大進展!? 愛と波乱のスキー旅行 〜 明鐘編 Part.1 〜
震天 さん
涼 : 一緒に滑るか、明鐘。
明鐘 : うん!
西守歌 : ……涼様? 今の流れは私をお誘いになるのが定石なのでは?
笑穂 : 言っておくが、こいつが決められた枠に必ず収まるとは限らん。
美紀 : そうそう。ついでに、鐘ちゃんラブのシスコン兄貴なんだから、鐘ちゃ
んを誘わないなんてことあり得ないよねぇ〜?
明鐘 : み、みぃちゃん!
あやめ : 水原さんって、そういう趣味……。
涼 : すべてと言わんが、激しく違う……。
ったく、美紀のやつ……聞く奴によっては物凄い誤解を招くようなこと言いやが
って……。
涼 : 後で覚えとけよ。
美紀 : 楽しみにしとくわ。
笑穂 : それで、後の組み合わせはどうするのだ?
西守歌 : 私は涼様とでなければ嫌です!
笑穂 : ……彼女は私が引き受けよう。
涼 : そうしてくれるか? お嬢。
あやめ : じゃあ、私は美紀さんとですね。
美紀 : よろしく〜。
西守歌 : 涼さまぁ〜。私もお供させて―
笑穂 : さぁ、一緒に滑ろう。私たちだけ経験者がいないのだからな。
西守歌 : え、笑穂さまぁ〜。私にお慈悲を〜!
涼 : 与えなくていいぞ、お嬢。
笑穂 : ということらしい。さぁ、行こう。
西守歌は珍しく強硬手段にでたお嬢に力無く引きずられて行った。
……お嬢もこんなことするんだな。
美紀 : じゃあ、私達もいこっか、あやめちゃん。
あやめ : はいっ!
美紀とあやめちゃんもリフトに向っていった。
明鐘 : 私たちもいこ、兄さん。
涼 : そうだな。よろしくお願いします、明鐘先生。
明鐘 : くすくす。はぁい。
まぁ、初心者なんだから初心者コースでやるのは当たり前なんだが……。
涼 : 結構、難しいな……。
ちなみに現在、俺、転倒中。
明鐘 : 大丈夫? 兄さん。
涼 : う〜ん……とりあえず、滑る事と起き上がることは出来るのに止まる事が
なぜか出来ない。
明鐘 : でも、もうすぐだよ。
涼 : そうだな。もう少しで何かつかめそうなんだけどな。
明鐘 : ボディタッチで教えてあげようかな?
涼 : それは嬉しいが、もう少し意地を張らせてくれ。
確かに、明鐘に教われば早く上達するだろうけど、少しだけ意地を張っている。
兄としての立場もあるのだ。
面目は保ちたい。
涼 : 明鐘。悪いけど、もう一回見本見せてくれないか?
明鐘 : うん。
明鐘が少し滑って、すぐに止まる。
……そうか、なんとなくわかったかも。
涼 : ……こんな感じかな?
俺も明鐘に習って滑ってすぐ止まる。
涼 : おっ。出来た。
明鐘 : すごいね、兄さん。
涼 : 明鐘のおかげだな。
明鐘 : うぅん。私は何もしてないよ。ちょっと惜しかったけど。
涼 : 惜しい?
明鐘 : 教えるっていう名目があれば、兄さんに触れたのにね?
涼 : ……誤解招くような言い方するなよ。
苦笑気味に俺が言うと、明鐘が照れる。
明鐘 : やだ、兄さん。いやらしいことでも考えた?
涼 : お、おいおい……勘弁してくれよ。
明鐘 : ごめんなさぁい。でも、残念だなって言うのはホント。
涼 : あんまりいちゃつくと、また恋人に間違われるぞ?
俺と明鐘はあまりにも似てなく、他の兄妹に比べて異常に仲が良い。
恋人に間違われる事がやたら多い。
だからと言って、別に明鐘と距離を置くつもりは無い。
仲がいいのにそんなことするメリットすらない。
……まぁ、明鐘が傍にいるおかげで彼女の一人もいないが、明鐘がいれば別にそ
れほど気にする事でもない。
……明鐘がいなければ、俺はとうに終わっていたんだから。
明鐘 : 兄さんがもう滑れるようになったんなら、もう少し上のほうに行ってみ
る?
