怪しい日記 西暦2004年10月
10月26日
 企画を練っていて最近痛感するのが、「私はネーミングセンスがない!」ということです。
 2年前の時点で編集さんに言われていたんですが。
 第一印象を左右するので、担当さん相手でも読者相手でも大事だと思うのですが、私の考えたタイトルはどうにもあか抜けないというか、つまんなそうです。あーでもねー、こーでもねーって頭ひねって、ひねってるうちに元のところにもどってきます。やれやれ。
 なにか一つのパターンにとらわれる、柔軟性の乏しさが問題ってことでしょうか。
 いいタイトルとは、意味深で、響きが新鮮で、覚えやすいもの。
 たとえば最近のライトノベルだと、野島けんじ「鳥は鳥であるために」とか。
 このタイトルには惹き付ける力を感じます。鳥とは何の比喩だろう? と思った瞬間、術中に落ちています。
 なんか「逮捕しちゃうぞ」のオープニングテーマみたいですが。
 いや、「僕は僕らしく僕であるために〜♪」という歌があったんですよ。
 歌の名前は「僕であるために」。なんかボクばっか。でもいい歌です。
 あと考えているのは、日常と非日常の対比とか。
 ダメ主人公が非日常に触れて、覚醒したり成長したり覚悟して「変わる」のはエンターテインメントの基本ですが、非日常にどっぷりつかって日常との区別がなくなっちゃうといろいろなものが色あせてしまう。むずかしいものです。
 
 今さらですが、古い掲示板を削除しました。
 
 あとサイト紹介。
 D.B.E二一型
 私が最近、一番気に入ってるニュースサイトです。
 オタクいじり系とか歴史ネタとか軍事ネタとか。
 おお! とか、ぷぷっ! というネタが毎回紹介されてます。
 リンクが充実してるのもいいですねえ。
 このサイト名は「にじゅういちがた」ではなく「にいいちがた」と読むのであろう、などと浅い軍オタぶりを披露してみたり。
10月23日
 増田「今週の台風は凄まじかったねー。ちょっと計算してみたんだけど、『降雨量二百ミリ』ってことは、『1平方キロあたり20万トンの雨が降る』ってことなんだよ。こう書くと凄いよな。たった1キロ四方に戦艦大和が3隻突っ込んでくるんだよ! ビスマルクなら5隻だよ! 水だってそれだけ集まれば凶器だよ!」
 脳内アシスタント1号「死者60人ですからね」
 増田「ただ、かつて台風は5000人の死者を出したこともある。被害が100分の1に減ったと考えれば大変素晴らしい。治水や防災のためにがんばってきた人々の健闘をたたえるべきなのかも。などということを、小川一水『復活の地』完結編を読みながら考えた」
 脳内アシスタント1号「増田さんは台風の日はどうしてたんですか」
 増田「バイク便のお仕事してた。埼玉とかを走ってた。なんか先週は忙しくて2000キロも走ってしまった。ガソリン代だけで1万円だよ!」
 脳内アシスタント1号「バイクがあっという間にボロボロになりますね」
 増田「そうなんだよ。今乗ってるVTR250を買ってから20ヶ月、その間に走った距離は12万キロ、ガソリン代は60万円、オイル代が10万円、ブレーキパッドが10万円、タイヤは6万円、チェーンが6万円くらいかなあ。あらためて考えると金使ってるなあ」
 脳内アシスタント1号「バイクを題材にした小説書いて、もとをとるとか」
 増田「それは考えた。なにしろ毎日やってることだから生の経験がいっぱいあって、これを使わない手はない。だが……バイクを題材にしたライトノベルで成功したものってあっただろうか……」
 脳内アシスタント1号「そもそも、バイクなんぞを題材にしたライトノベルありましたっけ」
 増田「いや主人公がバイク乗りとか、バイクアクションシーンのあるライトノベルならある。でもバイクが中心ってのは……」
 脳内アシスタント1号「青春もの風に書くんですよ。うじうじダメ少年の主人公が、バイク乗りのカッコイイお姉さんに恋をして、振り向いてほしくてバイクに乗りはじめるんですよ」
 増田「悪くはないけど……バイクの技術的なこととかライダーの皮膚感覚的なことは書けるだろうけど、その話はたぶん、『単なるバイク友達と恋人のグレーゾーン』をいかに描くか、ということがキモになるだろう。うーむ」
 脳内アシスタント1号「やる前から難しい難しいっていってたら何にもできませんよ」
 増田「それに、バイクに乗って恋をするだけならあんまりライトノベルじゃない気がするぞ。SF的なネタを入れてみるとか、もっとひねろう」
 脳内アシスタント1号「増田さんは話をひねろうとして真っ二つに引きちぎってばっかりですね」
 増田「うるさいなあ」
10月17日

