イメージ つるし雛のふるさと 稲取温泉を訪ねて

つるし雛
└ 優しい表情の稲取つるし雛
伊豆稲取温泉では、昔から桃の節句の際、
雛壇の両脇につるし飾りを飾ります。
これは、母親が初節句を迎えた娘の幸せを
祈り、はぎれで作ったぬいぐるみを竹ひごの
輪から赤い糸に下げて飾る、江戸時代から
伝わる風習です。

この風習は、普段私たちが目に見えない
神や仏に手を合わせ祈るのとは異なり、
願い事をぬいぐるみという具体的な形に
しているところに特徴があります。

今回はつるし雛の故郷、伊豆稲取温泉に
皆様をご案内したいと思います。
1月20日から3月31日までの約2ヶ月間は、
稲取温泉雛のつるし飾りまつりが開催され、
温泉街がつるし飾り一色に彩られます。
そんな路地を歩いていると、自然と心地よい
気分にさせられてしまうものです。

私自身、このつるし飾り祭りに来ることが、
自分の中での行事となってしまいました。
ひとつひとつに思いを込めて縫われている
つるし雛は、それぞれに違った表情があり、
毎年訪れても飽きることはありません。

さっそくつるし飾りで彩られた商店街を抜け、
雛の館「むかい庵」に足を進めてみることに
しました。
這い子人形
└ 可愛さに衝動買いをした這い子人形
舫石
└ 今も港に残る舫石
稲取漁港
└ 静かな稲取漁港
稲取駅前から緩やかな坂道をしばらく下ると、稲取漁港のT字路に突き当たります。
そこで私たちの目に飛び込んでくるのが、穴の開いた三つの大きな巨石です。
これは舫石(もやい石)といって、漁業が盛んだった昔に船を繋ぎ止めて置く為に
使われたものでした。

この舫石は稲取東町の正定寺北側の防波堤付け根にあったもので、当時はこのほかに
向井の浜などにもあったと言われていますが、港の埋め立て工事などが始まった頃から
その姿を消してしまったようです。
いつの頃から使われ始めたかは不明ですが、現在では東伊豆町の指定文化財として、
町の文化と共に大切に残されています。

また伊豆稲取は金目鯛漁の盛んな港町で、繁華街には金目鯛料理を扱った料理店が
多数軒を連ねています。
金目鯛は、伊豆大島から八丈島にかけての深い海を回遊する深海魚で、金色に光る目と
鮮やかな赤色に特徴があります。
煮魚でも刺身でも美味しく、地元ではよく祝いの席などに用いられることが多いようです。
稲取漁港に水揚げされる金目鯛は、伊豆大島近海で採っているため、他にものに比べて
脂の乗りが良いという話でした。

港の朝市
地元の海産物や野菜が即売されています。
場所: 東伊豆町役場横
期間: 毎週土日・祝祭日実施
時間: 午前8時〜12時(売り切れ次第終了)

畳石
└ 江戸城修築にまつわる畳石
舫石のあるT字路を左折すると、間もなく
大きな石のある家の前を通ります。
この石は稲取の畳石と言って、東伊豆町の
指定文化財として古くから知られています。

徳川家康の命令で、慶長10年(1605年)
から始まった江戸城大修築は、三代将軍
家光の時代(寛永13年)まで続きました。
その頃、課役大名の土佐藩主「山内忠義」の
石丁場が稲取に置かれ、数多くの築城石を
採取し江戸幕府へ運ばれたとのことです。

この石には、「御進上松平土佐守十内」と
刻記されていて、その内の代表格である
ことを示しています。
つるし飾り
└ 展示されていたつるし飾り
手作りの小物類
└ 売られていた這い子人形や小物類
畳石を抜け玄関先にお邪魔してみると、その中には沢山のつるし飾りが展示されていました。
この家は、毎年訪れる常連客に「石のある家」と親しまれていて、可愛らしい這い子人形や
小物類・金つばなどの和菓子も売られています。
実は、私が所有している這い子人形も、数年前にこの家で購入しました。
伊豆稲取温泉では、この時期つるし雛製品が多数販売されていますが、購入する際に
認識しておきたいポイントを、ここで少し書いてみたいと思います。

売られているつるし雛製品には、旅のお土産品として低価格で販売されているものと、
民芸品として手間暇かけて作られたものとがあります。
旅の記念品として雰囲気だけを楽んだり、知人などに気軽にプレゼントするのであれば
前者のもので十分ではないかと思うのですが、民芸品に興味があり一生ものとして
大切にしたい方は、多少高額にはなりますが後者のものをお薦め致します。

