Φなる・あぷろーち SS

大進展!? 愛と波乱のスキー旅行 〜 笑穂編 Part.1 〜

                       震天 さん

  涼   : お嬢、行くぞ。
  笑穂  : ……私か? しかも、その言い方では私に有無を言わさないつもりだな?
  涼   : せっかく美紀が俺の意思を尊重してくれると言ったんだ。
  美紀  : うん、確かに言った。
  涼   : だから、俺はお嬢と滑る。
  西守歌 : 涼様! ここは本来、許婚である私をお誘いするのが自然ですわ!
  明鐘  : でも、付き合っている笑穂さんを誘うのも自然だよねぇ?

 明鐘にとっては何気ない一言だろうが、俺にとっては最大の援護、西守歌にとっ
ては裏切られたようなものだ。
 明鐘、やっぱりお前は俺の一番の味方だ。

  涼   : 明鐘。今度好きな服を買ってやるぞ。
  明鐘  : え!? う、嬉しいけど、どうしたの? 急に。
  涼   : 俺はお前が妹で本当に幸せだと思っている。その感謝の気持ちだ。
  明鐘  : 兄さん……。うん! じゃあ、お言葉に甘えて。今度、樫林(かしばや
        し)でまた買い物しようね♪
  涼   : おう。

 明鐘の頭を撫でる。
 普通の兄妹では兄貴に頭を撫でられても嬉しくもなんとも思わないが、明鐘はす
ごく喜んでくれる。
 だから、ついつい妹に対して甘くなってしまう。
 全国の兄貴も、妹がこれだけ可愛げがあると甘くなるって。

  美紀  : あぁ〜……まぁた二人の世界に入っちゃってるよ。
  西守歌 : 私もいつか、あの世界に……。
  あやめ : やめておいたほうがいいと思います。
  笑穂  : 水原。妹さんといちゃつくのは構わないが、彼女の私を放っておくのは、
        感心しないな。
  涼   : お、お嬢……。
  明鐘  : クスッ。兄さん、笑穂さんにやきもち焼かれちゃったね。
  笑穂  : ああ。盛大に焼きすぎて燃え尽きそうだ。
  涼   : ……。

 何の飾り気も無く、いや、むしろ飛躍させた言い方で言い放った。
 苦笑するしかないだろう。

  美紀  : 涼。
  涼   : ん?
  美紀  : らぶらぶ?

 美紀は百合佳さんの真似をして聞いてきた。
 さて、ここはどういう風に応えれば―

  笑穂  : あぁ、らぶらぶだ。なぁ? 水原。
  涼   : ……あぁ。そうだ。

 あまりにもすっぱり言い切ったから、合わせるしかないだろう。
 まぁ、俺としても嬉しくはあるけど。

  明鐘  : じゃあ、お義姉さんですね♪
  西守歌 : 明鐘さん。お義姉さんになるのは私ですよ?
  涼   : それは無い。絶対にない。
  西守歌 : そんな、涼様、酷い! 同じ布団で共に一夜をすごした仲なのに!
  美紀  : ……あんた、笑りんという者がありながら、そういうことを……。
  涼   : ……お前、俺が本当にそういうことをすると思っているのか?
  笑穂  : 心配するな、水原。私はお前を信じるぞ。
  涼   : サンキュ。
  あやめ : これが愛の力なんですね!
  西守歌 : ……皆様、なぜ納得されるのですか?

