-- 第七話 --
えーっと……今回が本当に最後だ。
前回のおさらいはいつも通り却下な。
俺たちが部屋から出ようとしたら、部屋は完全に包囲されていた。
そして、俺と麻弓はその脱出作戦を決行することになる。
「麻弓、準備は良いか?」
「いつでも良いわよ」
「3、2、1、で行くぞ?」
「了解!」
俺はそっと扉に近づき、扉に手をかける。
麻弓と目線で合図を取り合う。
そして、俺は一気に扉を開けた!
「前世の頃から愛してました!」
奴はいきなり意味不明なことを言って俺に襲い掛かってきた!
(↑正確には抱きつこうとしているだけ)
俺はそれを瞬時に横へ動き、避けた。
「ちょ、土見君! なに避けてんのよ!?」
「しまった!」
避けるつもりじゃなかったのに……。
「ははは! 甘いな、稟!」
「仕方ないわね」
麻弓がロープを手にする。
どこから取り出したのかは触れないでおこう。
「さぁ! 緑葉君! 新しい世界へ旅立つのよ!」
「俺様、縛るのは好きだが、縛られるのは……」
「大丈夫♪ 痛みもすぐに悦びに変わるから♪」
「悪いけど、そういうのは一度で十分だ」
麻弓のロープから難なく逃れる樹。
だが、
「後がら空き」
「なに!?」
俺が樹の足を払うと簡単に樹は倒れてしまった。
そこを麻弓が手馴れた手つきで樹を縛り上げていく。
「ほらほら♪ こんなのはどう?」
「うぉぉぉ! こ、これはこれで……って、ちがーう!」
「今回はあまりノリがよくないわね」
そりゃそうだろ。
だって、簀巻き状態だもんな。
「ところでお前。なんでこんなところにいるんだ?」
「フッ。当たり前の事を聞くんだね、稟」
なんとなく返ってくる言葉が予想されるが、あえてちゃんと聞いてやろう。
「美少女あるところに俺様あり!」
「楓、近所に配るのはどれくらいいるんだ?」
俺は何事もなかったかのようにスルーする。
「え、えーっと……」
「ま、待て待て待て! ちゃんとした理由を話すから!」
さすがにこいつもこのままの状態でここには置いていかれたくないようだ。
「稟、この温泉旅館の名前を言ってみろ」
「は? えーっと、確か……」
確か、というが、本当はまったく知らない。
温泉旅館の手配はおじさんたちに任せてあったし、ここに着いた時は12人分の荷
物を持っていたから旅館の名前を見る余裕はなかったのだ。
「緑葉温泉旅館だ」
「……あまり考えたくないけど、つまりは?」
「ここ、俺様の親戚の旅館なんだ」
やっぱり……。
だが、それではこいつがここにいる理由にはならない。
「それで、昨日の夜、この旅館から電話があってね。稟たちがここに来てるのに、
俺様だけいないのがよほど不思議だったんだろうな」
「ちょっと待て。なんでお前の親戚が俺たちのことを知ってるんだ?」
「ホームページ」
「……ホームページ?」
いきなり何の接点もなさそうな言葉が飛び出てきたな。
こういうことは、俺より詳しい奴がいる。
「どういうことだ、麻弓?」
「土見君知らないの? うちの学園のファンクラブの連中が非公式ホームページ
を開いてるのよ?」
「……だから?」
「稟、相変わらず鈍いね。つまり、全国の一部の人にとって、俺様、稟、シアち
ゃん、リンちゃん、楓ちゃん、リムちゃん、時雨さんにカレハさんも結構有名っ
てこと」
「マジか?」
「マジマジ」
誰だよ、そんなことしだしたのは。
「シアちゃんとリンちゃんと楓とリムちゃんのページは圧倒的にアクセス数が多
いわね。噂じゃ、学園外にもファンクラブが存在するらしいわよ」
それは恐ろしいな。
だけど、それだけの情報を手に入れてる麻弓もたいしたものだ。
「リンちゃんリンちゃん。私達有名人なんだね♪」
「そうですね。しかし、誰が?」
ネリネの疑問については約2名、心当たりがある。即座にその人物を睨む。
そしたら、案の定、当たりらしい。
「どういうつもりですか?」
「いや、ネリネちゃんの魅力は、全国の方に知ってもらおうと言う事なんだよ」
「俺だってそうさ。シアの存在を全国に知らせねぇでどうする」
……親ばかもここまで来ると何も言う気が起きない。
「だけど、安心したまえ、稟ちゃん」
「……は?」
「そうそう。シア達には既に、稟殿って言う婚約者がいるって言う事も既に知ら
せてある。心配すんな」
それ、俺の敵が学園のほかに全国各地にいるということになるのか?
