過去・否定・現在
第九話

魔法が解けたらそこでお終いなんだよね。
結局気の迷いだったのかな。
すぐに終わってしまった・・・。
終わった?
や、私恋愛なんてした事ないし。
・・・どうして終わったと思ってる?

夕日が綺麗な日。
あの日と同じように夕日が綺麗だな〜。
あの日?
夕日が綺麗な日に何かあったような・・・

─あの方はまだ諦めていません。逃げたままでいいのですか?

『と、まあこんな感じで声が聞こえてきたんだよ。そうしたらね、あの夕日が綺麗な日の事を思い出したんだ〜
もちろん舞人の事もね♪』
クルっと振り返り、そう言うつばさの顔は今まで見た事の無いような満面の笑みだった。
俺はその時のつばさの顔を忘れる事はないとその時、思った。
『ちょうど舞人の事を思い出した時もあの日と同じで夕日が綺麗だったんだよね〜それで教室までダッシュしたわけ☆』
一人教室で夕日を眺めていた。
つばさと二人で文化祭の打ち上げをした教室。
あの時も今日と同じで夕日が綺麗だったな。
誰が諦めるか。
俺達はまだ終わっていない。
そう思っていたがもう無理かと思い始めていたのも事実だった。
その矢先、教室の扉が開きつばさが現れた。
そして─私の事、好きになってくれないかな─と言われた時はあまりの嬉しさに涙が流れそうになった。
もちろん、この事をつばさに伝える事は無かった。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そうして二人肩を並べて帰路に着く。
『幸せになろうな〜』
俺はさっき言った言葉と同じ言葉を再度つばさに伝える。
『ゾンミの為にもね』
二人に掛けられた魔法。
俺達がお互いに掛けた魔法。
それは以前とは比べ物にならない程、大きな魔法だ。
2度と解ける事の無い魔法。
そう2度と・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
こうして俺達はまた普段どおりの生活をしている。
あれ以来、星崎の態度が変わる事も無かった。
星崎とつばさは以前と同様、仲の良い親友をやっている。
たまに二人で俺や山彦をからかったり、テストの点数で喧嘩をしたり。
いつも通り、平凡な毎日。
平凡だけど毎日が楽しいし退屈しない。
俺はこんな生活を望み続けていた。
今、その願いは叶ったのだ。
俺の夢物語を現実へと導いてくれたのは・・・
つばさ、星崎、山彦、俺が関わってきた多くの人達。

そして・・・

俺の事を思い出させる為、つばさの背中を押してくれた少女の声。

星崎に過去の事を思い出させ、けじめをつけさせた女の子。

俺は未だに過去の事を思い出す事は出来ない。
だが、今はそれで良いと思っている。
星崎も自分の気持ちを思い出し、それを伝え、けじめをつけたのだ。
星崎が昔の事を忘れたままでも今の俺とつばさの関係はあったと思う。
でも星崎が思い出した事によって、
星崎が気持ちを伝えてくれた事によって
星崎がけじめをつけた事によって
俺とつばさはより大きな魔法をお互いに掛ける事が出来た。
だから星崎には感謝している。

これからは前だけを見て生きていこう。
過去にとらわれる必要は無い。
俺の隣で、一緒に歩いてくれる人がいるのだから。
それだけで今の俺には充分だった。




桜舞う季節。

一人の男は今まで見つけられなかったモノを見つける。

一人の女は今まで逃げてきた臆病な自分に別れを告げる。

魔法。

お互いに掛けられた恋のまじない。

解けてしまえばカタチも残らない魔法。

一度は解けて無くなってしまった魔法。

だが男と女は決して解ける事の無い魔法を手に入れた。




桜舞う季節。

その永遠とも呼ばれる魔法は、

今も

男と女の

心の中で、

この場所で

存在し続けている。




そして

この魔法は

満開の桜の花が

人々の心を魅了するかの様に

いつまでも二人の心の中で

光を失う事無く、

輝き続けている。




─Fin─
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