 それはそろそろお前の性格を皆が把握し始めてきたんだろう。

  美紀  : 襲うなら鐘ちゃんよねぇ〜?
  明鐘  : み、みぃちゃん!
  あやめ : あ、ありえるかも……。
  笑穂  : そうか……私はまだ妹さんの域に達していないという事か……。
  涼   : なっ! ち、ちがっ!
  西守歌 : ……なんか納得いきませんわ……。

 なんだか収拾がつかなくなってきそうなので、一気に飛ばすぞ。

  美紀  : 笑りんは涼に取られちゃったし……ボクと一緒に来るかい、鐘ちゃん?
  涼   : なに人の妹を誘惑してんだよ。
  明鐘  : はい、どこまでも。
  あやめ : うわっ! OKしちゃった……。
  水原  : うん。間違いなく水原の妹さんだな。
  美紀  : 涼の家族に近づくにはこれくらいが当たり前にならないと。
  西守歌 : そうだったんですか……。私と一緒に来てもらえますか? あやめ様。
  あやめ : え、あ、あの……。
  西守歌 : あぁん! これでは涼様にアピールできませんわ!
  美紀  : いや、別にそういうことをするのがアピールに繋がるわけではなく……。
  涼   : もう良い。行くぞ、お嬢。
  笑穂  : そうだな……。

 西守歌が未だに俺へのアピールがどうこう叫んでいるが、気にしないでおこう。
 気にしたらまた収拾つかなくなる。
 やっぱこういうときは無視だ、無視。



  笑穂  : さて、初心者コースまで来たけど、どうする?
  涼   : どうするとは?
  笑穂  : 鈍い奴だな。私もお前も初心者だ。どうやって滑るのだ?

 あぁ、そのことか。

  涼   : どうやってって、見本なら周りにたくさんいるじゃないか。

 そういうって、俺は周りを見渡す。
 止まってお喋りする人、上から滑ってくる人、こけてる人。
 これだけ見本になる人がいるんだ。
 問題は無いな。

  笑穂  : 見本って……水原。まさか、周りを見て独学で滑る気か?
  涼   : まぁ、そのつもり。
  笑穂  : それが出来る奴は、ある種の天才だな。
  涼   : じゃあ、出来たらどうするんだ?
  笑穂  : そうだな……なら、昼食を口移しで食べさせてやろう。
  涼   : ……マジ?

 ちなみに、いろんな意味を含めての『マジ?』だ。
 俺もお嬢もさほど周りを気にするタイプではないが、そこまでいちゃつくのもど
うかと思う。
 だが、どちらかというと、かなり嬉しい。

  笑穂  : お前に嘘をついても何のメリットもない。……まぁ、少し恥ずかしいの
        は事実だが。
  涼   : いいのか? 俺はすぐにでもマスターするかもしれないぞ?
  笑穂  : それなら、すぐにでも教えてくれる人が出来る。何の問題もないし、私
        にリスクもない。水原がマスターした時には、私が手ほどきを受けるだけ
        なのだからな。
  涼   : そうか。言われてみれば、お嬢には何のリスクもないな。
  笑穂  : そういうことだ。ついでに言えば、水原にもない。良い事尽くめだ。

 いつも通りの冷静な分析力だな。
 ほとんど、緊急事態にもそれほど慌てないお嬢なのだ。
 慌てるお嬢も見てみたいものだ。

  笑穂  : で? 滑れそうなのか?
  涼   : う〜ん……。

 周りをざっと見渡しても、スムーズに滑ってるのは上級者みたいだな。
 お、あの人なんか、すっごく上手に……。

  春希  : 何をじっと見ている?
  涼   : って、ハルか。……ハル、俺の記憶違いでなければ、スキーはかじった程
        度に経験があるんだったよな?
  春希  : あぁ。
  涼   : ……上級者?
  春希  : 百合佳が少し遅れているようだ。また人にでもぶつかったか?

