Φなる・あぷろーち SS

 大進展!? 愛と波乱のスキー旅行 〜 あやめ編 Part.1 〜

                         震天 さん

  涼   : 一緒に滑ろうか? あやめちゃん。
  あやめ : いいですよ。
  美紀  : ……意外な組み合わせね。
  涼   : そうか? これからバイト仲間として一緒に働くんだ。この機会に、
        多少お互いのことでも知っておこうかと思ってな。
  笑穂  : そういう意味では、確かに良い機会ではあるな。
  涼   : ……なんか引っ掛かる言い方だな。

 そういう意味では、って何だよ。
 俺は卑しいことなんか考えてないぞ?

  美紀  : あやめちゃん、涼の毒牙に引っ掛からないようにね。
  あやめ : え……?
  涼   : おい……。

 それって、俺が危ない人みたいな言い方だな、おい。

  笑穂  : 水原。
  涼   : ん?
  笑穂  : 浮気もほどほどにな。
  涼   : フッ。お嬢、浮気っていうのは彼女がいる奴がするもんだ。
  西守歌 : 私がいるじゃないですか♪
  涼   : 断じて違う。
  西守歌 : 即答しなくても……。
  明鐘  : 兄さんには、私がいるもんね♪
  美紀  : 鐘ちゃんを上回るのは、かなり難題ね。

 確認しておくが、明鐘は妹だ。
 確かに、明鐘ほどの良い娘がそれほどいないかもしれない、というのは認めよう。
 シスコンになってもおかしくないような自慢の妹だ。
 だが、彼女や恋人と比較するとなると、また違う気がする。
 そりゃ、たまに明鐘が妹である事を忘れるようなドキッとする事もあるけど……。

  あやめ : でも、逆を言えば、水原さんを上回るのも難題ですよね?
  涼   : ん?
  あやめ : だって、明鐘さんがこれだけ水原さんを慕っているって言う事は、そ
        れだけ良いお兄さん、って言う事ですよね?
  美紀  : ま、涼たちの家庭事情から考えればわからなくもないけど。
  西守歌 : 涼様に素敵な彼女が出来れば、明鐘さんもお兄さん離れするんじゃな
        いですか?
  涼   : 明鐘が……兄離れ……。

 それは……つまり、明鐘にも彼氏ができるって言う事―

  西守歌 : あの……涼様? どうかなさいました?
  涼   : 明鐘に彼氏が出来たところを想像したら……へこんだ。
  美紀  : まずは涼が鐘ちゃん離れしないといけないかもしれないわね。
  笑穂  : 正論だな。
  西守歌 : ですが、涼様にはもう素敵な方がいらっしゃるじゃないですか♪
  明鐘  : え!? そ、そうなの!? だ、誰?
  西守歌 : 私―
  涼   : 違う!
  西守歌 : ……涼様……何も私が言い切る前に力一杯否定しなくても……。

 よよよ、と言わんばかりに泣き崩れる西守歌。
 まぁ、演技だって言う事は既にわかっている。
 あえて気にする必要もないだろう。

  笑穂  : とにかく、水原たちの恋人がどうこうはこの際置いておいて、話を元に
        戻そう。水原と芽生さんの妹さん―
  あやめ : あやめで良いですよ。
  笑穂  : そうか? 私は普段、他人を名前で呼ぶ事に慣れてなくてな。では、あ
        やめさんと言う事で。水原とあやめさんが組むと言う事で、残りはどう
        する?
  西守歌 : あの、皆様……せめて、慰めの言葉でもかけてくださらないと、私、
        寂しいですわ。
  美紀  : じゃあ、私が西守歌ちゃんと組むよ。鐘ちゃんや笑りんだと、少し手に
        余るかもしれないから。
  西守歌 : えぇ〜!? 私、涼様と一緒に滑れないのですか〜!?
  明鐘  : 仕方ないよ。みぃちゃんが兄さんの意思を尊重するって言っちゃったし……。
  美紀  : 納得してるようで、実は納得してなかったりしない? 鐘ちゃん。
  明鐘  : 私も兄さんと滑りたかったから……。

 そんな悲しそうな顔しないでくれ、明鐘。
 心に何かが刺さるから。

  笑穂  : じゃあ、私は妹さんと滑ろう。水原のような良いパートナーになる自信
        はないが。
  明鐘  : そ、そんな事ないですよ! よろしくお願いします。
  笑穂  : 貸し一つでいいかな?
  涼   : ……すまん。

 気の利いた友人に貸しを一つ作りつつ、明鐘・お嬢組と美紀・西守歌組と分かれる。
 みんなと分かれた後、俺は苦笑した。

  あやめ : どうかしたんですか?
  涼   : いや、俺の周りって……。
  あやめ : ……すごいですね……。
  涼   : 理解が早くて助かる。

 肩をすくめた俺を見て、あやめちゃんが少し笑う。
 ま、認めよう。
 俺の周りにまともな奴は数少ない。
 まともなのは…………誰だ?

