Φなる・あぷろーち SS

 大進展!? 愛と波乱のスキー旅行 〜 美紀編 Part.1 〜

                         震天 さん


  涼   : じゃあ、美紀。
  美紀  : え!? 私!?
  西守歌 : 涼様! 私というものがありながら、浮気なさるおつもりですか!?
  涼   : 俺はお前とそういう関係になった覚えはない。
  美紀  : 私は別に構わないけど、ホントに良いの? 経験のある鐘ちゃんかあや
        めちゃんを誘えばいいのに。
  涼   : ほっほう……俺の意思を尊重するといったお前がそういうこと言う?
  美紀  : いや、だって、まさか私を選ぶなんて思わなかったし。
  西守歌 : 涼様。美紀様はご自分が涼様にふさわしくないと自覚してらっしゃる
        ようですし、ここは私を……。

 こいつ、さりげなく美紀の事、ちょっと馬鹿にしなかったか?

  美紀  : 言ってくれんじゃない! 自分だって涼に嫌われてるくせに!
  西守歌 : あら。私は涼様を振り向かせる自信があります。しかし、美紀様には
        それがないようですわね。
  美紀  : 何よ。涼に選ばれなかったくせに。私は涼に選ばれたわよ。
  西守歌 : ですが、美紀様は先ほどそれを辞退しましたが?
  美紀  : 今からでも十分訂正が効くわよ。
  西守歌 : 一度断っておきながら奪われそうになったら訂正する。それが原因で
        涼様に不快な思いをさせると言う事をわかっていないようですわね。

 おいおい、この言い合い聞いてたら俺がこの二人に二股かけたようじゃないか?
 それになんか、空気が……。

  涼   : お、おい、二人とも。こんなところで……。
  美紀  : 涼は黙ってて!
  西守歌 : これは私たちの問題ですわ!
  涼   : お、おぅ……。

 と、止められない……。
 こんなとげとげした空気いやだぞ、俺。

  笑穂  : おい、水原。これは無理にでも止めるべきじゃないか?
  涼   : なら、お嬢。頼む。
  笑穂  : え!? あぁ、いや……妹さん、頼む。
  明鐘  : え、あ、あの……あやめちゃぁん。
  あやめ : わ、私ですか!? 私、こういうのを止めるのはちょっと……ここは
        原因の発端である水原さんが!
  涼   : ……結局戻ってくるのか……。仕方ない、ここは実力行使で……。
        明鐘、お嬢。
  笑穂  : 仕方ないな。
  明鐘  : じゃあ、とりあえず、西守歌ちゃんを。
  あやめ : え、え?

 今ので何をするのかわかる人はすごいな。
 要は、強制連行だ。

  西守歌 : とにかく! 涼様のお誘いを一度蹴ったのなら、素直に身を引くべき
        です!
  美紀  : 蹴ってないでしょ!? 私は涼に、本当に私で良いか聞いただけじゃな
        い!?
  西守歌 : そういうのは断ったのとほぼ同意―
  明鐘  : 西守歌ちゃん! 一緒に滑ろう。滑り方教えてあげるから!
  西守歌 : ちょ、明鐘さん!? 私まだ、美紀様とお話が―
  笑穂  : 私たちも一緒に行くから、な?
  西守歌 : え、笑穂様まで!?
  明鐘  : あやめちゃんも行こう!
  あやめ : は、はい!
  西守歌 : お放しください! 私まだお話が……。涼さまぁ〜〜っ!

 ……強制連行完了。
 残ったのは呆然と見つめる美紀と、合掌する俺だけ。

  美紀  : ……涼。
  涼   : うっ。……余計なことしたか?
  美紀  : うぅん。あれ以上言い合ってたら、心にもないこと言いそうだったし。
  涼   : そっか……。

 ナイス判断と自分を褒めたい気分だ。

  美紀  : ナイス判断、涼。
  涼   : お、おう……。
  美紀  : まぁ、西守歌ちゃんにはあとで謝るってことで、今は楽しもう。
  涼   : そうだな。
  美紀  : ところで、あんたもスキー初めてなのよね?
  涼   : ああ。
  美紀  : 初心者が二人揃ったところで何が出来るのやら……。

 ……しまった。
 そこまで考えてなかった。
 ……まあ、なるようになるだろう。

  涼   : とりあえず、初心者コースだな。
  美紀  : 言わなくてもわかってるわよ。まさか、いきなり上級者に行くつもりだ
        ったの?
  涼   : いや、お前だったら言いかねなかったから。
  美紀  : あんたねぇ。

 とりあえず、さっきまでのとげとげした空気もいつもの感じに戻ったし、良しと
するか。
 西守歌の方は明鐘とお嬢に任せておこう。
 今度なにかお礼をしないとな。

  涼   : んじゃ、行くか。
  美紀  : うん。
  涼   : ……ん?