 俺の質問は無視されたように見えるが、ちゃんとハルは答えてくれたのだ。
 ハルに言わせれば、スキーはかじった程度でも上級者コースは滑れる、というこ
とになるのだ。
 ハルについていくとなると、無論上級者コースに行くことになるだろう。
 それについていった百合佳さんが、滑ってる途中、何人かにぶつかっているようだ。

  笑穂  : ちなみに、お義兄さん。
  春希  : なんです?
  涼   : やっぱり否定しないのか……。

 まぁ、お嬢だから別に構わない。

  笑穂  : 失礼ながら、スキーは何回目ですか?
  春希  : 2回目だ。
  涼   : ……は?
  春希  : ……来たか。

 ハルが後を見ると、百合佳さんが追いついてきたらしい。

  百合佳 : お、おまたせぇ〜……あれ? 涼君に、陸奥さん?
  笑穂  : どうも。

 遅れて降りてきた百合佳さんに、お嬢が軽く会釈をする。

  涼   : 百合佳さん、ハルって、そんなに早いの?
  百合佳 : うん。なんだかね、素人がプロに必死に追いつこうとしてるって感じ
        なの。同じように滑ってるはずなんだけど……。
  春希  : 俺は普通に滑ってるだけだ。そもそも、他人とまったく同じことをして
        も、同じ結果を得られるとは限らない。自分にあったやり方で滑れば良い。
  笑穂  : つまり、武笠さんにとっては、これが普通、ということですか?
  春希  : そういうことだ。……休めたか?
  百合佳 : うん。もう大丈夫。
  春希  : じゃあ、涼。俺たちは先に行く。
  百合佳 : また後でね。
  涼   : うん。
  笑穂  : はい。

 二人が滑っていく。
 しばらく二人の様子を見ていたが、さっき百合佳さんが言った事は本当らしい。
ハルと百合佳さんの距離がだんだん開いていく。

  笑穂  : なるほど。中々厳しそうなお義兄さんだな。
  涼   : ハルは絶対に自分から教える事はない。聞かれないと答えないタイプだし、
        見て覚えれるような事は見て覚えさせる傾向が強い。
  笑穂  : しかし、2回目であれだけ滑るという事は、やはり相当な天才型という
        ことになるんだろうな。
  涼   : 加えて見た目があれだからね。気付いてたか?
  笑穂  : 目で追えばわかる。人一倍輝いているからな。

 前にも言ったと思うが、ハルは男の俺から見ても芸能人やモデル顔負け美形だ。
 端から見れば、完璧が服を着て歩いているようなもの。
 女性から見れば、さぞかし輝いて見えるんだろうなぁ……。
 ……中身を知らないというのは、不幸中の幸いというか……。

  笑穂  : 知らぬが仏だな。
  涼   : あたり。

 実際に付き合った女性を何人か見てきたが、ハルについていけずあっさり分かれ
る事が約9割。
 更に余談になるが、ハルは複数の女性と付き合う事が多かった。
 俺が記憶する限り、多いときは2桁は同時に付き合っていた記憶がある。
 それをお嬢に話したところ、

  笑穂  : 2桁か……それはすごいな。

で済まされた。
 だが、さすがに少し苦笑気味だったのは言うまでもない。

  涼   : まぁ、ハルの謎は今に始まった事じゃない。気にしないで、俺たちも滑ろう。
  笑穂  : 滑ろう、と言われても……私たちはまだ―

 お嬢が何か言い出す前に滑ってみた。
 確か、止まる時は……ハルはこうやってたよな……。

  涼   : よっ。

 ハルと同じように斜面に対して板を垂直にしてみる。
 しかし、

  涼   : あらら?

なぜかまだ少し滑っていく。
 ……世界不思議発見?

  涼   : いや、ボケてる場合か。

 自分でボケておきながら自分でつっこむのはなんだか寂しいが、この際気にするな。
 えーっと、どうやったら止まれるんだ?
 ……そうか、全面つけてたら止まれんよな。
 板を雪に引っ掛けるようにして、ようやく止まれた。

  涼   : お嬢! どうにか理解したぞ!
  笑穂  : ……それは……すごいな……。

 さて、俺も滑り方を少し覚えた所でお嬢にコツだけ簡単説明する。
 ちなみに、作者はスキーの事は詳しくないので省かせてもらう。
 上の事に関してもわかりにくいだろうが、想像力を宇宙の如く膨らませてくれ。

  笑穂  : こうか? 水原。
  涼   : ……。

 俺はお嬢に確かに、滑り方とコツを教えた。
 だが、教えて物の数秒で滑れるようになるか、普通?

