浄化装置は東京農大の2ヶ所の池に設置しましたが、その中の比較的、澱んでいる池でカエルが毎年孵化するお話をお聞きしました。島野先生のご好意で執筆記事を掲載できる事になりました。 学術的でとても面白い内容です。
 東京農大農学部富士畜産農場 
家畜部主任 島野孝一先生の
 「アズマヒキガエルとモリアオ
ガエルの繁殖する農大のカエル池」
 というお話です。


写真は島野先生
 
 東京農大農学部富士畜産農場は、富士宮市朝霧高原の一角、標高830メートル、総面積58ヘクタールに畜産関係の実習教育・試験研究の充実を図るために設置され、乳牛60頭、肉牛70頭、豚150頭、家禽3000羽を飼養しています。農場は東西の農場に分かれ、毛無山寄りの西農場は学生宿舎や乳牛舎があります。アズマヒキガエルとモリアオガエルの繁殖する500u程のカエルの池も西農場にあります。この池は防火貯水槽として開場以来学生実習を見守って来ましたが、春はカエル達の楽園でもあります。
            

  写真1
 アズマヒキガエルは通称ガマガエルと呼ばれている大型のカエルでニホンヒキガエルの亜種です。体中にイボがあり鼓膜の後ろにある耳線から毒液を分泌し補食者から身を守っています。今年の場合4月12日に最初のヒキガエルを確認しています。一週間ほどで全員勢揃い、雌をめぐってガマ合戦が繰り広げられます。ペアが出来るとオスはメスの背中に抱き付きます。メスは5メートル以上にもなる卵塊を生み出し、雄は抱接(射精)します。生み出された卵は一週間程度で孵化すると言われていますが、この池は水温が低いためか十日ほど掛かって孵化し、母親の大きな体に似合わない小さくて真っ黒な幼生(オタマジャクシ)になり池の淵に黒い塊になって生活します。六月に入ると変態を始め八日に変態を完了した最初の幼体を確認しました。この頃になると池の周囲に分布していた幼生が一箇所に集結し(写真1)上陸の準備を始めます。1センチにも満たない何十何百万匹という幼体は何層にも重なり合い雨の日を待ちます。
 6月14日雨、本格的に降り出した雨を待っていたかのように大移動の始まりです。大半は毛無山方向に向って移動します。本隊は学生食堂の壁に沿って進みますが、受難の始まりでもあります。軒下の雨だれに弾き飛ばされて気絶するもの、建物の中に入り込んで出られなくなるもの、水路に流されてしまうもの、車に曳かれてしまうものなど数を減らしながら森に消えていきます。どの位のカエルが再びこの池に卵を生みに来るのか計り知ることは出来ませんが相当に運の良いカエルと言えましょう。私達ヒトの子がなかなかひとり立ち出来ないでいるのと比べると、何と過酷な運命を背負っていることでしょうか。


写真2
 一方池の樹上に泡状の卵塊を産み付ける事で知られているモリアオガエルは6月7日に産卵のピークを向えました。産卵は夜間に行われることが多くなかなか観察できませんが、運良く午前9時に産卵を開始した個体を観察することが出来ました。写真2は中央にメス、背中と両サイドにオス三匹が取り付いています。メスは一定の間隔をおいて産卵しては後肢を器用に動かして掻き混ぜ泡立てます。オスも時々お腹を絞るような仕草をして射精しているようです。時間も経過と共に泡も大きくなり三時間後ハンドボール大になって終了しました。泡は表面が直ぐに乾き膜を形成し中の湿潤を維持しているようです。
 アズマヒキガエルの産卵期間は4〜5日で終了しますが、モリアオガエルの産卵期間は一ヶ月以上にも及びます。アズマヒキガエルは水中での産卵と集団行動を選び、モリアオガエルは樹上での産卵と個別の行動を選んだ。これらの行動は捕食者から身を守る手段と思われますが、どうしてそれを獲得したのかと言う疑問に強い興味を感じます。アズマヒキガエルもモリアオガエルも環境の質や変化をはかる「指標生物」として用いられています。近年都市化の進行によって生物の生息環境は悪化の一途をたどっていますが、このすばらしい麓の環境が変わらないことを祈りつつ来年も彼等が訪れてくれることを願いたいと思います。