 なぜか美紀が動かない。
 どうかしたのか?

  涼   : 行かないのか?
  美紀  : 行くわよ。
  涼   : そう、だよな……。

 ……また動かない。

  涼   : 美紀、どうかしたのか?
  美紀  : え、えーっと……涼。
  涼   : ん?
  美紀  : 勝手に滑ったりしない?
  涼   : は?

 俺が美紀を置いて勝手に滑るってことか?
 そんなことする必要もないんだが……。
 ……待てよ。

  涼   : 美紀。お前まさか……動かないんじゃなくて、動けないのか?
  美紀  : だ、だって! リフトのとこまで行くのに、ちょっと斜面じゃない!
  涼   : ……確かに少し上向いてるけど……。横向いて動けば勝手に滑らないだろ?
  美紀  : う、うぅ……。

 美紀はとりあえず、頑張って横に向こうとするが……。

  美紀  : あ、あああ……。

 ……なんていうか……随分不器用だな。
 まるで生まれたての小鹿みたいだ。

  美紀  : ちょ、ちょっと涼! 助けてよぉ〜……。
  涼   : ……美紀。
  美紀  : なによ!?
  涼   : そうしてると結構可愛いぞ。
  美紀  : なっ!? って、きゃ!

 なぜ動揺したのかわからんが……こけた。

  美紀  : もう! あんたが変なこと言うから!
  涼   : 自確してるんだろ? 謙遜しないくらい。
  美紀  : あれは言ってみただけじゃない。それより起こしてよ。
  涼   : ……起きれないのか?
  美紀  : 起きれないから言ってるんでしょ!
  涼   : はいはい……。

 とりあえず、美紀の手をとって起こしてやる。

  美紀  : とりあえずこのままリフトのところまで引っ張ってよ。
  涼   : ……おまえなぁ……。まぁ、いいか。

 手を繋いで滑るなんて器用な事が出来ない、というのと、これじゃあまるで恋人
同士に見えるだろう、と言おうとしたのを寸前で飲み込んだ。



  涼   : ……進歩ないな。
  美紀  : うるさい!

 かれこれ30分近く一緒に滑ってるが、美紀は未だに歩く事は愚か、起き上がる
事すらままならない。

  美紀  : そもそも、なんであんたはそんなに飲み込みが早いのよ!
  涼   : いや、俺と明鐘がハルに引き取られた時、『人に教わろうとするな。技術
        などは人の良い所だけ盗むものだ。どうしてもわからない事だけ聞け』と言
        われてきたからな。
  美紀  : だから周り見てただけで覚えたっていうの?
  涼   : まぁな。でも意外だな。
  美紀  : なにが?
  涼   : 毎日、身体動かしてるって言うから、スポーツ類は得意と思ってたのに。
  美紀  : 人には得意不得意があるのよ!

 まあ、確かにあるだろうけど、ここまで……。

  涼   : 言っとくけど、まだここ、初心者コースの比較的上のほうだぞ?
  美紀  : うっ!
  涼   : 明鐘たちはもう下まで行ったのか?
  美紀  : ま、まだ半分くらいじゃない? 西守歌ちゃんも笑りんも初めてだった
        んだし……。
  西守歌 : あら、私はもう慣れましたわ。
  美紀  : !?