「……俺の味方って、どれくらいいるんだろうな」
いや、切実な願いだな。
出来れば、この人たちみたいなのじゃなくて。
……なんか、話がそれてないか?
「……いや、それまくってるな」
今ここで問題なのはホームページを立ち上げた奴がどうこうではない。
そのことに関しては後でシアとネリネに伝えるとして、今はこの歩くセクハラ大
魔人だ。
「なんか俺様、稟の中でどんどん格上げされている気がする」
心配するな、樹。
称号としては格上げでも、人間としては格下げだから。
「えーっと、話戻すけど、お前の親戚は俺たちのホームページを見て、俺達の事
を知ったわけだな?」
「ああ。正確には、俺様と稟のだけを見ていたみたいだけど」
気になるところだが、今その話題にもっていくとまた話がそれそうだ。
ここは一度スルーしよう。
「それで、お前に俺達が旅行にきていることが伝わって、俺達を追ってきたのか?」
「大体、稟。この俺様を置いていくとはどういう了見なんだ? 俺様を連れてく
れば、ただで泊まれたのに!」
「なに!?」
「そうだったのかい!?」
「……なに驚いてるんですか、おじさんたち?」
「だって、稟ちゃん! ただで泊まれるならそれにこしたことはないだろう?」
……お金払ってここに泊まるのと、樹に借りを作ってここに泊まるの、どっちが
賢明なのかは赤ん坊でもわかる事だぞ?
「おじさんたち、シアやネリネは大切ですよね?」
「「当たり前だ!」」
「じゃあ、これに近づけるのはやめておいた方が良いですよ」
簀巻きにされている樹を指差す。
「麻弓。俺様、稟からの扱いがすごく酷くなりつつあるんだけど?」
「その辺はもう少し自分の病気を治すよう心がけたらいいと思うけど?」
それは無理じゃないか?
こいつのは治らないし、治す気もないだろうし、自覚症状がない。
一番性質が悪い。
「しかし、緑葉。お前、置いていかれたからここまで追ってきたのか?」
「お言葉ですが、紅女史。俺様だけ除け者にする稟に問題があるのでは?」
樹に対する質問ににっこりとしてこう答えた。
「つっちーには何の問題もない。むしろ一番いい判断をした、と称えるべきだ」
いや、俺も無謀な判断はしないくらいの頭を持ち合わせている。
「そもそも、緑葉君を混浴の温泉に連れてくる、ってだけで明日には家族が増え
そうだし」
「大丈夫。責任はちゃんととるから!」
「……肯定しないでよ、怖いから」
大体、親戚にこんな危険人物がいるのに、混浴にするなんて無謀な事……。
「……まさか、混浴にしたのって、お前の発言が原因だったり……」
「混浴温泉のない温泉宿なんて許されるはずがない!」
「それはお前の脳内温泉だけだ!」
誰かこいつを止めてくれ……。
って言うか、無理か。
薬を得たヤクザ……もっと違う言い方無いかな?
「つっちー、もういい」
「紅女史?」
「こんな奴は放っておいても問題ない。むしろ、くたばらせた方が世のためだ」
激しく同感。
……なんだが、教師が教え子にそんな事言って良いのか?