後者を購入するポイントとしては、まず“稲取ももの会”という表示が出されているお店を
探しましょう。
また、その表示を出している店で販売されているものは、地元の人たちがひとつひとつ
手作りで作成しているようです。
正絹を使用しているため、値段は多少高価にはなりますが後悔することはないでしょう。
私が這い子人形を購入した家も、1人の人が手間暇かけて制作しているとのことでした。
このような話も、町を歩いてみないとわからないことですので、気に入った表情の人形を
ご自身の足で探して歩くのも、ひとつの楽しみになるかもしれません。


稲取ももの会
稲取で作られたものだけを扱い、販売した製品は販売した店で責任を持って対応することを
目的として発足された高品質安心のマークです。
製品には稲取ももの会のシールが添付され、販売店とその連絡先が明記されています。
問い合わせ: 東伊豆町商工会 TEL 0557-95-2167

※上記はあくまでも、初めての方が最もわかりやすいポイントとしてまとめてみました。

貴重な雛人形
└ 江戸時代から残る雛人形
むかい庵
└ 雛の館「むかい庵」
館内
└ むかい庵の館内
むかい庵のつるし飾り
└ 展示されていたつるし飾り
1年ぶりに訪れたその家で、おかみさんとの楽しい会話に夢中になったのち、そこから
徒歩5分の場所にある雛の館むかい庵へと足を進めることにしました。
青い海と大きな松が印象的な、海岸沿いに建つメイン会場のひとつが「むかい庵」です。
館内に入ると、江戸時代から残る雛人形や沢山のつるし飾りが迎えてくれました。

このむかい庵の特徴は、かなり古くから残る貴重な雛人形や、つるし飾りが多いことが
挙げられます。
雛のつるし飾りは、戦争などの歴史的背景により途絶えてしまっていた風習でしたが、
数年前に地元のお母さん方の手により、復活することができた貴重な遺産です。
別名「桃飾り」とも呼ばれている五十種類余りのつるし雛には、それぞれに謂われがあり、
代表的なものとしては、次のようなものが挙げられます。

桃・・・邪気悪霊を退治し、延命長寿の意味を持ちます。
桃の実は女性を象徴し、女の子の厄払いとも言われています。
早期に花が咲き、実が多いことから多産をも象徴しています。

巾着・・・お金が貯まり、困らないようにという意味があります。

這い子人形・・・「這えば立て、立てば歩めの親心」子供のすこやかな成長を願います。

その ひとつひとつに込められた意味からも、母親の娘に対する大きな愛情を感じずには
いられませんでした。

笠福
└ 庄内酒田の「笠福」
さげもん
└ 福岡県柳川の「さげもん」
雛の館「むかい庵」を出て、稲取港沿いを
しばらく歩くと、岬の突端に見えて来るのが
稲取東地区住民によって運営されている
「岬の館」です。

この施設は、1階が地元物産品の販売所で
2階がつるし雛の展示会場になっています。
ここの特徴は、日本三大つるし飾りが展示
されていて、1度に3種類のつるし飾りが
楽しめるということに尽きるでしょう。

福岡県柳川市の「さげもん」、山形県酒田市
の「笠福」、そして稲取温泉の「つるし雛」、
三者三様それぞれに趣が異なり、“土地柄”
の違いを感じずにはいられませんでした。
つるし雛
└ 稲取温泉の「つるし雛」
這い子人形と巾着
└ 小さな這い子人形と巾着
岬の館のつるし飾り
└ 色とりどりのつるし雛たち
岬の館
└ 昭和初期を感じさせる岬の館
また、思わず懐かしさを感じてしまうような
レコードプレーヤーや蓄音機なども一緒に
展示されていて、ノスタルジックな雰囲気も
楽しむことができます。

この岬の館は、地区の住民が運営している
ということもあり、館内全体にアットホームな
雰囲気が漂っているようです。
従業員の方々が気軽に声をかけてくれたり、
無料でお茶のサービスが行われていたりと、
メイン会場とはまた違った地元ならではの
温もりが伝わって来ました。

文化公園雛の館
└ 文化公園雛の館
文化公園雛の館
└ 雛の館を訪れる来遊客
館内
└ 文化公園の館内
文化公園のつるし飾り
└ 展示されていたつるし飾り
小さな這い子人形
└ こんな可愛らしい這い子人形も・・・
文化公園のつるし飾り
└ 色彩豊かな文化公園のつるし雛
岬の館から15分ほど歩くと、メイン会場でもある文化公園雛の館に着きます。
展示会場の中では最も広く、地元の人たちがそれぞれに持ち寄った多くのつるし飾りが、
会場全体を華やかに演出していました。
文化公園の特徴は、比較的新しい雛人形やつるし飾りが現代風に飾りつけられていて、
豊かな色彩とつるし雛の愛らしさを十分に楽しめるということに尽きます。
館内は通路の幅も確保され、段差も無いので車椅子での利用もとくに問題はなさそうです。