気付けば俺たちのすぐ後に西守歌達がいた。

  涼   : あれ? 明鐘、お前達先に行かなかったっけ?
  明鐘  : え、うん。笑穂さんも西守歌ちゃんも飲み込みが早くてね。それで今、
        もう一回初心者コースで滑ってるの。
  美紀  : う、うそ……。
  西守歌 : 涼様。涼様たちは何回目ですか?
  涼   : ……お前、本当にいい性格してるな。
  西守歌 : お褒め頂き光栄ですわ♪

 褒めてないんだがな。

  笑穂  : どうだ、守屋? 楽しんで……なさそうだな……。
  美紀  : 笑り〜ん! 優しく丁寧に滑り方教えて〜!
  明鐘  : 兄さんは滑れるようになったの?
  涼   : まぁ、なんとかな。
  西守歌 : ということは、美紀様が涼様の足を引っ張っていると。
  美紀  : ……むかつく言い方ね。

 こいつ、まださっきの事根に持ってるのか?

  涼   : 西守歌。
  西守歌 : はい?
  涼   : お前ら、先に行ってろ。
  西守歌 : そんな……せっかく合流できましたのに……。そうですわ! 
        美紀様は明鐘さんたちにおまかせして、私と滑りませんか? 涼様。
  涼   : 先に行ってろ。
  西守歌 : では、私もお供します。それならいいでしょう?
  涼   : わかった。なら、今日を最後に同居も解約だな。
  西守歌 : ……涼様。そんなに美紀様のほうが良いのですか?

 西守歌が急に真面目な顔をして聞いてきた。
 そこでそう来るか。

  涼   : ……まぁ、今はそれ、保留だしな。
  美紀  : 涼……。
  涼   : 皆も知ってるだろ? 俺はすごく意地っ張りなんだ。だから……。
  笑穂  : だから、最後まで守屋と滑る、ということか?
  涼   : おう。

 お嬢はもとより、明鐘もあやめちゃんも、そして、西守歌も一応理解はしている
ようだった。

  西守歌 : ……わかりました。では、次に合流した時には、私たちもご一緒させ
        ていただきますわね。
  涼   : なるべく合流しないようにするか? このバカと。
  美紀  : 私に振らないでよ。
  西守歌 : では、また後ほど。

 またしても俺の言葉無視され、西守歌はゲレンデを滑って降りていった。

  明鐘  : じゃあ、私達もいくね。
  涼   : ああ。
  笑穂  : 守屋。頑張ればすぐに滑れるようになる。
  美紀  : ありがとう。
  あやめ : 水原さん。いじめちゃだめですよ。
  涼   : いじめてない―
  美紀  : すごくスパルタなの〜♪
  涼   : 本気でスパルタにしてやろうか?
  美紀  : あ、それだけはマジに勘弁。
  明鐘  : クスッ。じゃあね、兄さん、みぃちゃん。

 明鐘達も滑っていった。
 ……さて。

  涼   : じゃあ、始めるか。
  美紀  : ……涼。
  涼   : ん?
  美紀  : 私、絶対上手く滑れるようになるから!
  涼   : じゃあ、まずは……立ち上がる練習からな。
  美紀  : ……道は長いねぇ。



 2時間後……。

  美紀  : へにょ。

 訳のわからない擬音を出して、美紀が机に突っ伏した。

  涼   : だいぶ、ばててるな。
  美紀  : 転んでは起きて、転んでは起きて……これが本当の七転び八起き……。
  涼   : 上手い。座布団……はないから、昼は俺のおごりだな。
  美紀  : ありがとう〜。でも、結構上達したと思わない?
  涼   : まぁな。のろのろ走行ではあるけど。
  美紀  : うっさいなぁ。見てなさい、午後には完璧に滑れるようになるんだから!
  涼   : そのためにはまず、エネルギー補給か?
  美紀  : あったり〜。
  涼   : ……しかし、ドネルケバブとは……。
  美紀  : 意外? 結構美味しいのよ、これ。
  涼   : まぁ、お前は美味けりゃなんでも良いもんな。
  美紀  : 料理には何の罪もないのよ。

 前に、西守歌の料理食って、あっさり負けたもんな。
 そのときもそんな事を言っていた気がする。

  涼   : ところで、ソースが二つあるけど?
  美紀  : こっちがチリソースで、そっちがヨーグルトソース。私のおすすめはこ
        のヨーグルトソースかな?
  涼   : ふぅん……じゃあ、俺はチリソースにしてみようかな。
  美紀  : ねぇ、普通は勧められたのをかけない?
  涼   : まぁまぁ。

 美紀のおすすめと反対のチリソースをかける。

  美紀  : もう……口に合わなくても知らないからね!