「ねぇ、稟ちゃん。なっちゃんはああ言ってるけど、どうするの?」
「……放っておいても良いでしょ。皆、行こう」
皆で部屋から出ようとする。
「フッ、稟、麻弓。この俺様を誰だと思ってるんだ? 縄抜け位……あれ?」
樹がどれだけ体をくねらせても縄が緩む事はない。
と言うより、そんな簀巻き状態から抜けれる技を持ってるのもどうかと思うが。
「緑葉君。さっきの言葉、そのまま返すけど、私を誰だと思ってるの?」
「バーベナ学園のパパラッチ―」
ゴスッ☆
麻弓の容赦ない鉄拳が減り込んだように見えたが、気にしない。
「あいつ、縄抜け術なんか会得してたんだな」
「でも、何で抜けれないの?」
もしかして、騙されたんじゃないのか?
「土見君。的外れな事考えてない?」
「……かも知れんな」
「縄抜けの技の中でも唯一抜けられない縛り方があるのよ。それをいたる所にや
ってやったから」
「……お前も訳わからん奴だな」
「そんな事言う? また私のお財布をあたためても良いんだよ?」
くそ、向こうの方が抑える手段が多いか。
「りっちゃん。早くお土産買いに行こうよ」
「お母さん……状況わかってるの?」
天然って、こういう時は頼りになるよな。
「じゃあな、樹。せいぜい早急に発見してもらえるようにがんばれ」
「稟! 俺様を見捨てると言うのか!? 心友の俺様を!?」
「そうだな……」
樹の一言で今まで疑問に思っていた事への答えが出たな。
「樹……」
「稟……」
「お前の事は一生忘れないからな!」
そう言って俺は樹に背を向ける。
今まで俺が疑問に思っていた事。
何でこいつと友達になったのか。
俺は今日を境にこの事を忘れるとしよう。
後ろでなにかぎゃ―ぎゃ―言ってるが、気にしないでおこう。
とりあえず、チェックアウトを済ませて売店に向う。
それぞれ買い物を済ませ、世話になった旅館を後にする。
「しかし、今回の旅行は疲れた……」
「お兄ちゃん、楽しくなかったの?」
「まぁ、それなりには楽しめたと思うが、それ以上に疲れることが多かった」
今度は疲れないようなメンバーでいくことにしよう。
「稟殿。帰りは俺が運転―」
「却下!」
最初の時も思ったが、この人に運転させたら暴走しそうだ。
特に、追い抜かれるの嫌いそうだしなぁ……スピード上げるんだろうなぁ……。
「じゃあ、帰りも私が運転しようか」
「運転中に席はなれるようなことしたらシアの椅子アタックを喰らってもらうほ
かに、ネリネと口聞けなくしますからそのつもりで」
「……稟ちゃん、そこまで私が信用できないかい? そして、そこまでする?」
おじさんの質問に俺はにっこり笑ってこう答えた。
「信用できるなら、わざわざここまでしようとは思いませんよ」
運転中に娘の様子を見に来る?
ふざけんなんよ、この親ばか♪
「あの、リンさん。よろしければ、この酔い止めのお薬をどうぞ」
「ありがとうございます」
あっちはちゃんと対応策を立ててるし、これで魔王おじさんが運転中に席を立つ
事は……。
「まー坊。この地酒うまいんだってな。ちょっと飲んでみねぇか?」
「本当かい? それじゃあ、遠慮なく……」
「ネリネさーん。この人どうにかしてくださーい!」
「お父様。稟様がお困りになっているんですから、ほどほどに……」
「そうじゃなくてだな」
飲む事許しちゃだめでしょ。
「何なら、私が運転してやろうか?」
「……は?」
べ、紅女史?
今、なんと?
