恋人はサンタクロース [前編] 後編
夜桜 さん
土見稟の人生は波乱万丈という言葉が似合うくらい、とんでもない出来事に見舞われる人生だ。血は血であがらうしかないという言葉を何かで聞いたことがあるが、実際その通りだ。バーベナ学園に存在する三つの親衛隊“KKK”“SSS”“RRR”は今や“土見稟抹消連合軍”となり、日々嫉妬の炎を燃やしては事故を装い、その怒りの矛先をぶつける。
「あー、最近生傷が絶えないな……」
本当に可哀相なのは被害者の稟である。幸いにも、三大プリンセスによる圧力のお陰で幾らか穏便に済んでいるものの、精神的過労ばかりはどうにもならない。そして今日もその精神的過労がピークに達している状態で自宅を目指していると、家の前に見知った男二人の姿が見えた。
「………」
念のため今の状況を確認しておこう。稟は学校から居候先の芙蓉家へと向かっていた。っが、その芙蓉家の玄関前に見知った男二人の姿を見た。
刹那、稟は思わず反対方向へ歩き出そうとするが既に遅かった。
「待てや稟殿。何も言わず回れ右とはちと失礼じゃねぇか」
大柄な男が稟の肩をがっしりと掴む。本気で掴みかかれたら肩の骨すら砕かれないかのような握力だ。
「そうとも。これから未来のパパになる私に対してあんまりじゃないか稟ちゃん」
それはあなたの思い込みです……と、言いたかったが言い知れぬ威圧感と恐怖でその言葉が喉元で詰まり、出てこない。
「……えーっと、何でしょうかお二人とも。できれば手短に」
「それはちょっと難しい注文だぜ稟殿」
「そうとも。これは稟ちゃんにも我々にも関わる問題だからね」
「………」
真摯な眼差しが稟を射抜く。その言葉を聞いて、自分が何とも浅はかな人間であるということを思い知らされる。この二人がここまで本気で言っているのだ。間違いなく重要な話だろう。
「いいかい、よく聞くんだ稟ちゃん」
「はい……」
「稟殿……」
「………」
長い沈黙が、稟に極度の緊張を与える。実際には数秒の沈黙なのだが極度の緊張状態では、数秒の時間も数分、果ては数時間のようにさえ感じることがある。
その、長いようで短い沈黙の後、二人が明朗に、そして真摯のこもった声で告げた。
『サンタクロースをやろうじゃないか!!』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
恋人はサンタクロース 前編
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「………………」
エエト、ナントオッシャラレマシタカマオウサマシンオウサマ?
正面切って、二人の王はとんでもないことを言ったような気がします。それはもう、見事に浮世離れ……はしてないか。ってか何故にサンタクロース? 確かに季節柄は合っているけど。
いや、今はこの二人から遠ざかることから始めなければ。
「……そうですか。ではお二人で頑張って───」
「待てや稟殿!」
肩を握る握力が弱まったのを機に、一気にこの場から逃げ出そうと目論んだけど、神王のおじさん手がに再び握力が掛かる。
……神王のおじさんに魔王のおじさん、お願いですからことある毎に俺を巻き込まないで下さい。そのうち精神的過労で倒れちゃいます。
「稟ちゃん、十二月二十四日といえば?」
「クリスマスですね」
っていうか木漏れ日商店街歩けば分かるよな、それくらいは。クリスマスソングが流れているくらいだし。
「何でも人間界には“さんたくろーす”とかいう髭の爺さんが子供にプレゼントを配るそうじゃないか」
……済みません。この時点でもう先の展開が見えてきたんですけど。けど俺に拒否権も無ければ聞こえない振りもできない今の状況じゃ黙って聞くしかないか。
「けれど、サンタクロースは本当は居ない。でも無垢な子供は信じている。ネリネちゃんがまだ子供だった頃にこの話を聞いたら、“サンタさんに何お願いしようかしら?”なんて楽しみにしていたッ!」
「シアも、“お父さん、シアね! サンタさんにお願いしたいことがあるんだ!”って騒いでいた!」
あんたらそれいつの時代の話ですか? 少なくとも八年前の話だとは思うけどさ。
「稟ちゃん……」
「稟殿……」
『サンタクロースになろうじゃないか!』
あー、つまりあれですかおじさん達? この私にサンタさんになって寝ている隙にプレゼントを配れと?