  笑穂  : どうした? 水原、ポカンとしてるぞ?
  涼   : いや、お嬢って飲み込み早いな、と思って。
  笑穂  : お前の教え方がいいからだ。何よりわかりやすい。
  涼   : そう言ってくれるのはありがたいが……。
  笑穂  : ?

 俺がお嬢に手取り足取り手ほどきをする計画が……。

  笑穂  : ……なんだかよくわからんが、すごく悔しがっているという事はわかる。
  涼   : ちなみに、俺の考えも読んでくれるともっとありがたい。
  笑穂  : それは無理だ。私はエスパーではない。
  涼   : そりゃそうか。

 まぁ、俺もお嬢もすぐにマスターできたと言うことは、一緒に滑れる時間が多い
ということだ。
 それを考えれば、別に悔しがる理由はどこにもない。
 ……まぁ、お嬢といちゃつく事ができない事は残念だが。

  笑穂  : 考えは読めないが、なにやらいやらしいことを考えていたような気がす
        る。
  涼   : ……さ、さて、お嬢。滑れるようになったんだし、一度降りて中級者コー
        スに行かないか?
  笑穂  : ふふ。声が裏返っているぞ、水原。
  涼   : そ、そうか?
  笑穂  : ……そうだな。では、私なりにお前の気持ちを察しての事だから間違っ
        ていたら指摘してくれ。

 そう言って、お嬢は軽く俺の頬にキスをした。

  笑穂  : 違うか?
  涼   : ……当たらずとも遠からず、かな?
  笑穂  : そうか。それはよかった。では、行こうか。
  涼   : あぁ。



 という事で、俺達は早々にスキーを楽しむ事ができた。
 さすがにすぐに完璧、と言うことは無理だったようで、俺もお嬢も何回かこけた。
 それでも、1時間も滑っていればこけなくなった。
 その途中で、明鐘と美紀を発見した。

  涼   : 明鐘。どうかしたのか?
  明鐘  : えっと……みぃちゃん。
  美紀  : へにょ。
  笑穂  : 討ち死にか?
  美紀  : もうっ! 私はスキーなんか嫌いだ!
  明鐘  : でも、もうちょっとだよ。
  涼   : そうなのか?
  美紀  : 起き上がるのと滑るのと止まる事。
  涼   : ……全部じゃん……。

 なにがもうちょっとなんだろうか?
 まぁ、励ます時に落ち込ませるようなことはいえないよな。
 しかし、美紀に気力を与えない事には、明鐘が困るだろうな。

  涼   : 美紀。もうリタイアか?
  美紀  : うぅ〜……だってぇ〜……。
  涼   : ほら。昼飯おごってやる―
  美紀  : 鐘ちゃん! 滑るわよっ!
  笑穂  : ……さすがは幼馴染だな。特性を良く理解している。
  涼   : こいつは食い物が絡むと……。
  明鐘  : み、みぃちゃん!? ちょっと待って!

 気付いたら美紀はかなりのスピードで滑っていった。
 明鐘も少し遅れて滑っていったが、多分、追いつけないだろうな。

  笑穂  : 水原……守屋に何が起こったのだ?
  涼   : 美紀は食い物が絡むと無敵になる。
  笑穂  : しかし、守屋と水原が離れてしまっては……。
  涼   : ……ああなると何も考えてないからな、あいつ。