「どうやら、つっちーはこのお二人に運転させたくないようだし。こんな大型バ
スを運転できるものも限られるだろう?」
「……紅女史、大型車の運転免許持ってるんですか?」
「私はある程度の技術免許は持っている。それに、ほら」
紅女史はカード入れから免許を取り出した。
しかも、安全運転者の中の安全運転者の証、ゴールド免許だ。
「……さ」
「さ?」
「さっさと言ってくださいよ! そんな重要な事!」
「いや、まさかそこまで重要なものになるとは思わなくてな」
行きの時に言ってくれていれば、危うく事故になりそうだった事態も避けられた
のに……。
がっくりと地面に膝をつく。
「どうする、つっちー? その前に、大丈夫か?」
なんなんだろう、この敗北感。
「だ、大丈夫です……」
ま、まぁ……悩みの種が一つ消えた、ということで。
「紅女史、お願いします」
「あ、ああ……そこまで深々と頭を下げなくてもいいだろ」
それだけ気が重いんです。
「全員乗ったか?」
ざっと見て見ると、いないのは置いてきた樹だけだな。
「大丈夫です」
「そうか。なら出発するぞ」
帰りはゴールド免許を持っている紅女史に運転をお任せして、出発する。
「よっしゃ! まー坊、宴会だ!」
「もちろんだよ、神ちゃん!」
いきなり酒盛りか。
まぁ、出発まで耐えていただけいいか。
「稟殿もどうでい?」
「遠慮します。車の中だと酔いも早そうですし」
「そうか。それは残念だね。参加したくなったらいつでも言ってよ」
大丈夫です、絶対に参加しませんよ。
なぜなら。
「それじゃあ、まー坊」
「神ちゃん」
「「かんぱーい!」」
そう言って、酒瓶で乾杯し、そのままラッパ飲み。
これにあわせて飲めるか?
「なんか、見てるだけで酔いそうだな」
「稟君」
「? どうした、シア?」
「皆でトランプするんだけど、稟君もどう?」
トランプ……そういや、行きの時も参加して、見事に負けたんだったな。
雪辱戦と言う訳ではないが、まぁいいか。
「よし、やろう」
「土見君も参加、ということは」
「罰ゲーム方式、採用!」
結局そういうことか。
「それじゃあ、種目はババ抜きね。着くまでに一番多く負けた人が罰ゲームを受
ける。どう?」
それなら、俺が罰ゲームを受ける可能性は低くなる。
ここは、麻弓辺りに負けてもらえるとなんとなく嬉しい。
「それじゃあ、始めるわよ」
カードが配られる。
今回は……ジョーカーは俺の手札にない!
前回のような負けはない。
「うぅ、ジョーカーがあるよう……」
シア、自分で持っていると言ってどうする。
「……なんで、お前は何時も一番なんだよ」
「さぁ? 実力じゃない?」
最初にあがったのは麻弓。
次に亜沙先輩、プリムラ。
その後、順にあがっていき、今は俺とシアとカレハ先輩……。
「あがりですわ」
俺とシアの対決となった。
今まで俺のところにジョーカーが来なかった、ということは、まだシアが持って
いるのか。
このまま、シアのもとにジョーカーが残ってくれれば……。
だが、それは甘かった。
「……げ」
「やったー! 稟君がジョーカー引いた!」
く、くそ……だが、まだ負けたわけじゃない!
「土見君の負けか」
「稟ちゃん、こういうの弱いし……」
「もしかして、お兄ちゃんが罰ゲーム?」
「りっちゃん、また?」
「……なんで皆して俺が負ける事を確信してるの?」
なんか無性に腹たつぞ?
こうなったら、意地でも勝ってやる!
「ほら、シア!」
「う、うん……」
シアがジョーカーに手を掛ける。
「……(よし!)」
「う〜ん……」
今度は隣の普通のカード。
「……(あ、や、ヤバイ……)」
「……?」
またジョーカー。
「……(よし、引け!)」
「……」
シアがようやくカードを引く。
そして、俺の手に残ったのは……。
「……」
「エヘへ、あがっちゃった♪」
ジョーカーだった。
「くっそー……負けた……」
「りっちゃん、負け一つね」
このままじゃ、また俺が罰ゲームになる。
それだけは……それだけは!
「はい、ごちそうさま」
「……また?」
またしても俺の手にジョーかが残り、敗北が決定した。
まさに、罰ゲームへ一直線中の俺。
それに対し、麻弓は連勝街道まっしぐら。
罰ゲームの内容を決定するのは、勝ちが一番多い奴。
「土見君への罰ゲーム、なににしようかな♪」
絶対に阻止しなければ!