っていうかおじさん達がやった方が手っ取り早くないか? そう考えたらどうして俺を呼び止めたのか理由が分からない。
「空飛ぶソリに空飛ぶトナカイ、それと変装用の衣装は私の方で用意してあるので安心してくれたまえ」
「プレゼントの予算は俺が用意してやっからな! 大船に乗ったつもりでいな!」
「尚、できるのであれば綺麗どころなお嬢さんの寝顔も撮って貰いたい」
既にサンタ役決定ですか私は。魔王のおじさんの最後の発言は何か危ない気もするがあえて聞こえないことにしておいた。
でもまぁ、断られたら殺されるよなぁこれ。一応、悪あがきしとくか。
「……百歩譲ってプレゼントを配るとしても、プレゼントの希望とかはどうするんですか? それにサンタクロースは煙突からしか入れませんよ?」
我ながら悲しくなるような言い訳だなぁ、これ。そんな俺の言い訳も当然のようにあっさりと切り返される。
「心配すんなって稟殿! プレゼント希望ならば街頭アンケートを装ってバッチリ集めておいたさ! 勿論! 煙突は当日魔法で作る!」
なんと滅茶苦茶な言い分なんだろう。っていうか街頭アンケートで調べたってことはこの辺一体の子供らの欲しい物リスト全部ピックアップされてるってことか? うーむ流石は神族の王様……。
「勿論、シアちゃんネリネちゃんへのプレゼントは必須だよ。あっ、もし稟ちゃん個人にプレゼントを上げたい人が居ればその人の分もまかなってあげるから安心したまえ」
ふむ。無理やりサンタクロースをやらされるのは少々あれだが向こうでプレゼントを用意してくれるのは個人的に有難い。楓には家事の一切をまかせっきりだし、ここで一つサンタクロースを装ってプレゼントするのも悪くないな。
……どの道やらされる訳だ。少しでも前向きに考えた方がいいに決まっている。人生、開き直ったら勝ちだ。特にこの二人を相手にする場合は。
「分かりました、やりましょう」
俺の言葉を聞くと、二人の王様は待ってましたと言わんばかりに目を爛々と輝かせ、腕を大きく振り上げて俺の背中をバシバシ叩く。
何故だろう。この人たちの精神年齢が時々恐ろしく幼く思えるのは。
「流石は稟殿だぜ! それでこそ俺の見込んだ漢ってモンよ!」
神王のおじさん、お願いですから肩の関節外れてもおかしくない勢いで叩かないで下さい。
「稟ちゃんならそう言ってくれると信じてたよ! マイ・サン!」
魔王のおじさん、貴方はいつから私のお義父さんになったんですか?