  涼   : まぁ、あやめちゃんは違うか。
  あやめ : なにがです?
  涼   : あやめちゃんが西守歌達の部類には入らない、ってこと。
  あやめ : わかりませんよ?
  涼   : ……マジ?
  あやめ : えっと……保留、ということで。
  涼   : ま、それは今日でわかるだろうけど。
  あやめ : 猫かぶるかもしれませんよ?
  涼   : 百合佳さんみたいに?
  あやめ : あれ? お姉ちゃんが猫かぶってた事、なんで知ってるんですか?

 俺がそのことを知っていたことがよほど意外だったのか、目を点にして驚いている。
 俺、そこまで鈍いか?

  涼   : ……そのことは置いておこう。もう、済んだ事なんだし。
  あやめ : すみません……。
  涼   : いや、元々俺が言い出したことだ。気にしないでくれ。
  あやめ : はい……。

 ……百合佳さんと違って、感情が簡単に表に出る娘なんだな。
 俺は首を少し振ると、少し無理があるような明るい声で言った。

  涼   : とにかく、滑ろう。この旅行のメインイベントなんだし。
  あやめ : ……そうですね。メインイベントなんですよね!
  涼   : それに、今日は俺が教わるほうなんだ。あやめちゃんがしっかり指導して
        くれないと、あやめちゃんも楽しめないよ?
  あやめ : あわわ! 責任重大っぽいですね。
  涼   : 俺もなるべく早く滑れるように頑張るし。
  あやめ : じゃあ、今日だけは水原さんの先輩ですね。
  涼   : そうか。スキーではあやめちゃんのほうが先輩か。じゃあ、よろしくお願
        いします、あやめ先輩。
  あやめ : ……なんだか、背中が痒いですね。



  あやめ : ……本当に初めてですか?
  涼   : ? そうだけど……?
  あやめ : ……私、何か教えましたっけ?
  涼   : 基本的なことを教えてくれた。
  あやめ : というより、見せただけなんですが……。

 スキーを習い始めて10分強。
 まだ少し足元が不安定だが、なんとか滑れるようにはなった。
 まともに滑れるようになるには、しばらく滑ってれば慣れるだろう。

  涼   : 上手なお手本のおかげだよ。
  あやめ : もう少し先輩らしい事したかったですよ。
  涼   : ……ごめん。
  あやめ : え!? あ、謝らなくてもいいですよ。水原さんは悪くないですし……。
  涼   : でも、楽しみを奪っちゃったじゃないか?
  あやめ : そうですか? スキー自体出来なくなった訳ではないんですし、別に
        気にしてませんよ。
  涼   : でもな……。それじゃ、昼は俺が奢るよ。
  あやめ : え、そ、そんな、悪いですよ……。
  涼   : ……嬉しそうだね。
  あやめ : ……あ、あはは……。

 ま、誰だって奢ってもらえば嬉しいだろうな。
 ……若干一名、喜んでるかどうかすっごくわかりづらい人はいるけど。

  あやめ : そ、それより、早く滑りませんか?
  涼   : そうだな。

 そう言って、俺達は滑り始め―

  涼   : うおっ!?

 どさっ!

 ……出だしからこけてしまった。

  あやめ : 大丈夫ですか?
  涼   : ……しばらくは初心者コースで我慢してもらっていいかな?
  あやめ : 私のことは気にしないで下さい。水原さんならすぐに慣れますから。
  涼   : ありがとう。



 滑り始めて約1時間くらいだろうか。
 大体慣れてきた。

  涼   : いやぁ、スキーって楽しいんだな。
  あやめ : 次はちょっと競争してみません?
  涼   : 別にいいけど……俺じゃあ相手にならないんじゃないか?
  あやめ : むしろ、私のほうが相手にならないかも……。