 そう言って、美紀はソースのボトルをそこそこ強い力で握った。

  涼   : ……それ、かけ過ぎじゃないか?
  美紀  : ? 私はいつもこれくらいだけど?
  涼   : そ、そう……。

 どう見ても溢れるだろう、それ。
 だが、俺の心配をよそに、美紀はまったくソースをこぼさずにケバブを食べている。

  美紀  : う〜ん! お〜いし〜♪
  涼   : ……(ごくっ)

 この上ないくらい幸せそうな顔をして食べる美紀。
 ……美味そうに食うな、こいつ。
 今更ながら、ヨーグルトソースにしたほうが良かったかな、などと後悔しながら、
 俺も自分のを食べ始めた。

  涼   : ん。チリソースもいけるな。
  美紀  : え? うそ。私が食べた時はかなり辛かったけど。
  涼   : ……お前、そのときもそれくらいソースかけたんじゃないか?
  美紀  : かけたけど?
  涼   : ……。

 そりゃ、チリソースをあれと同じだけかければ辛いだろう。

  涼   : もう少し加減する事をおすすめする。
  美紀  : 料理に罪はないけど、あるのは私達かもね。
  涼   : 料理を生かすも殺すも俺達次第?
  美紀  : そうそう。……ねぇ、涼。それ、チリソースが適度にかかってるんだよね?
  涼   : お前のは、かなりかかってるな。
  美紀  : ねぇ、涼く〜ん。一口ちょうだい♪
  涼   : ……ただでか?
  美紀  : じゃあ、交換。
  涼   : ……交渉成立だな。

 互いのケバブを入れ替える。
 ヨーグルトソースはこれくらいかかってるほうが美味いのかも。

  涼   : ……(あむ)
  美紀  : ……(はむ)

 食べたのはほぼ同時だった。

  涼   : !
  美紀  : あ!
  涼   : うまいなぁ……。
  美紀  : 美味しい♪

 お互い一口という条件だったが、俺も美紀も二口目を頬張っていた。
 まぁ、暗黙の了解という事で。

  美紀  : チリソースはこれくらいが丁度いいのか……。
  涼   : ヨーグルトはこれくらいでもいいな。でも、やっぱりちょっとかけすぎか
        もな。
  美紀  : う〜ん……言われてみればそうかも。

 お互い食べた感想口にして、ケバブを元に戻す。

  百合佳 : 二人とも、ラブラブ?
  涼・美紀: っ!?

 あまりにも前触れがなく、急に現れた百合佳さんにビックリして、俺と美紀は同
時に喉を詰まらせた。
 飲み物を探している俺達の手に、百合佳さんが水を渡してくれた。
 掴んだら当然、一気飲みだ。

  涼・美紀: ぷはぁっ!
  百合佳 : 二人とも、息ぴったりだね。
  涼   : 百合佳さん。頼むから気配消して近づくのやめてよ。
  美紀  : そうそう。心臓に悪いんだから……。
  春希  : 気付かないお前達も悪い。

 声のしたほうを向いてみれば、百合佳さんの隣にハルもいた。

  美紀  : あ、ハルさん。お二人もこれからお昼ですか?
  春希  : あぁ。
  百合佳 : 私たちは中で食べるつもりなんだ。
  涼   : ここで一緒に食べないのか?
  春希  : 馬に蹴られたくないのでな。

 ハルが薄っすらと笑みを浮かべながらそういった。
 こういう場合のハルは他人をからかっている時だな。

  涼   : なら、俺達も早く食って、スキーに戻るか。
  美紀  : そうね。私たちも、馬に蹴られたくないもんね?
  春希  : ……。
  百合佳 : これでおあいこだね。

 百合佳さんの一言で、不毛な言い合いは勃発せずに幕を閉じた。
 ハルと百合佳さんは揃ってレストランの中に入っていった。

  美紀  : それにしても、不思議な感じよね。
  涼   : ん?
  美紀  : だって、私たちと一つしか違わないのに、人妻よ、人妻。
  涼   : ……もう少し言葉を選べよ……。
  美紀  : なぁによ、涼だって、ちょっとは期待してるんじゃないの?
  涼   : ……は?
  美紀  : だって、人妻よ。マニアックな方には萌えるカテゴリの一つじゃない♪
  涼   : 俺はノーマルだ。
  美紀  : あっそ。

 って言うか、お前のその偏った知識はなにで得た?