十二月一日。俺は幸福と不幸の境界線をふらふらと歩いていることを新たに認識させられた日でもあった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さて、わたくし土見稟は魔王と神王のおじさんに脅され……もとい、誠心誠意のこもった態度に根負けしてサンタクロースを請け負うことになった。空飛ぶトナカイを用意するとか言っていたけど、娘にこれでもかというぐらい溺愛しているあの人だ。本気で用意してもおかしくない。まぁクリスマスまで二十日以上もあるんだ。必要経費は神王のおじさんが、道具は魔王のおじさんが用意してくれる訳だがせめて俺自身でも用意できる物は用意しておかないとな。
「楓とプリムラ、シアとネリネは確定として……あげるとしたら亜沙先輩とカレハ先輩かな? 毎年チョコ貰っているし。あとは麻弓と近所の子供かな?」
俺の知り合いを次々と白紙の紙に書いていく。楓たちはともかくとして、近所の子供───まぁバーベナ学園幼等部に限定されるけど───はゆうに三十人は超えている。こっちは適当な玩具をおじさん達に見繕って貰うとして……。
「何にしよう……」
楓のことは大体分かっているつもりだけれど、好きな物とかは今ひとつハッキリしないし、プリムラは猫好き以外のことは全然……。
シアとネリネは……アクセサリー辺りが喜びそうかな? 亜沙先輩とカレハ先輩は……あまり考えるまでもないけど、もう少し捻りが欲しいな。麻弓には適当なものを上げるとして。
「……そ、そうだ。プレゼントリストを見れば、少しは検討が付くに違いない」
あぁ、人間切羽詰っていると何でもいいから頼りたくなるんだなぁ。けど今は藁でも何でも掴みたい気分だ。俺はプレゼントカタログと書かれた分厚い本を手に取り、然るべき名前を探し出す。
「えぇっと───」
『リシアンサス:土見稟の愛。
ネリネ:土見稟の(以下略)
芙蓉楓楓:土見(以下略)
プリムラ:猫の抱き枕。
時雨亜沙:ケーキ作り百科典。
カレハ:女向け恥美小説。
麻弓=タイム:五百万画素デジカメ』
「ふむふむ……って参考になるかぁっ!」
ていうか前者三名は俺限定ですか! しかも三人の女性に同時に愛を上げるなんて俺そんなに器用な人間じゃありませんから! 一人の女性を愛するだけで精一杯です!
それとカレハ先輩、あなたの妄想の発信源が何処から来ているのかを知ってしまったことに関してもちょっとコメントし辛いです。取り合えずカレハ先輩には亜沙先輩と同じものを送っておこう、うん。
……何故だろう、現実的なものを書いている麻弓とプリムラがこの時だけ凄くまともな人に見えてくる。亜沙先輩は至らずともそうだけど。
取り合えずこういうのはもっと適切な人に相談するのがいいかも知れないな、うん。
「……まぁいい。明日商店街で色々と物色することにしよう」
そうだ。それが一番だ。こうやって卓上の理論を並べても何の解決にもならない。少なくとも現物を見ながら色々と吟味した方がいいに決まってるじゃないか。
自分でも悲しくなるくらい、無理矢理前向きに考えながら俺は椅子ベッドに潜り込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の放課後、俺は楓に適当な理由を付けて木漏れ日商店街より少し外れたところにあるデパートに足を運んでいた。ここなら子供用プレゼントから大人用プレゼントまで売ってある。我ながら実に素晴らしいアイデアだ。
「稟、何が素晴らしいアイデアなのかは訊かないでおくけどデパートの中心で男の独り言は想像以上にきついから止めろ」
……こいつは。折角人が感傷に浸っていたところを一気に現実へ引き戻しやがって。
つーかこいつ何の用でデパートに来てるんだ?
「樹、なんでお前がここに居るんだ?」
「ナンパに決まってるじゃないか。ここで張り込みをすれば素敵なお嬢さんにめぐり合える確立が高いからさ。特にこのシーズンはね」
プロ根性と受け取っていいのかな、この場合。っていうかこんな時までナンパするとは……相当暇人だな、こいつ。あまり人のこと言えた口じゃないけど。
