、飽くまで横の繋がりが無く1対1で接するタイプと、
キャラ同士で横の繋がりがありつつ1対1で接するタイプがあります。
本作品は後者にあたるでしょう。
後者は横で繋がるサブキャラの個性を潰したり薄っぺらいものにしてしまうケースがありますが、
本作品ではサブキャラの個性を潰す・置いてきぼりにするような展開はないです。
どのシナリオでも脇を固めるキャラクターの位置付けというのが明確で、
全体を通してみると全員が館の中で暮らす「仲間」「家族」なんだなあと納得できます。
物語の全貌を見るためには必ずマージの話をプレイする必要がありますが、
核心部分に迫るマージシナリオの後半はシナリオ的にマージが中心であれど、
ちゃんと各々のキャラの持ち味を生かした展開が待っている
のです。
プレイヤーに贔屓キャラは存在しても、贔屓キャラの魅力は他の存在無くして際立ちません。

具体例を挙げれば、私の場合はエリカがそうでした。
第一印象では性格的に一番嫌いなキャラだったのですが、
アメリアやこのはやマージのシナリオで彼女なりの想いを持って奮闘する姿に、
物語には無くてはならない存在−館に住まう「家族」だったんだなあと気が付きました。
私の贔屓キャラであるマージやアメリアの魅力はエリカ無くして引き出せなかったと思います。

マージと言う作品の中で不要なキャラは全くいません。
一人でも抜けると作品としては成り立たないのです。
そこまで思わせるほど各々の個性がストーリーにしっかり浸透しており、
館に欠かすことが出来ない「仲間」「家族」なんだなあと思えるようになります。

この辺の巧妙さは流石数々の良作を生み出してきた小林且典氏かと。

ただ、全体的にまとまってしまったことが、今の世間の評価になってしまってるのかなあとも。
勿論、作品単体として見ると評価は高い部類だと思います。
キャラクターの個性も、プレイヤーに伝えたいメッセージも、きっちり表現できてはいますが、
他の作品を凌駕するインパクトは薄かったような気がします。
一つ例を挙げれば、二次創作が活発になるような要素は薄いかなあということ。
実際、特定キャラの爆発的な人気でブームに火が点くゲームがあることからも分かるように
ストーリーだけでは物足りないということもある、というのが悲しいかな現実であるのですから。
それでもマージあたりは結構いけると思ってるのですが。
(結構出回っていたらスミマセン。私の知識不足っす。)
プレイした方々の評価もそれなりに高いものの世間の知名度はイマイチな
「隠れた名作」的位置付けになってしまっているのが非常に惜しいところです。
ただ、あれだけの数が出ている18禁ゲームの中では、
同じような「隠れた名作」的位置付けにある作品の中に埋もれてしまうのは仕方ない気もします。
そもそもメイド物という尽くされることに重点を置いたジャンル自体が食傷気味ではなかと思うのですが。

また、これはシステム面での不満に当たるのかもしれませんが、
ネタバレ満載のマージやフィン・ファムを先に攻略してしまうと
他キャラのシナリオが薄っぺらく感じられる
というのが勿体無かったなあ、と。
個々のシナリオの出来は前述した通り素晴らしいので余計残念に思えます。
どうせならSNOWや静寂は闇の調べのように攻略順番を決められていた方がよかったでしょう。
ストーリーの核心に迫る部分は結局一本道なのですから。
逆に言えば攻略順を自由にしなければならない必然性は感じられませんので。
バッドエンドになると「マージは最後にやった方がいいよ」と言われますが、
バッドエンドになる確率があまりに低いであろうこのゲームにおいては後の祭り。
実際、私はマージシナリオを最初にプレイしてしまいましたし。

まあ、マージを好まない方々にとっては作品の評価は微妙でしょう。
複数人物の攻略はでき、夫々の個性も表現されているとは言え、
物語の真相はマージのストーリーが孕んでいるので抵抗があるかもしれません。
ただ、マージシナリオでどのキャラも魅力的に描かれているから救われてると思いますが。

最後に後発のPS2版について少々。
PS2ではフィン・ファムは別々に攻略できるし申し訳なさ程度だがミラルカのシナリオもあります。
申し訳なさ程度とは言え、ミラルカを救えるというのはポイント高いです。
(PS版ドラクエ4でデスピサロとロザリーの裏シナリオがあったのと同じくらい救われる)
殆ど差し替えになってしまった音楽も悪くないので心配することはありません。
(唯一、緊迫したシーンで流れる『コーラス・ミサ』という曲だけは大不満であるが)
ただ、Hシーンの改変は正直微妙。
中途半端に性行為を促すよりは接吻あたりで止めておいた方が良かったと思います。
一応、精霊力を回復させるなどの理由があっての性行為もあるのに
描写自体が呆気なくてオマケみたいな印象を受けてしまうからです。
まあ、移植としてのプラスアルファ部分は満足できるレベルでした。
なお、DC版は後々購入してプレイするとします。

残念な部分を差し引いても及第点以上の良くできた作品です。
余程18禁ゲームに食傷気味で度肝を抜かれる刺激が欲しい、という方以外には安心して薦められる
そんな良作と断言致します。

なお、病気の時は桃缶、これは必ずです。