 食い物が絡むと能力が高まるのは認めよう。
 性格も少し高飛車にはなる。
 ただ、若干、知力が衰えるのは……まぁ、目を瞑ろう。

  涼   : ……滑るか。
  笑穂  : そうだな。

 さっきの出来事はなるべく頭の中から消しておこう。



  笑穂  : スキーは初めてだが、中々おもしろいな。
  涼   : そうだな。

 丁度俺もお嬢も腹が減ってきたし、時間的にもいい具合なので昼飯にする事にし
た。

  笑穂  : まぁ、お前と一緒、と言うのが大きなポイントだろう。お前となら、
        どんな状況でも悪くないかも知れんな。
  涼   : 遭難してもか?
  笑穂  : 一度してみるか? お前なら、そう言う状況になっても、少しは気を紛
        らわせようとしてくれるだろう?
  涼   : まぁ、気が滅入る様な事はしたくないし……。
  笑穂  : だろ? 要は、お前と一緒なら、どんな状況でも悪くないという事だ。
        最悪な状況でもな。

 ……お嬢らしい言い種ではあるが……。
 多分、本人は気付いてないだろうな。

  涼   : お嬢。
  笑穂  : なんだ?
  涼   : それは殺し文句だろ? もう少し雰囲気のあるときに言って欲しかったな。
  笑穂  : そうか……しまったな。
  涼   : お嬢らしいけどな。
 笑穂:着飾るのは嫌いだ。前にも言ったが、猫をかぶる必要があるとき以外は
こんな感じだ。

 それは俺も同じだ。
 バイトでは礼儀正しくしないといけない分、プライベートは思いっきり羽を伸ば
す感じだな。
 思い返してみれば、お嬢とのCM騒ぎの際、無理に笑顔を作った後、リバウンド
で二人とも仏頂面になっていたな。
 それと同じようなものか。

  涼   : さて、お嬢が俺に惚れ直したところで、なに食う?
  笑穂  : 失礼だな。別に惚れ直してない。
  涼   : ……へこむからそうきっぱり言わないでくれ。

 ちょっとした冗談で言ったつもりだったのだが……。
 へこみ気味の俺を尻目に、お嬢はオーダーを済ませる。
 まぁ、へこみながらも俺もちゃんとオーダーを済ませたのだがな。

  笑穂  : 惚れ直してない代わりに、感謝している。
  涼   : 感謝? なんで?
  笑穂  : パートナー選びの時。ちゃんと私を選んでくれたのだな。
  涼   : 当然さ。なにせ、俺達は付き合っているんだからな!

 親指なんか立ててみる。

  笑穂  : では、そのことを抜きにして考えたら、どうだったのだ?
        やっぱり、私を選んだか?
  涼   : ?
  笑穂  : 言葉が足りなかったかな? 友達としての私だったのなら、私ではなく
        妹さんやお前の婚約者を選んだのではないか?
  涼   : ……明鐘のことに関しては否定する気はない。多分、明鐘が俺と滑りたい
        と一言でも言っていれば、俺は明鐘を選んでいたかもしれない。だがな……。

 俺は一度目を閉じ、しかめっ面を作って言葉を繋げる。

  涼   : あれは婚約者じゃないし、ほぼ100%選ばん!
  笑穂  : ……すごい……言い切った……。
  涼   : 西守歌と滑るくらいだったら、ハルと滑る方が……どっちがマシだと思う?

 比較の対象をハルにした時点で何か間違ったかもしれないな。

  笑穂  : 途中で私に聞くな。でも、あまり彼女の事を悪く言うのもどうかと思う
        ぞ?
  涼   : そうは言ってもな……。

 絞め落とす、薬を盛る、人を騙す、朝起きていきなりキスしようとする、etc……。
 これだけやらかして、悪く思うなと?
 それは無理な話だ。

  笑穂  : あぁ、わかってる。確かに、彼女も少しやりすぎた。だが、ああいう無
        茶をしたのは、やっぱりお前の事を思っての事だと思うぞ?
  涼   : ……お嬢。
  笑穂  : なんだ?
  涼   : 恋人が恋敵の味方をしていいのか?
  笑穂  : ……。言われてみればそうか。だが、今のは恋のライバルとしての言葉
        というより、一クラスメートとしての言葉として受け取ってくれ。
        それにな、水原。
  涼   : ?
  笑穂  : 私は彼女とも友達でいたい。だから、お前を独り占めしようとも、彼女
        ことを悪く言うつもりもない。第一、私はお前の彼女だ。それだけ見れば、
        私は彼女より一歩前に出ているのだ。それで関係を壊したくない。
  涼   : ……そう、か。まぁ、確かに腹の中は真っ黒だが、そこまで悪い奴ではな
        いしな。
  笑穂  : ……今、さりげなく悪口をいれなかったか?
  涼   : 気のせいじゃないか?
  笑穂  : ……そうか?
  涼   : 気のせい。