「そういう稟こそどうしたんだい? 俺様から言わせれば楓ちゃん以下数名の女子の買い物に付き合っている様子もない男がデパートに来るなんて不思議で仕方がない」
「プレゼント選びに来たんだよ」
こいつに下手な嘘は通用しない。それは悪友をやっている経験から断言できる。まぁ嘘は言ってない訳だから変な勘ぐりされることはないだろう。こいつの思考レベルはたかが知れている。
「プレゼントねぇ……。いいねぇ稟は。渡す相手が沢山居れば渡される相手も沢山居るんだし」
予想通り、卑屈そうな顔で言い寄ってくる樹。まぁ今年に限っては必要以上に渡す人が居るのは秘密だ。
……っというよりこいつに話たら何か更に話がややこしくなりそうだ。これで麻弓が加わったらそれこそ終わりというもの。部屋で首吊った俺の死体が出てもおかしくないくらいに。そんなことやらないけどさ。
「っで、樹。首尾はどうなんだ?」
「いやーこれがどうしてなかなか上玉の娘が結構多くてねー。俺様的にはもう少し歳がいってれば文句ないけどそれは二、三年後のお楽しみってところかな?」
……こいつ、ナンパするのに年齢層問わないのか? まぁ、平気で年上の相手とかも口説くからなぁ。当然といえば当然か。
「そうか。それなら俺がこの場に居ても邪魔みたいだから失敬するとしよう」
「あぁ。またな」
樹と軽い挨拶をしてから、取り合えず俺はアクセサリー店から品定めをする。
………。
ふーむ、プレゼントなんて楓以外に上げたことがないからな。結構悩むところだ。まぁあの三人のことだから何を上げても喜びそうだけど、流石に下手な物は上げられない。取り合えずネリネにはイヤリング、シアにはペンダントを上げるのを前提で選ぼう。流石に指輪なんてあげたら在らぬ誤解を与えてしまうしな。
「ふむ……」
目の前に展示されているペンダントの値段に目をやれば、0が四つぐらい付くのが当たり前の次元だ。中には0が五つ付く奴もあるけどそれは宝石がちりばめられている奴だ。 一方で、イヤリングの方は……嗚呼、やっぱりこれも高い。いや、自腹切って買う訳じゃないけどやっぱり高いと腰が引けてくる。普通なら、高価=誠心誠意のこもった態度が伝わるだろうけど、あの三人の場合は変に高いものを上げても困らせてしまうのは自明の理だ。
まぁ今日は品定めに来ているだけなんだけど。
「っていうか最近のアクセサリーってシックな物が多いんだな……」
てっきり、きらきらした奴が多いかと思えばそれは年寄りの話であって、若者の間では金よりも銀の方が人気が高い。俺も金よりも銀の方が好きだけど金の良さというものは年を取らなければ分からないらしい。これはおじさんの言い分だけど。
「……まぁ、まだ時間に余裕はあるからな。次行こう次」
自分の足を動かすように俺は言って、その場から立ち去り、次に立ち寄ったところは寝室用具コーナー。ここなら抱き枕もあるだろうな。
「おっ? つっちーか」
「あっ。どうも紅女史」
おおっ。なんかよく知らないがいいところで紅女史と遭遇したぞ。経験豊か(?)な紅女史ならきっと素晴らしいアドバイスをして下さるに違いない。
「紅女史、一つお訊きしたいことが───」
「つっちー、試験前だというのに寝室用具の買い物か?」
「………」
流石は熱血教師の異名を持つ紅女史。脳内から忘れ去られていた期末テストの存在を綺麗に思い出させてくれるとは。できればそっとしておいて欲しかったんですけど。
「まぁここまに来てまで勉強のことを穿り返すような無粋はことはしないで置こう。私とて折角の気分を台無しにはしたくないからな。
っで、改めて訊くがなんだ、つっちー?」
「あー、なんと言いますか……。紅女史が大切な人に贈り物をする場合ってどんな風に考えながらプレゼントを選ぶのかなーっと……」
一瞬だけ、相談相手を間違えたような錯覚に陥ったけど四の五の言ってられない。俺の双肩には魔王のおじさんと神王のおじさん達の脅迫が乗っている。頑張れ、頑張るんだ土見稟! ここで負けたら最後、俺は物言わぬ屍になりかねないんだぞッ!