時間も運命も非情なものだな。
「よし、皆、着いたぞ!」
「……」
「負け数、確認するまでもないわね」
そうだな。
俺の全戦全敗を上回る奴なんていないだろうし。
「でも、麻弓ちゃんと亜沙先輩、どっちの勝ちが多いんでしょうか?」
「ボクが覚えている限りでは、あーちゃんも麻弓ちゃんも同じだけ勝ってるけど?」
「と言う事は、二人が優勝か」
なんて嫌な組み合わせだろうか。
よりによってこの二人が罰ゲームの内容を決めるなんて……。
「時雨先輩、ちょっと相談しませんか?」
「そうだね」
二人で肩を組んで相談をし始める。
そして、思いのほか、すぐに決まったようだった。
「稟ちゃん、お待たせ。罰ゲームの発表は麻弓ちゃんからしてもらうね」
「今度は何をさせる気だ? また荷物持ちか?」
「そんなんじゃないわよ。まぁ、やりたいって言うなら、それも加えても良いけ
ど?」
俺は即座に首を振る。
「そう。それでは、罰ゲームを言うわね。土見君には、『女』になってもらうわ」
「…………は?」
俺が、女になる?
「何で俺が『女装』なんかしなくちゃいけないんだ?」
俺の一言に、麻弓はちっちっち、と指を振る。
「土見君。誰も『女装』なんて言ってないけど?」
「……なに?」
「私、ちゃんと、『お・ん・な』になってもらうって言ったわよね?」
なんか、今までで一番嫌な予感がしてきた。
「ま、まさかとは……思うけど……」
「ち・な・み・に、稟ちゃんにきてもらう服は、じゃーん!」
亜沙先輩が取り出した服は、なにかで見たことがあるようなフリフリがいっぱい
ついている様な服。
「亜沙先輩、それって……」
「そう! 前にリムちゃんに着せたものをサイズを変えてまた作ってみたの!」
どうりで見たことがあると思ったよ。
……って、待てよ?
今、亜沙先輩、なんて言ったっけ?
『そう! 前にリムちゃんに着せたものをサイズを変えてまた作ってみたの!』
違う、もう少し前だ!
『稟ちゃん、お待たせ。罰ゲームの発表は麻弓ちゃんからしてもらうね』
いや、どこまで戻ってるんだ。
もう少し後だ。
『ち・な・み・に、稟ちゃんにきてもらう服は、じゃーん!』
そう、それだ。
俺が……着る服?
「お、おい……」
「それでは、シアちゃん、リンちゃん。お願いしまーす!」
麻弓の容赦ない宣告。
俺は後にいるはずの二人を見る。
「……シ、シア? ……ネリネ?」
「ごめんね、稟君」
「すみません、これも決まりごとなので……」
「や、やめろ……や、やめ―」
バスの後方に下がると、逃げ場がない上に、俺の動きを封じる方々が居られた。
「稟ちゃん。罰ゲームなんだから、素直に受けないと」
「お兄ちゃん、逃がさないから」
「ごめんなさい、稟君」
「稟さんが女の子に……まままあ♪」
「がんばれ、男の子」
「まあ、もうすぐ女の子に変わるけど」
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」
それからほんの数分。
俺はようやく開放された。
と言っても、罰ゲームはまだ継続中である。
「ほら、稟ちゃん。何時までもうずくまってないで……」
「うぅ……こ、ここまでするか?」
自分の声に自分が一番驚いた。
今の自分の姿はわからないが、声が明らかに俺のものではない。
「そうそう、土見君。次の登校日、それで通ってね」
「ふざけるなー!」
俺はようやく立ち上がり、麻弓に怒鳴りつける。
だが、そんな俺の姿を見て、皆が固まった。
「……? 皆、どうしたの?」
「りっちゃん、これ……」
まだ困惑気味の亜麻さんが手鏡を渡してくれた。
そこには、俺の顔に似ているが、俺とは違う人の顔が移った。
「……だ、誰?」
まぁ、鏡に映ってるんだから俺だろうな。
「お、お兄ちゃん……?」
「リムちゃん、今の場合、それはふさわしくないよ……?」
「つ、土見君、とも呼べないね……?」
「おい、お前たち、一体何をやって……」
何時までもバスから降りてこない俺達を呼び来た紅女史も、俺を見て固まった。
そんなに衝撃的か、今の俺?