涼 : そうだな。
上に行けばハル達がいるかもな。
別に合流する事もないけど……。
西守歌には会いたくないな。
何かと面倒になる。
……なんで、嫌な事が起こるのだろうか?
西守歌 : 涼様ぁ〜!
西守歌が突進してくる。
だが、俺もそれを黙って受け入れる気もない。
即座にしゃがんで避ける。
西守歌 : きゃっ!
……雪に顔が埋もれてるよ。
おもしれぇ〜。
笑穂 : なんだ。二人とも、もうこんなところまで来たのか。早いな。
涼 : そう言うお嬢たちこそ。もう中級者コースに来てたのか。
笑穂 : ……その事だが、言い訳していいか?
涼 : ……どうぞ。
笑穂 : 彼女がお前と出なければ滑りたくないと駄々を捏ねた。しかも、リフト
に乗っているにも関わらず、だ。
西守歌 : ぷはぁっ!
雪に顔をつっこんでいた西守歌がようやく頭を上げた。
西守歌 : 涼様、酷い。せっかく、愛と涙の再会を果たしたというのに〜。
涼 : 愛も涙もないぞ。
お嬢の話を聞くのを一時中断する。
笑穂 : ……妹さんは聞いてくれるかな?
明鐘 : ……兄さんの代わりに聞きます。
笑穂 : リフトの上で彼女が少々暴れたから、降り損ねてしまったのだよ。
涼 : 災難だったな、お嬢。
笑穂 : なんだ、聞いていたのか。てっきり、可愛い婚約者と愛でも語らってい
たのかと。
西守歌 : そんな、笑穂様。正直な方ですわね。
否定も謙遜もしないのかよ、こいつは……。
涼 : 誰が可愛くて、誰が婚約者で、誰と誰が愛を語らってるよ?
西守歌 : ……一度で全てを否定するなんて、やりますわね、涼様。
明鐘 : ……どういうこと?
明鐘がすぐには理解できない様で、首を傾げる。
笑穂 : まず、水原が彼女は『婚約者』ではないと言ったとする。
涼 : そうすると西守歌は。
西守歌 : 涼様は可愛い私と愛を語らっていたのです。
笑穂 : 次に、彼女の事を可愛いと認めないと言ったとしよう。
涼 : そして、お決まりのセリフ。
西守歌 : 涼様は婚約者の私と愛を語らっていたのです。
笑穂 : 最後に愛を語らっていたことを否定したとする。
涼 : んで、こいつは決まってこう言う。
西守歌 : 私を可愛い婚約者として認めていただいたのですね!
明鐘 : ……あの一瞬で、良くそこまで判断できるね、みんな……。
俺達の見事な連携に明鐘が少したじろいでいる。
笑穂 : 君はなるべく私たちのような人間ならないようにする事をおすすめする。
明鐘 : ありがとうございます……。
涼 : そうだな。極端な話、明鐘が西守歌の様になったら、俺は……。
明鐘 : 大丈夫。私は兄さんに寂しい思いはさせないから、ね?
涼 : 明鐘!
明鐘 : 兄さん!
俺と明鐘が抱き合う。
笑穂 : ……間違いなく、水原の妹さんだな。
西守歌 : 一瞬でお二人の世界に入られるなんて……。
どうだ、西守歌。
お前に俺達の絆に入り込む隙間は―
西守歌 : 明鐘さん。明鐘さんのポジションを譲っていただけないでしょうか?
明鐘 : や。
西守歌 : ……即答ですか……。
明鐘 : だって、兄さんは私の兄さんだもん。兄さんが本当に好きになった人以
外に兄さんは渡せません。
西守歌 : 私が涼様に認めてもらえれば、譲っていただけるのですね!?
笑穂 : そうまでして欲しいのか?
西守歌 : 喉から手が出るほど!