  涼   : 百合佳さんへの気持ちは整理がついたって言っただろう?
  美紀  : ……そうだったね。ごめん。
  涼   : それより、お前はどうなんだ? ……整理、ついたか?
  美紀  : ……もう少し、かな?
  涼   : ……そうか。
  美紀  : もしかして、涼……本気で待っててくれる気なの?
  涼   : ?
  美紀  : だって、私、また『もう少し、かな?』って言って逃げちゃうかもしれ
        ないんだよ? それより、ちゃんとあんたのこと見てくれる彼女を探した
        ほうが……。
  涼   : ……意外かもしれないけどな。
  美紀  : ?
  涼   : 俺は結構一途なんだ。
  美紀  : ……ぷっ! あっはははは! 一途? あんたが? 頑固の間違いじゃ
        ないの?
  涼   : それもあるけど……うけ過ぎだ。

 なにがそんなにおもしろいのか、美紀はしばらく笑い続けた。
 当然、周りに人がいるんだから、なにごとか、と気になるのは当たり前だ。
 ひとしきり笑った後、美紀は立ち上がった。

  涼   : 美紀?
  美紀  : まぁ、あんたの気持ちも考えて、早目に整理しちゃう事にするよ。
  涼   : そりゃ、どうも。
  美紀  : とにかく、この話はここまで。食休みも出来たし、滑ろ。
  涼   : おぅ。

 再び、スキーをしようとしたとき、入れ違いで明鐘達も食事にやってきた。

  西守歌 : あら、涼様、美紀様。お食事ですか?
  涼   : あぁ。といっても、もう終わったけどな。
  西守歌 : えぇ〜!? 涼様と一緒に食事が出来ると胸をときめかせていました
        のに……。
  笑穂  : まぁ、済んでしまった事をとやかく言っても仕方ないだろう。
  西守歌 : そうですけど……。涼様、若干、余裕はありませんか?
  涼   : あったとしても食うか。動けなくなる。

 腹八分目という言葉もある。
 食いすぎるとまったく動けなくなるし、最悪戻すからな。

  西守歌 : でもぉ〜……。
  美紀  : はいはい。わがままはそこまでにしてあげたら? 涼だって困ってるし。
  西守歌 : 涼様と食事が出来た美紀様には、私の気持ちはわかりませんよ。
  美紀  : 返す言葉もない……。

 美紀にしてはやけに素直に負けを認めたな。
 なんか、もう少し反論するかと思ったけど……。

  笑穂  : それより、守屋。少しは上達したか?
  美紀  : なんとかね。相性の問題は努力ではどうにもならないってことが身にし
        みたわ。
  あやめ : でも、その言い方だと、進歩あったようですね。
  美紀  : まぁね。これも涼がわかりやすく説明してくれるおかげかな?
  涼   : そんなにわかりやすいか?

 俺としてはかなり適当になっていたと思っていたのだが……。
 言葉足らずでも理解してくれる辺り、気の知れた幼馴染だな。

  西守歌 : では、私も涼様にご教授願いたいですわ。
  涼   : 俺より上手に滑れる奴がなに言ってやがる。
  西守歌 : では、私がご教授してあげますわ。
  美紀  : 保体?
  涼   : こいつの場合、冗談にならないから、そういう冗談はやめてくれ。

 一時期、俺の貞操が危機に瀕したときがあったが、その辺は明鐘との兄妹愛で何
とか回避した。
 ……あれは本当に危なかった。

  西守歌 : そちらのご教授は、私より涼様のほうが……。
  笑穂  : うん。水原なら詳しそうだな。
  涼   : ……お嬢、真顔で言うのやめてくれ。あやめちゃんが誤解する。

 思いっきり後ずさりしてるもんな、あやめちゃん。

  美紀  : 涼。
  涼   : ん?
  美紀  : そろそろ行かない?
  涼   : そうだな。
  西守歌 : えぇ〜! もう行ってしまわれるのですか!? せっかく、感動の再
        会を果たせたというのに〜……。
  涼   : 明鐘。またしばらく会えなくなるけど、挫けず、頑張るんだぞ?
  明鐘  : うん。私、泣かないよ。だって、どんなに離れていても、私と兄さんは
        兄妹だもん。兄さんはいつだって私のことを見ていてくれるんでしょ?
  涼   : 当たり前じゃないか明鐘。俺はいつでも、どんな時でも、草場の影から見
        守っているよ。
  明鐘  : 兄さん!
  涼   : 明鐘!

