『いま私、キスしたい気分のまま待機中なんだけど。』 『仕方ない、付き合ってやるよ』 『よっし!』 こうして桜井舞人と八重樫つばさは今だ踏み込んだ事のない領域へと進んだ。 桜舞う季節に始まった恋。過去・否定・現在 第一話 ───新学期 ついの俺も受験生か。 去年は大変だったな。 夏休みは補習で週のうち3日は潰されたからな。 でも何も嫌な事ばかりじゃなかったけどな。 ・・・自然と笑みがこぼれる。 てへっ☆ はっ!駄目だ駄目だ。俺はニヒルでハードボイルドなんだからな。 そんな事をしていると前方から山彦が歩いてきた。 『よ〜舞人。クラス割りみたか?今年も一緒だぜ。星崎さんも八重樫さんもいるぞ』 『・・返せ!』 『俺のウズラの卵返せ!』 『なっ・・・また何わけの分からないことで怒ってるんだよ! もう俺たち受験生なんだからそんなに遊んでられないんだぜ。』 そう言うと山彦は校舎へと走っていった。 やっぱり毎年同じなんだな。 この荒波の社会を生き抜いていく為にはうずらの卵がいくらあっても足りないんだ・・・ そんな事を考えながら歩いていると背後から愛すべき声が聞こえた。 『舞人〜また一緒のクラスだね〜』 振り返るとそこには愛すべきつばさと星崎がいた 『あ〜そ〜だな』 俺は適当に返事した。 照れ隠しだ。 『あ〜照れ隠しだぁ』 学園の最終兵器、プリンセス☆崎希望に突っ込みを入れられた。 『ててててっ照れ隠しじゃありませんっっっ!』 『あははは〜それじゃあ私先に行くね☆』 そう言うと星崎は一人走っていってしまった。 気を利かせてくれたようだ。 『も〜舞人は相変わらず変わってないね〜』 『なっ!めちゃめちゃブランニューだっての!!よく見ろ!』 『・・・剃り残しあるよ』 『そんなところはみなくていいんです』 っと去年も同じ掛け合いをしてたような・・・。 『俺たち、二人とも変わってないな』 『あはは、そうだね』 変わった事があるとすればそれはお互いの気持ち。 恋愛の出来ない人間、恋愛否定組と呼ばれていた頃が懐かしい。 『桜井舞人、八重樫つばさは生まれ変わりました!恋愛否定組じゃありません!』 『ちょっ!舞人、朝っぱらから何言ってるの!』 『ましてや精神的インポテ・・ガハッ!』 愛すべきつばさの肘鉄がみぞおちに見事にヒットした。 ・・・新学期早々何やってるんだか。 そして俺は新しきお友達の待つ教室に踏み込む。 毎年変わりのない事のはずが今年は違った。 隣にはつばさがいる。 二人一緒に入ると予想通り、冷やかしの声が聞こえる。 『よっ!熱いね〜』 『うん。熱い熱い』 山彦と星崎だった。 『ばっ、ばか!やめろよ・・いや、もっと言ってくれ』 嬉しいような恥ずかしいような微妙な気分だった。 『それにしても恋愛否定組の二人がくっつくとはな〜類は友を呼ぶってか〜』 山彦がニヤけながら言う。 そんな山彦もどこか嬉しそうだった。 ───常に俺を更正させようとしていたからな。 『まあもう恋愛否定組みじゃないからな〜そこんとこよろしく!』 俺は親指を立てて言う。 そんなこんなで新学期の始まり。 もう俺も受験生だ。 昔みたいに遊んでばっかいられないんだよなぁ。 まあ俺も勉学と言うものに少しは意欲的になってきたからな。 努力はしてるぞ!! 進級してもなんら変わりの無いやり取りを4人でやっていると担任が教室に入ってきた。 『お前らぁ!はやく席につけ!!』 ・・・コレで担任は3年間同じか。 はっ、もしかしてこれは学園のドス黒い陰謀か!? 成績優秀、性格最高な俺を陥れる為の・・・。 『何言ってんの!?』 声のする方を見るとつばさが呆れた顔で座っている。 『ついつい声に出してしまっていたか』 実際は成績も優秀じゃないし性格も最高じゃない。 どちらかと言えば『問題児』の肩書きのある俺だ。 そう思うと担任が3年間一緒なのも納得できる。 俺の破天荒の行動を止める事の出来る教師などこの学園に二人しかいない。 一人は俺のクラスの担任、鬼浅間こと浅間弥太郎。 めでたく29歳になった独身だ。 もう一人はドクターイエローの異名を持つ保健室の番人、谷河浩暉だ。 しかしあの人の場合は俺の行動を止めるというより、俺以上の行動をすると言ったほうが正しい。 問題児の俺にはそれ相応の担任をつける。 学園側からしたら当然の配慮と言える。 そんな試行錯誤している間に新学期のHRは終わっていた。 俺は机し突っ伏してだら〜っと体力回復をはかっていた。 するといきなりでかい声で現実に引き戻された 『桜井、八重樫、ちょっといいかぁ!?』 『『なんすかー』』 俺のつばさはだるそうに答えた。 『実はだな、お前たちに折り入ってお願いがあるんだが』 『『学級委員ならやりませんよ!!』』 二人声を合わせて言う。 『そこを何とか!!』 鬼浅間もなかなか引き下がらない。 『どうして俺達なんですか??』 すると鬼浅間は真剣な顔をする。 『いや・・・なんだ。その、お前達、特別な関係らしいじゃないか。だから・・・な』 『ばっ!・・ぷじゃけるなよ!お前はそれでも聖職員か!?全然意味が分からんぞ!』 真剣な顔と言うよりは照れているようだった。 流石は独身・・・。 結局、俺達は学級委員をする事になった。 まあつばさと一緒にだったらまた楽しいからな。 ・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ そんなこんなで俺たちの新しい生活が始まった。 そう、平凡で何の変哲も無い、だけど幸せに満ち溢れた時間。 でも俺とつばさにとっては全てが初めての経験。 この先、どうなるかなんて何の保障もない。 でも俺はつばさを信じている。 つばさも俺を信じてくれている。 それでいいんだ。第二話へ