 あやめちゃんはそう言うけど、滑れる程度は良くてほぼ同じだろう。
 勝負するとしても、相手にならないという事はないだろう。

  涼   : それじゃあ、とにかく中級者コースに……ん?
  あやめ : どうかしました?
  涼   : ……出来れば気付きたくなかったかも……。

 顔をそむけつつ、目に付いた場所を指で指す。
 あやめちゃんもその場所を見て、目を点にする。
 俺達だけでなく、周りの人まで注目して目を点にしているんだ。
 ……誰かはあえて言わなくてもわかるだろう。

  あやめ : ……あのまま、にしておいていいんですか?
  涼   : 他人のフリ、他人のフリ。
  あやめ : でも……。
  涼   : あんな風に奇異の目で見られるんだよ?
  あやめ : ……行きましょうか。

 俺は無言のまま頷く。
 しばらくはあいつら、奇異の目で見られるんだろうな。
 俺は幼馴染に心の中で合掌し、中級者コースへ向った。



 スキーなんて滑れれば初心者も上級者も対して変わらないと思っていた。
 どうせ、滑る距離が増えたりとかする程度だと思っていた。
 しかし、ちょっと甘かったか……。

  涼   : なんで、ちょっとデコボコしてるんだ?
  あやめ : そういうコースですから。
  涼   : なんであそこ、あんなに高低差があるんだ?
  あやめ : ジャンプ台、ですね。
  涼   : ここ、中級者コースだよね?
  あやめ : 上級者コースは更に傾斜が急らしいですよ?
  涼   : ……一つ一つに説明ありがとう。

 律儀というか、何というか、あやめちゃんって結構親切なんだね。
 ハルだったら『知らん』とか『作ったやつに聞け』とか言うに違いない。
 まぁ、これももっともな事なんだが、どうにも納得し難い。
 ハルにももう少し、人を思いやる気持ちがあったら―

  春希  : 失礼な事を言うな。
  涼   : うおっ!? いつの間に……?

 なんでこの人はこんなに存在感があるのに、気配を消すなんて事をするんだろう
か?
 ……しかも、なぜか背後からの出現率が高いな。
 更についでだが、なんで俺の考えに突っ込みを入れれるんだ?

  あやめ : あ、お姉ちゃん、お義兄さん。
  百合佳 : どう、あやめ。涼君と一緒に滑った感想は?
  あやめ : すごいですね、水原さんは。少し滑っただけで慣れてしまうんですか
        ら。
  春希  : ほう……それでこそ俺の被扶養者だ。
  涼   : そ、そりゃどうも……。

 さっきの質問に答えてもらってないな。
 ま、別にいっか。

  百合佳 : でも、涼君はまだ初心者でしょ? それにしては、ここは早すぎると
        思うけど。
  涼   : そうですか?
  百合佳 : うん。だから、無理をしないで……。
  春希  : なら、百合佳も無理をしないで初心者コースにするか?
  百合佳 : ……。

 百合佳さんが縋るような目でハルを見つめる。
 何の事かさっぱりわからん。

  あやめ : お姉ちゃんも無理しないでお義兄さんにお願いすればよかったのに。
  百合佳 : あ、あやめ! しぃー!
  涼   : ? どういうこと?

 一応、ハルに聞いてみる。

  春希  : さぁな。自分の目で確認してみるといい。
  涼   : ……。
  百合佳 : りょ、涼君? まさか、一緒に滑ろうとか……?
  涼   : 考えてます。
  百合佳 : ふぇ〜ん……。
  春希  : 百合佳を泣かすな。
  涼   : ご、ごめん……。

 ぜ、全面的に俺のせい?
 ハルが自分の目で確認しろって言ったのに……。

  あやめ : 水原さん。
  涼   : ん? なに?

 あやめちゃんが声をひそめて話し掛けてくる。
 それに合わせて俺も小声で答える。

  あやめ : 滑る前に言ったと思いますけど、お姉ちゃん、それほど上手く滑れな
        いんですよ。
  涼   : ……隠すような事?
  あやめ : 水原さんの前ではお姉さんでいたい様で、猫かぶってるんですよ。
  涼   : ……そういうこと……。

 見栄っ張りというか、なんと言うか……。

  百合佳 : あやめ! 今、涼君に何か話したでしょ!?
  あやめ : え!? えーっと……あはは……。
  百合佳 : もうっ! 涼君には『頼りになるお姉さん』でいたかったのに……。
  涼   : 心配いりませんよ、百合佳さん。
  百合佳 : ……ホント?
  涼   : はい。初めから『頼りになる』とは思ってませんから。
  百合佳 : ……酷い……。