笑穂 : ……そうか。でも、確かに美しい兄妹愛ではあるな。水原、お前の爪の
あかをくれないか? 煎じてうちのバカ兄貴に飲ませる。
涼 : 飲ませたら、お嬢の縁談話を無かった事にするかな?
笑穂 : それはいいな。あの兄がどこまで変わるか一見の価値はあるな。
涼 : そうなるなら、いくらでもやるけどな。
笑穂 : まぁ、その話はいずれ結論が出るとして、この旅行はそういう事を話す
ためのものではないのだろう?
西守歌 : では、私たちもご一緒させてください。
明鐘 : え……?
まぁ、こいつならこう言い出しかねないが、明鐘は……。
せっかく、久しぶりに兄妹水いらずで楽しめる状況になったのに。
西守歌 : と、言いたいのですが。
涼・明鐘: ?
笑穂 : さっきも言ったが、私たちは間違ってここに来てしまった。つまり、全
く滑れない。
西守歌 : 滑れるようになるまで、ご一緒はできません。残念ですが。
涼 : なら、どうするんだ? 教えてくれる奴がいないんじゃ……。
西守歌 : それに関しては心配ご無用です。
西守歌が指を鳴らす。
同時に、西守歌のほんの少し後ろのほうの雪が盛り上がる。
涼・
明鐘・
笑穂 : っ!?
出て来たのは、やっぱりというか……なんというか……黒服の人だった。
……えーっと、色々触れたいのだが……。
涼 : いつから?
明鐘 : なんで、雪の中から?
笑穂 : やっぱり、その格好なのだな?
俺たちはそれぞれの疑問を口にした後、声を揃えて、最大の疑問をぶつける。
涼・
明鐘・
笑穂 : あなた、誰?
ホテルで会った人もそうだが、この人たち、全く見分けがつかない。
黒服 : 私、矢野と申します。
西守歌 : スキーのインストラクターですわ。
涼 : は、はは……そう……。お嬢、周りの目が痛いかもしれないけど、根性で
乗り切れ。
笑穂 : 努力はしよう……。
俺は二人(+一人)と別れ、滑り始める。
明鐘 : ……なんか、西守歌ちゃんの周りの人のほうがすごいかも……。
涼 : あいつ自身、常識からかなりずれてるからな。
そう考えれば、俺なんかまだマシだな。
明鐘 : それにしても、西守歌ちゃんに気を使わせてしまったね。
涼 : ……あいつが……気を使った?
思いっきり顔をしかめてみる。
それを見た明鐘は苦笑する。
明鐘 : それ、すっごく失礼だと思うよ?
涼 : だって、あいつがだぞ?
明鐘 : うん。確かに、西守歌ちゃんなら、兄さんに対してはほとんど遠慮しな
いね。
涼 : だろ? ……俺に対して?
明鐘の言葉に少し引っ掛かりを覚える。
明鐘 : 言い換えれば、兄さん以外には、少し遠慮してる感じがするの。
涼 : ……。
明鐘 : 西守歌ちゃんがやる事は確かに少し無茶な事かもしれないけど。
涼 : 少しじゃない。大いに、だ。
明鐘 : ……えっと、規模の云々は置いておいて、西守歌ちゃんにとって、兄さ
んは特別な存在だっていうことは間違いないと思うよ?
涼 : ……なんでそう思うんだ?
明鐘 : え? なんでって……。
涼 : あいつがそう言った、っていう訳じゃないだろう?
明鐘 : だって、私も西守歌ちゃんと同じだから。
涼 : な、なにっ!?
明鐘が……西守歌と同じ!?
そ、それは……つまり……。
明鐘 : ど、どうしたの? 兄さん……。
涼 : 明鐘も……俺を?
明鐘 : もちろん♪
涼 : そ、そうか……。
明鐘 : ? 兄さん?
涼 : 明鐘はいつまでも……俺の味方だと思っていたのに……!
明鐘 : えぇっ!? 私はずっと兄さんの味方だよ?
涼 : 無理しなくても良いよ。やっぱ、こんなダメ兄貴にはもう……愛想が尽き
てしまったんだよな?