 そう言ったとき、丁度頼んだ料理がやってきた。
 俺は自分のおかずから適当な物をフォークで刺し、お嬢の口元に持っていく。

  笑穂  : ……?
  涼   : これに免じて、そういうことにしておいてくれ。
  笑穂  : 仕方ないな。

 まぁ、気付いてる奴もいるかもしれないが、いわゆる『あ〜ん♪』という奴だ。
 ……恥ずかしいから、声には出したくないんだが……。

  笑穂  : ……。
  涼   : ? 食べないのか?
  笑穂  : 聞き返すようで悪いが、言ってくれないのか?
  涼   : ……言わなきゃ……ダメ?
  笑穂  : というより、言ってくれ。そのほうが何倍も美味しく食べられると思う。
  涼   : ……その言い方はずるいと思わないか?

 そう言われて誰が断れるんだ?
 しかし……。

  笑穂  : 今ならまだ知り合いは誰もいない。あまり渋っていると、料理は冷める
        し、誰かが来るかもしれないぞ?
  涼   : ……謹んで、言わせて頂きます。

 俺は意を決し、その言葉を言う。

  涼   : あ、あ〜ん……。

 お嬢はそのまま普通に俺の差し出した物を食べる。
 ……照れもほとんど無く。

  笑穂  : うん。やっぱり、こうして食べさせてもらったほうが美味しいな。
  涼   : そ、そうか……そりゃ良かった……。
  笑穂  : ……そうだ。すっかり忘れていたな。
  涼   : ?

 お嬢は自分の料理を持って俺のすぐ隣まで来る。

  涼   : お嬢?

 お嬢は何も言わず、自分の料理を……咥えた。

  笑穂  : ん。
  涼   : え……?

 そのまま顔をこちらに向ける。
 しかし……どうしろと?

  涼   : お嬢、俺の勝手な意見を言って良いか?

 お嬢は頷く。

  涼   : ……その咥えた料理を食え、そんな感じに見えるが?

 今度は二度頷く。
 ……マジですか?
 それは、つまり……さらし者になれと?

  お嬢  : ……。

 どうやら待ちきれなかったのか、咥えていた料理を食べて、口を開く。

  笑穂  : どうして食べてくれないのだ?
  涼   : 公衆食堂の真っ只中だぞ?
  笑穂  : だから、見物人を極力避ける位置に移動したのだがな。
  涼   : ……お嬢は恥ずかしくないのか?
  笑穂  : 変な事を聞くな。恥ずかしいに決まってる。
  涼   : ……。

 しれっと答えるお嬢に疑問を持つ。
 ……どこが?

  笑穂  : とにかく、そういう約束だっただろう?
  涼   : 約束……まさか、あれ?
  笑穂  : 勝てる賭けだと思ったんだがな……。
  涼   : ……。

 かなり前だし、その直後にハルと会ったから綺麗さっぱり抜けていた。
 そういや、そういう約束だったな。

  涼   : そうだとしても、先に事情を話してくれ。
  笑穂  : それは悪かった。では、改めてする事にしよう。

 と言って、お嬢はまた料理を咥え、こちらを向く。
 俺は一応周り確認し、他の客がこちらを見ていないことを確認してお嬢の咥えて
いる料理をかじる。
 ……唇同士が触れ合ったのは言うまでもないが。

  笑穂  : ……自分で言い出したこととはいえ、さすがにこれは……。
  涼   : 恥ずかしいだろ……?
  笑穂  : 今度からは、二人きりでする事にしよう。
  涼   : うん。…………はぁっ!?
  笑穂  : なんだ、水原。私とはもう、口移しで食べたくないか?
  涼   : いやいや、滅相もない。またお願いします。……そういう問題か?
  笑穂  : 私に聞くな。ま、思い出したときにな。
  涼   : わかった。

 その後は普通に食事をして店を出る。



  笑穂  : いきなり上級者コースにランクアップか。ちょっと、無謀ではないか?