 百合佳さんがまた涙目になる。
 ……まずい。
 そーっと、ハルの方へ目を向ける。

  春希  : なんだ?
  涼   : え、あ、いや……また何か言われるものかと……。
  春希  : 客観的事実を否定しても仕方なかろう。

 ……ハルらしいといえばハルらしいが、仮にも自分の嫁でしょ。
 少しくらいフォローしろよ。

  百合佳 : ……春希さん、今、さりげなく酷いこといわなかった?
  春希  : さぁな。それより、そろそろこいつらから離れるぞ。
  あやめ : 私たちはお邪魔虫ですか?
  春希  : 俺の勘が間違ってなければ、こいつらと一緒にいるとろくな事が起こり
        そうに無い。面倒な事はごめんだ。
  涼   : ハル、それってどういう―

 ハルに問いただそうとするより早く、ハルは既に遥か彼方に……。

  百合佳 : あ、ま、待って! 春希さん!

 慌てて百合佳さんも追いかけていくが……。

  涼   : なるほど。こういうことか。

 百合佳さんが隠したい気もわからないでもない。
 ……経験者と呼べるレベルかどうか……。

  あやめ : あ、あの……お義兄さんの瞬間移動に関しては何も……?
  涼   : ハルならそれくらい容易いだろうな。
  あやめ : ……。

 なんせ、ここ数年歳を取らないなんてことができてるんだ。
 瞬間移動くらいはお手の物だろう。

  あやめ : 水原さんも出来るんですか?
  涼   : それは無理だ。
  あやめ : そうですよね……。
  涼   : 明鐘に何かあればスキーでここを登っていく事位は出来るかもな。
  あやめ : ……。
  涼   : あ、そういえば。明鐘が風邪を引いた時、心配になって走って帰ったとき
        は……。
  あやめ : は、走って!? 鹿角から北末原まで!?

 ちなみに、北末原というのは駅名で、鹿角高校までは電車を使っても40分くら
いはかかる。

  涼   : うん。その時、トラックを飛び越した記憶がある。
  あやめ : ……。

 ……気持ちはわかるが、そこまで引かないでくれ。

  涼   : それにしても、ハルは何の事を言っていたんだ?
  あやめ : 面倒事が起こるとか言ってましたよね?
  涼   : ……心当たりが多すぎて余計わからん。
  あやめ : ……どうします?
  涼   : 気にせず滑ろう。
  あやめ : はい。

 ここ最近何かと面倒事が多くて多少の事は慣れているけどな。
 ま、なるようになるか。



 スキーでの競争というのは中々白熱するものがあるな。

  涼   : はぁ〜……負けた!
  あやめ : ギリギリでしたけどね。
  涼   : それでも負けは負けさ。

 いくら惜しくても負けは負け。
 過ぎたことをいつまでも振り返るな、と手厳しい保護者様に言われてきたからな。
 その辺は潔く負けを認めることにしている。
 だが、この先いくらでも変えられそうな事に関しては絶対に譲らない。

  涼   : あと一回滑ったら丁度昼だな。
  あやめ : お昼は奢ってくれるんですよね?
  涼   : うん。ちゃんと覚えてるよ。……やっぱり、嬉しい?
  あやめ : あはは……。

 照れ笑いという感じか。
 素直な娘だね。

  笑穂  : 思ったより仲良くやっているではないか。
  涼   : お嬢、明鐘。二人も今降りてきたのか?
  明鐘  : うん。兄さん、上手く滑れるようになった?
  涼   : おう。もうバッチリだ。
  あやめ : 教える前にマスターされてしまいました。
  涼   : お嬢はどうなんだ? 
  笑穂  : お前の妹さんの教え方が良いのでな。すぐに覚えれたよ。誰に似たのか
        な。
  美紀  : ブラコンの鐘ちゃんが見てるのなんて、涼しかいないでしょ。

 相変わらずの冗談を言いながら、美紀たちも合流してきた。

  美紀  : やっほ〜♪
  涼   : お前はいつでも微妙な言い方をするな。
  美紀  : 事実を言ったまでよ。

 明鐘が真っ赤になって縮こまっている。

  笑穂  : まぁ、水原のように教え上手というのは確かに事実だな。
  涼   : ところで、美紀。スキーは上達したか?
  美紀  : ……嫌な事聞かないでよ……。
  あやめ : 何かあったんで……。お疲れ様です。
  明鐘  : ? あやめちゃん、何か知ってるの?
  涼   : 知ってるというか、見たと言うべきか……。
  美紀  : 見てたんなら止めてよぉ〜……。