明鐘 : ……あの、確認しても良い?
涼 : ……?
明鐘 : 兄さん、私と西守歌ちゃんが同じって聞いて、どう思ったの?
涼 : 絞め落としたり、薬を盛ったり、脅迫したり……。
明鐘 : ……。
苦笑するしかない明鐘を見て、やっぱり勘違いか、と認識する。
そうだよな。
明鐘が俺を絞め落としたり、薬を盛ったりするなんて事、ありえないよな。
じゃあ、どういう意味だろう?
明鐘 : 好きなんだよ、西守歌ちゃんも。兄さんのこと。
涼 : ……。
思いっきり顔をしかめてみる。
明鐘 : そこまで露骨に……。
涼 : 明鐘。百歩譲って、あいつが俺のことを好きだとしよう。
明鐘 : そこまで譲らなくても……。
涼 : あれが好きな奴に対する態度か?
明鐘 : ……えっと……あはは……。
その点に関しては明鐘も完全否定はできないようだ。
明鐘 : じゃあ、ちょっと視点変えてみよ。
涼 : ?
明鐘 : 西守歌ちゃんが家に来てからの事。兄さんのために無理してるんだよ、
西守歌ちゃん。
涼 : そ、それは……。
もちろん、そんな事はわかってる。
一年生のくせに二年生に転校してきたりする無茶をやらかすのも、朝早く起きて
朝食の準備と弁当の用意をしたり、俺より先に寝たりする事もない。
自業自得と言ってしまえばそれまでだが、あいつはあいつで確かに無理をしている。
でも、なんでそこまでするのか、という疑問は出なかった。
あいつは出会ったときから敵だ。
それは今も変わらない。
でも、明鐘に言われてその疑問が初めて浮かび上がってきた。
涼 : ……なぁ、明鐘。
明鐘 : ん? なぁに?
涼 : その……あれだけ無理をするって言うのは、辛くないのか?
明鐘 : 普通は辛いよ。
涼 : ?
『普通』は?
涼 : それって、どういう……?
明鐘 : でも、好きな人のためにする無理って言うのは逆に精神的な支えになる
と思うんだよ。私も……西守歌ちゃんの気持ち、分かるから。
涼 : ……あのときのことか?
明鐘 : うん。兄さんのこと、好きだから……。
涼 : ……。
改めて面と向かって言われたら、やっぱり照れくさいな……。
明鐘の気持ちは知ってるし、俺だって、な……。
涼 : 滑るか。
明鐘 : うん、そうだね。
明鐘のおかげで西守歌に対する評価が少し上がったが、まぁ、それほど変わらない。
まぁ、もう少し位優しくしてやろうか。
で、昼飯時。
レストランで美紀とあやめちゃんにばったりと出会った。
涼 : よう。
あやめ : あ、水原さん、明鐘さん……。
明鐘 : ? どうか、したの……?
俺と明鐘は机に突っ伏してる美紀に視線を移す。
明鐘 : みぃちゃん、どうしたの?
美紀 : へにょ。
涼 : そっとして置いてやろう。美紀はもう助からないんだ。
明鐘 : そう……。可哀想なみぃちゃん……。
美紀 : 涼にはともかく、鐘ちゃんに言われるとすごいへこむわ……。
明鐘 : ごめんなさぁい。
明鐘は可愛く舌をぺろっと出す。
涼 : 俺にはともかく、と言うのはあえて無視して……。ホントにどうしたんだ?
美紀 : 涼。
涼 : ん?
美紀 : 相性って、重要よね……。
涼 : ……それは残念だったな。
明鐘 : だいじょうぶ。午後はきっと上手になるよ。
あやめ : ……今のでわかるんですか?
涼・明鐘: なんとなく。
あやめ : ……息、ぴったりですね。
息がぴったりとか、まぁ、それは置いておこう。
兄妹なんだから、当たり前だし。
で、美紀が言いたいのは多分、スキーとの相性が悪いという事だろう。
ま、どの程度かは知らないけど。
美紀 : で? 涼はどうなの?