 増田「さて、今日も日記いってみまーす」
 脳内アシスタント1号「また対話形式なんですか?」
 増田「『対話形式は10年前のライトノベルのあとがきみたいで懐かしい』とか『自虐日記をやってるうちは誰にも迷惑をかけない』とか、みんな誉めてくれるんだ」
 脳内アシスタント1号「……ほめてる……のかなあ?」
 増田「まず追悼。SFの大先達、矢野徹さんのご冥福をお祈りします。矢野さんの著書訳書リストをみて『偉大な方だった』と改めて思ってます」
 脳内アシスタント1号「で、増田さんはこのうち何冊読んでるんですか?」
 増田「数えてみたら12冊でした」
 脳内アシスタント1号「たったそれだけですか」
 増田「あ、でもコンプティークで連載してたエッセイとか読んでましたよ! 当時すでに60歳を過ぎていたにもかかわらずコンピュータゲームを楽しみ、若い人と組んでガンガン小説を出していく姿をカッコイイと感じました」
 脳内アシスタント1号「かなりとってつけたような誉め方ですね」
 増田「ううう。でも『宇宙の孤児』とか好きなんだけどなあ」
 脳内アシスタント1号「『夏への扉』じゃなくてそっちが先に出てくるのって珍しいですね」
 増田「ジュブナイル化された『宇宙の孤児』を読んで、とても興奮した記憶があるんだ。ジュブナイルバージョンのタイトルは『さまよう都市宇宙船』といってね。あとに読んだ大人バージョンより面白かった気がする。世代宇宙船ネタはいずれ私もやってみたいです」
 脳内アシスタント1号「増田さんは精神の発達がジュブナイルSFで止まってるんですよね」
 増田「SFファンは永遠の少年であるべし、という言葉を知らんのか」
 脳内アシスタント1号「ハヤカワSFより電撃文庫のほうが10倍くらい読んでる人って、SFファンなんでしょうか……?」 
 
 脳内アシスタント1号「ところで本宮ひろ志さんの『国が燃える』が連載休止した件について」
 増田「私に政治的な発言をさせて何を企んでるんだ!? 釣りか? 釣りなのか!?」
 脳内アシスタント1号「増田さん被害妄想強すぎですよ(笑)」
 増田「まあそれはともかく。ああいう漫画である以上、日本軍の非道を描くのは筋がとおっています。『物語のために南京大虐殺の描写が必要であった』という確信があるなら、抗議ごときに屈することなく描き続けて欲しかったです。『抗議すれば漫画を潰せるんだ』という前例を作ってはならない、と思ってます」
 脳内アシスタント1号「で、作中の虐殺描写は正しいと思いますか?」
 増田「だからそれが釣りなんだよ! 君は私の口から何を言わせたいんだ?」
 脳内アシスタント1号「いやー、もっと左翼っぽくキャラを立てた方がいいんじゃないかなーと思って」
 増田「だってさー。両極端の意見しか認めない人が多すぎて、私はもう疲れました。南京問題は、他人にレッテルを貼って糾弾するための単なる踏み絵のような気がします」
10月11日
 友人と上野で会って、「この仏像かわいー」とかなんとか博物館をブラブラ見た後、喫茶店でだべりました。
 主な話題は、こないだ完結した田中ユタカ「愛人」について。
 2人ともこの漫画好きなんですけど、「どこに感動したか」という点がまるで違うことがハッキリしました。
 私は、「人の命は有限だ。だから全力で生きよう!」みたいなパッションを受け取って心が震えました。
 私にとってこの物語は、愛の物語というより、決意と誇りの物語、「君は笑って死ねるか? 後悔しない生き方ができるか?」という物語です。
 しかし友人にとっては、あくまで愛の物語でした。
 感性の違いなのか人生経験の違いなのか、やはり私と他人では見えるものが違います。
 そうであるからこそ話し合ってつきつめてゆくのは楽しいことでした。
 それから、「同じストーリーでも、作者が人間に対して持ってる認識の深さや細やかさが違うと、ぜんぜん違う話になる」という友人の言葉が、じつに痛かったです。
 ストーリーは理論で組み立てられますが、「人間への認識の深さ」ってのは作者の人生経験がまるごと問われてるわけです。ごまかしはききませんし、足りない時は、何が足りないのかもピンとこない。
 おのれをかえりみて、ため息ひとつ。
 