「なに、プレゼントの選考基準? そうだなー……って、つっちー、お前その手に詳しくないのか?」
「詳しければこんな質問しませんよ、紅女史」
そりゃそうだと言いながら、紅女史は薄く笑って見せた。仮にも教師である紅女史は“生徒から信頼されてナンボ”がモットーで、非難中傷の呼び方でなければ大抵は呼び名を自由に呼ばせて貰っている。
男子なら紅女史、女史ならなっちー派に分かれている。まぁ楓は“撫子先生”って呼んでいるけど。
「うーん、やっぱりその人の喜ぶ顔を思い浮かべる。もしくは、その人と現物とを照らし合わせて選ぶ。当たり障りなくいくんなら実用性の高いものがお勧めだ」
流石は紅女史。分かっていらっしゃる。やっぱり俺の人選は間違いじゃなかった。樹なら確実に変なものを推奨しかねないし。
「つっちーが私にプレゼントの相談をするってことは……芙蓉への贈り物か?」
「まぁ楓への贈り物もありますけど、ちょっと親バカ二人に厄介事を押し付けられまして……ね」
俺のその言葉だけで紅女史は全てを悟り、心底疲れたようなため息をつく。そりゃあ、神王と魔王の実態を知っている者であれば誰でも疲れたため息をつきたくなるよな、うん。むしろあの二人に合わせて生きていたら身体が持たない。
祭り好きは亜沙先輩以上だし酒は底なし。挙句娘には超が付くほど甘い。それはもう、コップ一杯分の紅茶に砂糖十杯入れた甘さぐらいだ。
……そう思うとあの二人が娘を叱ったことがあるのかどうか凄く気になるけど、あえて気にしないでおこう。こういうのは考え出したらきりがない。
「まぁあれだ。大切な人へ贈り物なんてものは相手を想う気持ちが強ければ自然に手が伸びるものだ。悩むだけ悩め」
「結局、行き着く先はそれですか」
まぁ、ある程度予想は出来たけど、これはこれで大きな収穫だな。
「ありがとうございました」
「なに。私も生徒の力になれて光栄だよ。……但し、期末テストは容赦しないからな」
いや、別に期末テストまでおまけしてくれとは言ってませんよ紅女史。そりゃあ、おまけして欲しいけどさ……。
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一通り、誰に何を送るかは決まったけど残すところは楓だ。日本史のノートと睨めっこしながら俺は楓への贈り物を考えた。
指輪───翌日が俺の命日になるから止めておこう。
ペンダント───似合うけど、楓のイメージとは少しずれてるな。
腕時計───って、それは去年あげたから駄目だな。
さり気なさを装って尋ねる───楓のことだ、絶対に勘付くに違いない。
「分かんねぇよ」
「稟くん、何が分からないんですか?」
「ッ!!?」
俺の独り言に対して、返ってくる筈のない返答が返ってきたことに気が動転した俺は思わず、身体をビクッと振るわせる。それが悪かったのか、バランスの悪い状態で腰掛けていたものだから椅子は一気に安定感を失って俺の身体は椅子と一緒に自由落下の法則に従って、横へと転倒する。
「り、稟くんッ! 大丈夫ですか?!」
「ん、平気。少し驚いただけ……」
少しというか、いきなり背後で声がすれば誰でも驚くよな、うん。ましてや楓のことを考えていたんだ。そりゃ驚かないっていう方が無理だよ。
「そ、それより稟くん、何が分からないのですか? ひょっとして明日のテストのこととか?」
おっ? これは話を逸らすチャンスじゃないか。少なくとも俺の下手な言い訳でその場をやり切るよりはずっと効果的だ。
「あぁ。実はちょっと分からないところがあってな。良かったら教えてくれないか?」
ごめんなさい。ちょっと言いましたが実は全然分からないです。けれどもそんな俺の突然の申し出に対しても楓は懇切丁寧に質疑応答してくれた。
(あれ……?)
楓と幾つかのやり取りをしてから、ふと俺は気付いた。楓がいつも付けている“あれ”の存在に。楓はいつもそれを付けているけれど、別バージョンの奴は見たことがない。っていうか長さが変わっただけで色が変わったのは見たことがない。
(………)
これはチャンスかも知れない、プレゼント選びには。これなら変に気を使わせることもないし、値段的にも問題ない。うん、楓へのプレゼントはそれにしよう。
追記として、俺に勉強を教えていた時、楓が偉く嬉しそうな表情だったのは勉強した内容よりも鮮明に頭にインプットされていた。
無断転載厳禁です。
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