涼 : ……美紀、人間全てが平等と言うわけではないんだよ。
美紀 : うぅ〜……。
なんか知らんが、唸り出したぞ?
思わず明鐘と顔を見合わせる。
お互い困った顔をしているのは言うまでもない。
あやめ : だいじょうぶですか?
美紀 : 幼馴染にまで裏切られるとはねぇ〜……。
涼 : だから、その言い方やめろって……。
ただでさえ、俺たちの年頃の連中は、
幼馴染=友達以上恋人未満、なにかきっかけがあればハッピーエンド
なんていう方程式をすぐに思い浮かべる。
偏見なのになぁ……。
美紀 : 幼馴染、幼馴染、幼馴染。
涼 : ……美紀、お前は俺のなんだ?
美紀 : 敵♪
涼 : ……明鐘、行こうぜ。
明鐘 : え!? 一緒に食べないの?
涼 : 構わん、構わん。
明鐘の背中を押して別のテーブルへ向う。
涼 : せっかく奢ってやろうかな、と思っていたのに。
美紀 : や、やぁね、涼君。さっきのは冗談に決まってるじゃない……。
……こいつは食い物が絡むとすぐさま掌返すな。
涼 : 訂正は受け付けません。
美紀 : うぅ〜……鬼!
美紀の戯言は放っておいて、美紀たちから少し離れたテーブルに座る。
涼 : さて、なに食う?
明鐘 : あ、ブルーベリータルトがある♪
涼 : それを主食にするなよ。
明鐘 : それはさすがに……。でも、デザートに食べたいな♪
涼 : なら良い。好きなもの頼めよ。ここは俺の奢りだ。
明鐘 : え!? そ、そんな、悪いよ……。私も出すから、割り勘。
涼 : 遠慮するな。今はそうしたい気分だ。
明鐘 : でも……。
涼 : 人の好意を無にするのは相手の気分も害する。そういう場合は素直に受け
入れろ。
明鐘 : ……ハル兄さんのマネ?
涼 : 似てる?
明鐘 : そっくり。
涼 : じゃあ、受け入れなさい。
明鐘 : はぁい。
という事で、ここは俺が奢る事になった。
注文してから程なく料理が並ぶ。
午後からどうするかとか、美紀の今後の上達ぶりの予想とか、他愛ない会話をし
ながら食事を済ませる。
そして、明鐘が待ちに待ったデザートのブルーベリータルトがやってきた。
明鐘 : やった。ブルーベリーがいっぱい乗ってる♪
涼 : へぇ、結構大粒だな。
明鐘 : 兄さんも食べる?
涼 : いいのか?
明鐘 : うん。その代わり……。
明鐘はタルトを一口分に切って、フォークで刺し、そのまま俺にフォークを渡す。
涼 : ? もしかして、これしか食べちゃいけないとか?
明鐘 : うぅん。そうじゃなくて……あ〜ん♪
明鐘が小さく口を開ける。
……なるほど。
食べさしてくれ、と。
涼 : ほら。
明鐘 : 美味しい♪ やっぱり、兄さんに食べさせてもらうとより美味しく食べ
れる気がする。
涼 : そ、そうか? なら、もう一口行くか?
明鐘 : あ、今度は私が。
今度は明鐘が俺に食べさしてくれる。
明鐘 : はい。あ〜ん♪
涼 : あ〜ん。
明鐘 : 美味しい?
涼 : うん。美味い。
明鐘 : 良かった。
涼 : おいおい、明鐘が作ったわけじゃないだろ?
明鐘 : そうだけど……。
涼 : でも、さっき明鐘が言った事、今ならわかるな。明鐘に食べさせてもらう
とより美味いな。
明鐘 : に、兄さん……。
笑穂 : 本当に違和感が無いな。
俺たちの横からお嬢が声をかけた。
涼 : ん? お嬢? ……と、西守歌。
西守歌 : ……なぜ、私はおまけのような言い方なのですか?