いや、一番衝撃を受けているのは俺だろうな。
「おい……」
「なに?」
「……この胸、詰め物じゃないのか?」
どう考えても……なぁ?
「あ、あのね……稟君。怒らないで聞いてね?」
「……内容次第だ」
「麻弓ちゃんが完全に女にして、って言ったから……」
「変身魔法で……」
「……俺、今……完全に、女?」
シアとネリネが頷く。
今年の無差別借り物競争の時でもここまで完全に女にされなかったぞ?
(↑SHUFFLE!ノベル、リシアンサス編を参照の事)
「結構綺麗に写ったわね。それに見た目も良いから、これなら男女を問わず売れ
そうね」
おそらく、これ考えたのは全部あいつだろう。
「麻弓〜……」
「土見君、どうしたの?」
さっきまでの困惑はなんだったんだ?
こいつ、もう立ち直ってるぞ?
「あのな……」
「そうだ! リムちゃん、あのね……」
麻弓がプリムラに耳打ちをする。
また何か入れ知恵をしているんだろうけど、今の俺はちょっとキレ気味だから、
大抵の事は通用せんぞ?
「う、うん。わかった」
プリムラが俺のところに来る。
一度だけ麻弓の方を向く。
そして、
「稟お姉ちゃん、だーいすき!」
「!?」
お、お姉ちゃん……?
俺、やっぱり……もう、男じゃない?
「いやん! リムちゃん、ナイス演技! おかげでいい画が撮れたわ」
「ねぇねぇ、それ、焼き増ししてボクにもちょうだい」
「うーん。これは私のお財布をあたためるのに必要な物だけど、先輩には、特別
に無償で差し上げましょう」
なんか向こうで取引してるみたいだけど、今の俺は完全な敗北者。
何も言う気が起きん。
旅行の最後が、こんな終わりかただなんて……。
「……つっちー、正体隠してたら転校生でも通用しそうだな」
「余計へこみますからやめてください……」
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後日、罰ゲームの続き
「……と言う訳で、つっちーは今日は休みなのだが、本日、一日だけ体験入学を
する土見凛さんだ」
何で見知ってるクラスの連中に挨拶しなきゃいけないのかは別だが、罰ゲームで
は仕方ない。
「つ、土見稟のいとこで、土見凛と言います」
数名笑っている知り合いがいるが、ここは耐えないといけない。
休み時間
「前世の頃から愛してました!」
やっぱり来た、このバカ。
こいつ、こんな事しかやる事ないのかな?
一気に話が飛ぶが、後日談なのでさっさと行くぞ。
冬休みが終わった後、一枚の学園新聞が張り出された。
その内容は……頭がいい奴ばかりと信じて、あえて書かないでおこう。
それを読んだ男子生徒は俺を追い掛け回し、女子は麻弓に写真を求めた。
余談になるが、噂では女の俺の親衛隊が結成されていたとかいなかったとか。
Fin
ツインテールっ!
……え?違う?
や、「凛」なのでてっきりそうかと……。(ぉ
それにしても……凛ちゃん、ぜひ僕の元にもっ!
男として素材が良ければ、女化してもオッケーな筈っ。
……や、まあ、私だって前世から。(マテ
ところで……親衛隊はTTTでしょうか。
なんの略なのやら……。
そ・れ・と。
魔法で胸が膨らむってことはですよ!?
小さくだって出来るはずっ!
そうなればシアもネリネも亜沙先輩だってオーケーになります。
……にやり。(邪
というわけで、「ドタバタ温泉旅行」は最終話とのことです。
連載、お疲れ様でした〜。
&
投稿、ありがとうございました〜。
Comment by けもりん
無断転載厳禁です。
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