 上の話題とは全然関係ないですが、サイトを紹介します。
 北岡明佳の錯視のページ
 眼が! 眼がぁぁ!
 異次元体験まちがいなし。
10月7日
 増田「うーん、いいなあ、藤子F先生」
 脳内アシスタント1号「どうしたんですか」
 増田「『ドラえもん』を題材にしたFLASHムービーを見ていて、感動したんだよ。やっぱドラえもんの映画はジュブナイルSFの基本だなー。『少年期』いい歌だなー。でもぼくが一番好きなのは『鉄人兵団』なんだなー」
 脳内アシスタント1号「子供の頃を懐かしむのはちょっと早すぎるんじゃないかと思います」
 増田「いやあ、基本というか自分の根源にかえるのは大切だよ。ドラに限らず、ぼくの基本はわりとF作品だと思う。古株マンガ家の中では一番親近感を感じる。F先生はオタクに優しい。すごく優しい。オタクという言葉を使ったことは一度もないと思うけど、でも『自分の趣味をあくまで追求する』生き方を肯定する。模型とか。
 『ラジコンが子供っぽいだと!? わしは49歳のラジコンマニアだ。
 そもそも男はメカに狂ってこそ当然! 興味もないというほうがおかしいのだ!』

 という熱すぎる台詞もある。F先生がいまも生きておられたなら、ネットゲームや美少女フィギュアのことも深く理解し、きっと肯定してくれたに違いない!(力説)」
 脳内アシスタント1号「そ、そうですかねえ?(ちょっと引き)」
 増田「あと、オタクの暗黒面とでもいうべき『現実逃避』もしっかりうけとめて、優しく描く。F作品にでてくる少年たちは繊細で、臆病で、クヨクヨと後ろ向きに悩んで、ときに逃げる。『恋人製造法』という『気弱な少年が、好きな女の子に告白できなくて、だから好きな女の子のコピーを作って、部屋の中に閉じ込めて育てる話』がある。ぼくが好きな話なんだけど。最終的に少年は、楽しい夢を切り捨てて現実に戻っていく。ようするに通過儀礼なんだけど、でも夢の中で学んだことは彼の血肉になっている。ウジウジダメッ子への暖かいまなざし。いいなあ」
 脳内アシスタント1号「増田さんも好きな女の子のコピー作って育てたいんですか?」
 増田「なんでそっちに行くんだ!」
 脳内アシスタント1号「成長の話ならいいんですけど、ドラえもんの場合、いつまでたってもダメなのび太くん」
 増田「永遠に終わらない物語を書け、という欲求に答えた結果だよ。終わっていいなら成長させられる。もともとF先生はダメ人間にたいして愛があるから、という理由もあるのかもしれないけど」
 脳内アシスタント1号「そういうもんですか」
 増田「あと、F先生が短編なんかで描く少年は、悩みがすごく共感できる。ぼくが『世代によって感性がちがう』というたぐいの物言いをあまり信じないのはF先生がいるから。戦前(1934年)生まれのじいさんが、41歳も年下であるぼくの感じている焦燥や不安をすくいとってしまえるんだよ?」
 脳内アシスタント1号「ようするに増田さんは女の子コピーして家の中で育てたいんですか?」
 増田「ちがうよ!」
10月3日
 今日も原稿書き。
 