涼 : お嬢は友達、お前は敵。
西守歌 : 違います。許婚です。
断じて違う。
そんなものを押し付けるな。
笑穂 : 随分慕われてるな、水原。こんな可愛い許婚、貰ったらどうだ?
涼 : お嬢。確かに、可愛い事は認めてやる。
西守歌 : まぁ、涼様ったら。
涼 : だがな、それとこれとは話が別だ。こんな奴、のしつけられたって貰うか。
大体、こいつと結婚でもしてみろ。
毎日、絞め落とされかねないぞ。
笑穂 : ……性格、か?
涼 : ○だな。
西守歌 : 性格なんて、目には見えないと仰っているんですがね……。
笑穂 : ちなみに、どんな娘なら良いのだ?
涼 : 明鐘。
笑穂 : ……。
西守歌 : ……即答でしたわね。
その明鐘はというと、赤くなって小さくなっている。
笑穂 : まぁ、お前が妹さんを想うのは自由さ。それをどうこう言うつもりはな
い。ただ……。
涼 : ん?
笑穂 : いつまでもこのままと言うわけにもいかないじゃないか? 私たちの世
代は次の世代に繋げるためにも、子供を作らないといけないだろう?
涼 : ……お嬢。真面目にすごいこと言うな。
しかも、普段と全く変わらない表情。
笑穂 : そうか? 普通じゃないか?
明鐘 : わ、私は……恥かしいです……。
西守歌 : 涼様とでしたら、そういうお話は大歓迎ですわ♪
涼 : お前とは絶対にしない。
した時点でお前に絶対有利じゃないか。
というか、それを既成事実に仕立て上げ、無理矢理結婚させられそうだ。
笑穂 : ……話を戻して良いか?
涼 : あぁ、悪い。
どうもこのバカがいると話が進みにくいな。
とりあえず、今後は無視だ、無視。
笑穂 : どうするのだ?
涼 : ……。
明鐘のほうを見る。
心配そうな顔をしている明鐘を見なくても、俺の答えは決まっているが……。
涼 : お嬢。俺は明鐘の兄貴だ。
笑穂 : ……そんな事は知っている。そうじゃなくてだな……。
涼 : 妹の幸せを願わない兄貴がいるか?
笑穂 : ……。
明鐘 : 兄さん……。
お嬢は豆鉄砲でも食らったような顔をする。
それでも、すぐにいつも通りの表情に戻る。
笑穂 : 世の中にはいるものだな。自分のことは完全に後回しにするバカが。
涼 : バカで良いよ。明鐘と二人で生活する事になった時から、明鐘は俺が守る
って決めたんだから。
明鐘 : ……兄さん。
笑穂 : ……何を言っても無駄のようだな。
西守歌 : そのようですわね。羨ましいですわね、明鐘さんが。
明鐘 : ……私も決めた。
涼・
西守歌・
笑穂 : ?
明鐘 : 兄さんは誰にも渡さない、って。
笑穂 : だそうだ。
西守歌 : 仕方ありません。私の負けですわ。
……負け?
明鐘に負けたってことか?
元々勝ち目は無いような気が……。
笑穂 : さて、なにを奢ってもらおうか。
西守歌 : そういう約束でしたからね。
涼 : ……お嬢。どういうことだ?
笑穂 : 気にするな。
涼 : ……賭けに使われたような気がするのは俺の気のせいか?
西守歌・
笑穂 : 気のせい。
涼 : おい……。
西守歌 : 笑穂さま。ここは速やかに退散したほうが良いかと。
笑穂 : そうしよう。じゃあな、水原。
西守歌とお嬢が離れていく。
……確かに、逃げやがったな。
涼 : まったく、人のことを賭けに使うなって。
明鐘 : どんな賭けだったのかな?
涼 : 大体想像はつくな。
……想像はつくけど、なんか考えると腹立つからやめておこう。
涼 : それより、早くそれ食べて滑ろう。
明鐘 : うん。
それから、残りのタルトを半分こずつし、レストランを出た。
その後はどうにか西守歌達や美紀達に出くわさない様にしながら、久々に兄妹水
入らずでスキーを楽しんだ。
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