また期間中は、つるし飾りを題材にした絵手紙コンテストや旅館組合事務所3階に於いて
制作体験教室(予約制)なども実施されています。
さらに伊豆稲取は温泉が豊富で、文化公園や温泉街にも観光客が無料で利用できる
足湯も設置されていることから、歩きつかれた体を癒すには最適な場所です。
近くには、動物たちと触れあう伊豆バイオパークや熱川バナナワニ園などの観光施設、
隣の河津町では早咲きの河津桜も咲き、女性のみならずご家族皆さんで楽しむことが
できます。

二ツ堀みかん園
└ 旧家を利用した展示場
二ツ堀みかん園にて
└ 東伊豆町は柑橘類が名産です。
文化公園を出て今回最後に向かったのが、温泉街から少し高台に上がった場所にある
二ツ堀みかん園です。
小さな細い坂道を登って行くと、そこには確かに昭和30年代以前の風景が残っていました。
その重厚な佇まいの旧家を見て、思わず懐かしさが胸の奥からこみ上げて来たのは、
自分が日本人であるからかもしれません。
旧家に展示されているつるし飾りには、かなり古くに作られたものもあり、それはまさに
“つるし雛たちの故郷”と呼んでも過言ではないような情景でした。

むかい庵、岬の館、文化公園、そして二ツ堀みかん園と見て歩いた今回の散策、
どの場所のどのつるし飾りも、それぞれに優しい表情をしていて、本当に良いものを
見せてもらったというのが実感です。
過去から現代、そして未来へと受け継がれていく素晴らしい心の遺産、つるし雛の故郷
伊豆稲取温泉へぜひ一度お越し下さい。
可愛らしいつるし雛たちが皆様が来るのを待っていますよ。^^

【期間中のつるし雛展示会場】

雛の館むかい庵
以前は雛の館「富岡邸」で展示されていましたが、稲取温泉の旅館組合が
平成16年より展示会場として富岡邸に代わり新たに開設した施設です。
明治から昭和初期に作られた貴重なつるし飾りを中心に展示されています。
入館料: 200円
開館時間: 9:00〜17:00(16:30受付終了)
駐車場: 有(大型バス駐車可)

文化公園雛の館
雛の館むかい庵と共に旅館組合が主催するメイン会場。
地元の人たちが、それぞれに手作りで仕上げたつるし飾りを数多く展示しています。
毎年2月8日に行われる針供養や、3月3日の桃の節句にはジャンボ雛壇などの
各種イベントが行われています。
入館料: 200円
開館時間: 9:00〜17:00(16:30受付終了)
駐車場: 有(大型バス駐車可)

なぶらとと
金目鯛料理が評判のレストランや名産品の販売、地元文化の紹介を行っている
町商工会運営の小さな複合型観光施設。
期間中は、つるし飾りの展示会場として賑わいをみせています。
ちなみに“なぶらとと”とは、「魚の群」といったような意味だそうです。
入館料: 100円
開館時間: 11:00〜15:00
定休日: 火曜日
駐車場: 有(普通乗用車6台程度)

岬の館
稲取東地区の住民により、平成17年より新たに展示会場兼物産品販売所として
営業を開始した施設。
1階が地元物産品の販売所、2階がつるし雛の展示会場になっています。
稲取温泉の「つるし雛」、福岡県柳川市の「さげもん」、山形県酒田市の「笠福」が
展示され、日本三大つるし飾りを1度に楽しむことが出来ます。
入館料: 200円
開館時間: 9:00〜16:30
駐車場: 有(大型バス駐車不可)

二ツ堀みかん園
敷地内にある農家を利用して、つるし飾りを展示しています。(観覧無料 16:00まで)
趣のある旧家と、展示しているつるし飾りが口コミで評判になり、期間中には
多くの観光客が訪れています。
稲取温泉街より少し高台の場所にあり、伊豆大島を眺めながらのみかん狩りが
家族揃って楽しめます。
みかん狩り: 10月〜6月(無休)
営業時間: 9:00〜17:00
休業期間: 7月〜9月
駐車場: 有(大型バス駐車不可)
TEL 0557-95-2747

雛のつるし飾り制作体験教室(事前予約が必要)
場所: 稲取温泉旅館組合事務所
期間: 1月20日〜3月31日
問合せ先: 稲取温泉旅館組合 TEL 0557-95-2901

幻想雛の夕べ(10周年記念イベント)
幻想的にライトアップされたつるし飾りを楽しめます☆
場所: 文化公園雛の館
期間: 平成19年3月1日〜3月31日
時間: 20:00〜21:30(予定)
入館料: 200円(稲取温泉旅館組合加盟旅館宿泊客は無料)

□■ 稲取温泉全景パノラマ写真≫
雛の館の位置関係も確認できます。

※各展示会場の開館時間及び料金は2007年1月現在のものです。

● 関連リンク
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東伊豆町観光協会(イベント情報・観光情報)
稲取温泉旅館協同組合(宿泊情報・観光情報)
伊豆急行のホームページ(時刻表や運賃)
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