「おっと・・・これはなかなか・・・」

玄関を開けるなり吹き込んできた冷たい風に、思わず身を縮ませる。

  「もう、秋も終わり・・・ですか・・・」

あの悲しい事件から丸三年。

三人の生活にも、ようやく先ほどのような賑わいが戻ってきた。

  (まあ、あれを賑わいと呼んで良いものかどうかは別にして、ですが・・・)

それは、どちらかと言えば良いことなのだろう。

神社にとっても、暗い雰囲気は好ましくない。

  「それにしても何処に行きましたかね・・・。こんな寒い中、風邪を引かなければ良いですけど」

もうほとんど暗くなった境内を一回りする。

美月の姿はない。

一応、石段の下まで降りる。

ついでに、昔教えて貰った場所にも行ってみる。

しかし、やはり美月の姿はない。

遠くに町の灯りと思しき小さな淡い光が見える。

  「ここに来るのは久しぶりですね・・・」

あれ以来、すっかり足が遠くなっていた。

  「やはり・・・思い出してしまいますからね」

ハーモニカも懐にない。

サぁ------

感傷に浸って遠くを見ている私を通り越して、吹き上げる風が木々を鳴らす。

  「駄目、ですよ、悠志郎さん。美月が待ってますよ」

その冷たい風が、なんだか柚鈴の讒言のように思えた。

  「柚鈴・・・分かってますよ・・・。ちゃんと探しに行きますから・・・」

私も風に言葉を返す。

伸びを一つ。

  (しかし・・・ここでないとすると・・・後は・・・)

うーーん、と考えてみるが心当たりがない。

ちょっとお手上げである。

  「は・・は・・・は・・・・くしゅっ」

いつの間にか体が冷えていることに気が付いた。

  (とりあえず、一度戻ってみますか・・・。美月も戻ってるかもしれませんし)

玄関を出てから小半時程は経ったであろうか、辺りはすっかり夜の帳が下りていた。

  (石段の下に行っているときにでも、行き違いになったのかもしれませんね・・・)

そう思い、引き返すことにした。


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