白月


  「美月。美月・・・」

夕暮れの有馬神社。

美月を探す私の声が響く。

  「あら?悠志郎さん?どうしました?」

台所へ向かっているのだろうか、廊下で鈴香さんと出会った。

  「ああ、鈴香さん。美月を見かけませんでしたか?」

  「美月・・・ですか?いいえ、見ておりませんけど」

  「そうですか・・・」

  「美月がなにか?」

  「いや、なんてだか最近元気が無さそうなので、元気づけてやろうかと思いまして」

  「そうなのですか?私の目には特には・・・。まあ、悠志郎さんにしか見せない面もあるのでしょうけど」

冷やかすような目で見られる。

三人で暮らすようになってから、随分と経つのに相変わらずだ。

  「はははは・・・。そういうものですかねぇ・・・」

苦笑い。

  「そうですわよ。ふぅ、私にも早く良い人が現れないものかしら・・・」

  「いえいえ。鈴香さんにならばすぐに現れますよ」

  「そうだと良いのですけれど・・・。結局、まだ誰も・・・ですし・・」

  「それは、男に見る目がないからですよ」

  「いいえ、違います。行き遅れ気味の私なんかには、誰も魅力を感じないのですよ。きっと」

  (これはまた、ずいぶんときっぱり言い切りますねぇ)

  「そんなことないですってば」

なにやら嫌な予感を覚えつつ、はぐらかそうとする。

  「いいえ。そうに決まってますっ。悠志郎さんだって、若い娘をお取りになりましたし・・・」

  「あ。はっ。いやいやいや・・・。そんなことは・・・」

  (むむむ・・・話が変な方向に・・・)

  「では、これからでも私を娶っていただけますか?」

  「鈴香さん、それとこれとは話が・・・」

  (これはやっぱり・・・)

  「ああっ。やっぱりっ。悠志郎さんも若い娘の方が良いのですね・・・」

  「いや、別に美月が若いから好きだというわけでは・・・」

  (鈴香さん、酔って・・・)

  「もういいんですっ。私なんかずっっっと一人で生きて行きますからっ」

  「鈴香さん、もしかして酔ってませんか?」

  「いいえ、そんなことありません!!悪いのは悠志郎さんですわ!!」

  (聞く耳持たず・・・ですか・・・。なんというか、まぁ)

いつものやつが始まってしまったようだ。

  (それにしてもまいりましたね、そろそろ逃げましょうか)

  (強引に話を切り上げることにしましょう)

  (鈴香さんには悪いですが・・・)

  (三十六計逃げるに如かず・・・と言いますし)

  「・・・ともかく、ちょっと美月を探してきますね・・・」

言うが早いか、すっかり拗ねてしまった鈴香さんに背を向ける。

  「ああ・・・また私をおいて美月のところに・・・」

  「・・・のろけなんて、のろけなんて・・・。もういくらでもやってくださいませっ」

背後から聞こえてくる鈴香さんの声から逃げるように、玄関に向かう。

玄関まで来ると、ようやく鈴香さんの愚痴も聞こえなくなった。

  「はぁ・・・。やれやれ・・・」

呟きながら履き物を履く。

  (それにしても、どうしてなのでしょう)

  (私から見ても、鈴香さんは魅力的だと思うんですが・・・)

  (もちろん、私には美月の方が可愛いですがね。ふふふっ)

  (それなのに誰も現れないというのは・・・)

  「むしろ・・・鈴香さん自身が遠ざけているのかもしれませんね。ああは言ってますけど」

  「さて、とにかく私の可愛い美月を探しに行くとしますか」

私は玄関の扉に手をかけた。


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