 確かに、初めてのスキーでもう上級者コースって言うのは……。
 でも、ま、俺もお嬢もだいぶ滑れるのだ。
 だいじょうぶだろう。

  涼   : ちょっと急だけど、すぐ慣れるよ。
  笑穂  : お前の言葉を信じよう。

 それにしても、ハル達いきなりこんなところに来てたのか。
 そりゃ、差が出るよなぁ〜……。

  西守歌 : わっ!
  涼・笑穂: っ!?
  西守歌 : まあ♪ 涼様ったら、私に再会できて嬉しいだなんて♪
  涼   : どこが嬉しそうに見える……?

 いきなりの奇襲で心臓が……。
 こいつ、ホント心臓に悪い。

  西守歌 : 頭の先からつま先まで。
  涼   : 一度眼科に行ったらどうだ?
  西守歌 : ご心配なく。視力は両方とも1.0以上ですから。
  笑穂  : 君達ももう上級者に挑戦か。お互い、無謀な事をしているようだな。
  あやめ : わ、私はそう言ったんですけど……益田さんが……。
  西守歌 : だってぇ〜、涼様たちがここに来るのをお見かけしたもので。
  涼   : それで追って来たのか?
  西守歌 : 涼様が悪いんですよ。私を選んでくださらなかったから……。
  涼   : 俺が悪いのか?
  西守歌 : はい。

 こいつとまともに会話できる奴、いるのだろうか?
 ……一人いたな。
 これと同じタイプのお方が。

  春希  : 呼んだか?
  涼   : っ!?

 本日二度目の奇襲。
 なんでこの人たち、気配を消して人の背後に立つ?

  涼   : ……参考までに、いつから?
  春希  : 『どこが嬉しそうに見える・・・?』辺りだったか。
  涼   : ……。
  春希  : 食事を一緒にした。
  涼   : まだ何も聞いてないんだけど……?
  春希  : そういう顔をしていた。
  涼   : あ、そ。

 さすがは俺の保護者様。
 的確に俺の言いたい事を理解してくれるなんて。
 百合佳さんとあやめちゃんはスキーを始めてから初めて会ったのか、楽しそうに
お喋りをしている。
 ……心なしか、二人ともなんか顔が赤いんだけど……?

  春希  : 百合佳、行くぞ。
  百合佳 : あ、うん。今行きます。じゃあね、あやめ。
  あやめ : うん。
  春希  : おっと、そうだ。

 ハルは滑る直前でこちらを向く。

  春希  : 涼。
  涼   : ?
  春希  : 人前でラブシーンはやめろ。
  涼   : !?

 それだけ言い残すと、ハルはさっさと滑っていった。
 百合佳さんも、一度だけこちらを見ると、意味ありげな笑みを浮かべてハルの後
を追う。

  あやめ : 益田さん、私達も。
  西守歌 : そうですわね。
  笑穂  : 随分と退きが早いじゃないか。
  西守歌 : えぇ。馬に蹴られたくありませんし、それに……。
  あやめ : しばらく暖房、要りませんね♪

 二人はそれぞれ意味深な言葉を残すと滑っていった。

  涼   : ……お嬢。
  笑穂  : あぁ、多分見られていたのだろう。

 俺はがっくりと肩を落とす。
 ……ホテルに戻ったら、美紀辺りにからかわれるのだろうな。
 そんな一抹の不安を抱えながら、午後のスキーを楽しんだ(?)。



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