 俺と明鐘は兄妹の絆を再確認し、抱き合う。
 そうさ、明鐘が俺と離れ離れになってしまっても、俺達はこうやってまた巡り会
えるのさ!

  あやめ : ……兄妹で抱き合っていても、全然違和感無いですね。
  笑穂  : それより、草場の陰からでは死んでいるのではないか?
  あやめ : きっと、死んでしまっても心は常に一緒、ということを言いたいので
        は?
  笑穂  : いやいや、水原がそもそも妹さんを置いて死んでしまうということはあ
        りえない。たとえ死んでも、地獄の底から復活するのではないか?
  美紀  : いつまでも付き纏うストーカーの如く。
  涼   : 失礼な事を言うな。俺と明鐘の絆は絶対不変だ。
  明鐘  : ね。
  西守歌 : あの……。
 涼・
 明鐘・
 笑穂・
 美紀・
 あやめ  : ?

 そういえば、元はこいつがこの話題の主犯なんだよな。
 すっかり存在を忘れていた。

  西守歌 : 私は涼様の許婚なのですが、それに関しては?
  美紀  : 涼。ご回答は?
  涼   : 認めん。
  明鐘  : 兄さんがそういうなら、私も認めない。
  西守歌 : うっ! 明鐘さんにまで見放されてしまうなんて……。でも、私負け
        ません! 例え、世界を大混乱の真っ只中に放り込んででも、涼様に許婚として
        認めてもらえるよう、いっそうの努力を!
  涼   : せんでいい、そんな努力!

 こいつがいうとホントにシャレにならん。
 初対面の時に民法を改正しようか? などと聞いてきたんだ。
 ……本気でやりかねない。

  美紀  : 涼。
  涼   : なんだ?
  美紀  : 貸し一つね?
  涼   : は?

 俺がその言葉の意味を聞き返そうとするより早く、美紀が俺の手を引いて走り出
していた。

  西守歌 : あぁっ! 涼様がさらわれた!
  明鐘  : 兄さ〜ん! 私を一人にしないでねぇ〜!



  美紀  : はぁ、はぁ……ここまで来れば大丈夫でしょ。
  涼   : まぁ、明鐘達も昼飯食わないといけないからな。
  美紀  : 涼、私に感謝しないさいよ? あのままあそこにいたら、その内憲法ま
        で改革しよう、なんて事言い出しかねなかったわよ、あの娘。
  涼   : 確かにな。じゃあ、とりあえず礼を言うよ。サンキュ。
  美紀  : ん。よろしい。
  涼   : それじゃあ、練習再開だな。
  美紀  : うぅ……早速? 助けてあげたんだから、ちょっと遊ばない?
  涼   : ……例えば?
  美紀  : 雪合戦とか♪
  涼   : もう一度初心者コースで練習するぞ。
  美紀  : こらっ! ツッコミくらい入れろ!
  涼   : 絶対上手に滑れるようになるんだろ?
  美紀  : うっ……そうだけど……。

 だが、もう殆ど普通に滑れるようになってきている。
 この分だと、もう一度降りたら中級者コースにいけるだろう。

  涼   : スキーが終わって、ホテルに戻ったらきっとすごいご馳走が並ぶんだろう
        なぁ……。
  美紀  : さぁっ! バリバリ滑るわよ!

 ……分かりやすい奴。
 こいつは何か食い物が絡むとやけに強くなる。
 確か、以前に西守歌とバスケの試合で勝負して、美紀が勝ったら西守歌の手料理
をご馳走、西守歌が勝ったら俺と二人きりの食事をする、という俺の了承無しに
そんな賭け事をし、美紀が圧勝。
食い物が絡むと強くなるという事は実証済みなのだ。
 事実、俺がその言葉を口走ってから、午前中とは比べ物にならないくらい上手く
滑っている。
 ……こいつの場合、食い物が絡むと相性そのものを無視できるんじゃないか? 
とかそんな事を思った。
 こいつと何か勝負をするときは、食い物絡みの事は極力避けよう。
 そんな事を考えつつ、午後のスキーをそれなりに楽しんだ。


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