 田中ユタカ「愛人(アイレン)」白泉社ジェッツコミックス
 の5巻を読みました。
 連載の終了から2年、ながーい沈黙の期間を経て、ようやくでた完結編です。
 今回まとめて読んでみて、2年前とまったく同じ箇所で感動しましたよ。
 人間は永遠には生きられない。もちろん私も。
 こうして息を吸いiBookのキーを叩いている間にも、一秒また一秒と人生は削られていく。
 当然のことだけどなかなか実感できない事実を、この本は私に突きつけてくれます。
 「いつまでもしあわせにくらしました」「めでたしめでたし」
 は世界のいかなる場所にもあり得ないことを。
 そして、「かならずやってくるおわり」をみすえて、わずかともいえる時間を精いっぱいしあわせに生きることがどんなに凄絶でとほうもない戦いなのか、ということを。
 私は「おわりの時」、ほほえみをうかべることができるだろうか?
 ほほえみをうかべるためにやるべきことはなんだろう? これでいいのか?
 しばらくのあいだ、自問しました。
10月2日 
 ネタその1

 増田「最近、このゲームをよく遊んでます。『艦砲射撃!』
 脳内アシスタント1号「戦艦のゲームですね」
 増田「そうそう。放物線を描く弾をあてるのがいかに難しいか、航空機の猛爆撃というのがどんなこわいものか、実感できる良作です。架空戦記で『回避行動を取ってしまったら射撃データを一からあつめ直しになり、弾が当たらなくなる』って場面がありますけど、それがどういうことなのかよくわかりますよ。難しいだけに『ガーン! ガガーン!』と連続命中した時の喜びも大変なものです。戦艦好きには自信を持っておすすめです」
 脳内アシスタント1号「戦艦が好きなら、戦艦が出てくる小説とか書かないんですか?」
 増田「予定はないです。残念。どう歴史をいじれば今でも戦艦が存在しうるかとか、説得力ある宇宙戦艦の構想とか面白そうなんですが。何らかの理由で飛行機を弱くしてミサイルを弱くしないと現代戦艦は無理っぽい。他の惑星なら簡単なんですよ。この惑星は重力が大きくて大気が薄いから飛行機は飛べませんってことにすれば」
 脳内アシスタント1号「惑星の重力が大きくなったら大気も濃くなるのでは?」
 増田「そうとも言い切れないです。大気密度と関連するのは重力じゃなくて脱出速度だから。高密度な惑星を想定すれば、表面重力が大きくて脱出速度の小さい星は作れる」
 脳内アシスタント1号「戦艦のために星まで作らないで下さいよ」
 増田「なにをおっしゃる。『合体戦車空母のためにポールシフト』とか『オンナノコ軍隊のためにウィルスばらまき』とか、そういう架空戦記もあるのです。ホラはでかいほうが説得力がある」
 脳内アシスタント1号「そうやって架空戦記をむりやりSFにする人って、どうなんでしょうね?」 

 ネタその2

 増田「こないだ『ふだんどんな本読んでるの?』って言われて……」
 脳内アシスタント1号「はいはい」
 増田「『ファンタジアバトルロイヤル』を持っていこうとしたら」
 脳内アシスタント1号「無難なチョイスですね」
 増田「間違って『二次元ドリームマガジン』を持ってきてしまった
 脳内アシスタント1号「間違えないで下さい!」
 増田「だって似てるし」
 脳内アシスタント1号「どこも似てませんよ!」
 増田「仕方ないので開き直って『ティッシュケースがついてるんだぞ! すげぇだろ!』と自慢した」
 脳内アシスタント1号「……」
 増田「それ以来、みんなが妙にやさしいんだ」
 脳内アシスタント1号「……」


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