 絶対いやだ。
 俺はともかく、まともなあやめちゃんまで変な目で見られる。

  笑穂  : 周りの目がいたい、という理解でいいかな?
  美紀  : 理解が早くて助かるよ、笑りん。
  明鐘  : ……ところで兄さん。そろそろ何か言ってあげたら?
  涼   : ……おい、バカ。
  西守歌 : 涼様……可愛い婚約者が再会の口づけを求めていましたのに〜!
  涼   : 可愛くない、婚約者じゃない、そんな事しない。
  あやめ : うわ、全面否定……。

 1つでも容認したら何を盾に結婚を強要されるかわからない。

  西守歌 : うぅ〜……わかりました。
  涼   : 何がわかったのかわからんが、わかってくれてありがとう。
  西守歌 : では、涼様。勝負ですわ!
  涼   : ……ちょっと待て。
  西守歌 : はい?
  涼   : どういう流れでそうなった?

 今、いきなり話が飛ばなかったか?

  西守歌 : 涼様は私にキスをするのがいやなのですよね?
  涼   : 当たり前だ。
  西守歌 : ですから、勝負をしましょう。
  涼   : なぜだ?
  西守歌 : 私が勝ちましたら、涼様のキスを頂きたいのです。
  涼   : な、なに?
  西守歌 : あ、涼様が勝ちましたら婚約を解約しても構いませんよ?
  涼   : やるか!
  あやめ : そんなに解約したいんですか?
  涼   : なんとしても!

 リスクはあるが、そういうことならなんとしても勝たねば。
 俺の将来のためにも。

  美紀  : ねぇ、それって、勝った人が負けた人に何でも言う事聞いて貰えるって
        ことよね?
  西守歌 : そういうことになりますね。
  美紀  : おもしろそ〜♪ 私も参加する〜!
  西守歌 : えっ!?
  明鐘  : じゃあ、私も。
  西守歌 : 明鐘さんまで!?
  明鐘  : 私も兄さんにお願い聞いてもらえるんだし。
  笑穂  : そういうことなら、私も参加しよう。
  涼   : お嬢?
  笑穂  : なぁに、私はただの面白半分さ。
  美紀  : あやめちゃんは?
  あやめ : ……参加、します。

 そんなわけで、6人で競争する事になった。
 警戒すべきは、西守歌と美紀か。
 どうあっても、こいつらをトップにさせるわけには行かない!



 ……と言う訳で、勝負しだすと西守歌が俺に対して妨害しまくって、俺は気付け
ば最下位。
 後は西守歌と美紀以外がトップになることを祈るしかないな。

  涼   : だいぶ離されてたからなぁ。
  笑穂  : あ、戻ったか。
  涼   : お嬢。勝負にあんな妨害はありか?
  笑穂  : 非公式の勝負だ。その辺のルールを確かめないお前も悪い。
  涼   : 次からは気をつけるよ。で、誰が勝ったんだ?
  笑穂  : お前の祈りは通じたと思うが。

 お嬢が西守歌と美紀を見る。
 膝をついているところを見ると、負けたな。

  涼   : 確かに通じたようだな。
  明鐘  : 兄さん!
  涼   : 明鐘……。そうか、お前が勝ったのか……。
  明鐘  : ううん。負けた。
  涼   : は? じゃあ、誰が……?
  あやめ : あ、あの、私です。
  涼   : あやめちゃんか。ちなみに、どういう経緯で勝ったの?

 さすがに、かなり離されていたからそこまではわからん。
 それに、あやめちゃんも上手いが、西守歌はなぜか更に上手かった。
 その辺を考えると、西守歌が勝ってもおかしくない。
 ……いや、むしろ勝たないとおかしいような気がしないわけでもない。
 というより、どんな手段に出ても勝ちに行きそうだろう、今回の場合。

  あやめ : えっとですね……益田さんと守屋さんが最初トップだったんですね。
  涼   : うん。
  明鐘  : それで、途中からなんだかもめだしてね。
  涼   : ほう。
  笑穂  : 気付けば私たちの後ろだ。
  涼   : ……だから、なんで?
  笑穂  : 知らん。事実、そういう経緯で私たちが前に出たんだ。理由は知らない。
  涼   : ……それもそうか。で、お嬢たちは?
  明鐘  : 普通にお喋りしながら滑ってた。
  涼   : ……は?
  あやめ : それで、気付けば私が少し前に出てたんです。
  涼   : ……気付いたら勝っていた?
  笑穂  : おぉ、水原。正解だ。

 やっぱり。

  涼   : まぁ、一安心ってところか。
  笑穂  : ふふっ。私としては、少し残念だ。
  涼   : なんで?
  笑穂  : また、兄貴が私にCMに出ろと言い出してな。
  涼   : ……断れ。
  笑穂  : そうしよう。
  明鐘  : あやめちゃん。兄さんになにをお願いするの?
  あやめ : えっと……じゃあ……。



  涼   : 本当にこれでいいのか?
  あやめ : はい。私、本当はお兄ちゃんがいたらなぁ、って思ってたんです。お
        姉ちゃんには内緒ですよ?
  涼   : うん。でも、俺と二人だけで食事っていうお願いとはね。

 そう。
 あやめちゃんのお願いと言うのは俺とただ食事をすること。
 ……西守歌達にはしっかり釘を刺しておいたのは言うまでもない。

  あやめ : だって、水原さんしかいないじゃないですか。お兄ちゃんは。
  涼   : ……それもそうだな。
  あやめ : それと、あれもやってみたかったんです。
  涼   : あれ?
  店員  : お待たせしました。

 あれの正体を聞く前に料理がやってきた。
 しかし、明鐘と一緒にいる以外で聞かれるとは思っても見なかった。

  店員  : 彼女とお食事? 可愛い彼女ね。
  涼・
   あやめ: はい?
  店員  : ごゆっくりどうぞ。

 俺たちが何か言う前に、店員さんは行ってしまった。

  涼   : ……。
  あやめ : ……あの。
  涼   : うん。
  あやめ : そんな風に見えます?
  涼   : ……。

 あやめちゃんを見てみる。
 年齢では3つくらい離れているけど……。

  涼   : あぁ、そっか。
  あやめ : ?
  涼   : 背が高いからじゃないか? 普通、あやめちゃんくらいの歳だと百合佳さ
        んより低いだろ?
  あやめ : そういえば、私だけクラスのなかで高いほうですね。そのせいか、少
        し年上に見られますね。
  涼   : ということはやっぱり……。
  あやめ : そう見えるんですね。

 そう意識するとやっぱり恥かしいものがある。
 別にいやとかではないが、明鐘以外でそう見られたこともないので、やっぱり少
し戸惑う。

  あやめ : じゃあ、やっぱりあれやるともっとそう見えちゃいますね。
  涼   : ? さっきもそんな事言ってたけど、何のこと?
  あやめ : 『あ〜ん♪』です。
  涼   : ……見えるじゃなくて、完全にそう思われそうだな。
  あやめ : ですね。
  涼   : ……試してみる?
  あやめ : はい♪

 ……なんでそんなに嬉しそうなの?
 俺なんかとそんな風に見られて嬉しいのかな?
 まぁ、俺は別にいいけど。

  涼   : はい、あ〜ん。
  あやめ : あ〜ん♪
  涼   : 美味い?
  あやめ : とっても♪ 明鐘さんがあそこまで甘えるのもわかりますね。
  涼   : そうか? 兄妹なんだし、普通だと思うけど……。
  あやめ : 同性の兄妹ならまだわかりますけど、異性の兄妹となりますとねぇ……。
  涼   : ま、異常に仲がいいのは認めよう。
  あやめ : あ、自覚はあったんですね。
  涼   : 美紀をはじめとした友人にやたら言われた。
  あやめ : くすくす。
  涼   : ……。

 なんか、笑う仕種とか百合佳さんに似てるな。
 ……姉妹だし、特に意識せずにそうなるものなんだろうな。

  あやめ : ? どうかしました?
  涼   : え……。あ、いや……なんでも。
  あやめ : ? あ、さっきのお返しまだでしたね。

 そう言って、から揚げをフォークで刺し、俺の前までもってくる。

  あやめ : はい。水原さん。あ〜ん。
  涼   : ……あ〜ん。
  あやめ : どうですか?
  涼   : うん。美味い。…………っ!?
  あやめ : あの、どうかしました?
  涼   : いや、なんか……悪寒、か? なんか、誰かに物凄い形相で睨まれてる気
        がするんだが……。
  あやめ : ……水原さんって、マスターに似ているかもって思います。
  涼   : ?

 あやめちゃんの言葉をあまり理解できないまま、食事を終わらせる。
 午後からのスキーは昼飯時に感じた視線を感じながら、滑った。
 ……はっきり言って、まったく滑った気がしなかった。


 Next


<<管理人が「Φなる・あぷろ〜ち」未プレイのため、コメント保留CHU!>>


無断転載厳禁です。
show index