ガラガラガラ・・・
「ぶるぶるぶる。いやはや、外は寒いですねぇ・・・・・・って鈴香さん?どうしました?」
寒さに震えながら玄関を開けると、履き物を履こうとしている鈴香さんと鉢合わせた。
「あら、悠志郎さん。お帰りなさい。二人の帰りが遅いので、呼びに行こうかと思って」
「え・・・」
鈴香さんの言葉に耳を疑う。
(美月は、帰ってないのですか?)
「まったくもぅ。嫌ですわ。二人でなにをしていらしゃったんですか?ご飯、出来てますわよ」
「あ、いや、鈴香さん・・・」
「それとも先にお風呂にします?外は随分と冷えるみたいですし」
「鈴香さん、ちょっと待ってください。・・・美月は・・・戻ってないのですか?」
「はい?」
今度は鈴香さんが耳を疑っているようだ。
「ですから、美月は戻ってないのですか?」
「え・・・だって・・・、一緒ではないのですか!?」
「帰ってないのですね?いえ、探しに出たのですけれど、見つかりませんで・・・」
「では、美月は?美月は!?」
普段は冷静な鈴香さんが、取り乱し始める。
それだけ鈴香さんも美月のことを思っっていのだと、あらためてわかる。
あの事件があって、柚鈴と、葉桐さんと、和也さん、三人の家族を失って。
美月は、その原因ともいえるのに。
(それにもかかわらず・・・いや、以前に増してですからね・・・)
本当に頭の下がる思いである。
「分かりません・・・心当たりは当たったのですが・・・。鈴香さんにはないですか?」
「心当たりとはいっても・・・境内位しか・・・」
「石段の下も行っては見たんですが・・・」
「だとすると・・・・」
「あっ」
「はっ」
二人同時に思いついて、顔を見合わせる。
「しまった・・・私ともあろうものが・・・。失念してました」
「とにかく、一刻も早く行ってみましょう。真っ暗ですし、この寒さの中では・・・」
「ええ。美月が心配です」
二人慌てて玄関を飛び出す。
が、そこで私は立ち止まる。
ドンっ
背中に鈴香さんがぶつかる鈍い痛みがはしる。
「きゃっ。悠志郎さん?どうしました?」
呆然と空を見上げたまま答える。
「鈴香さん・・・申し訳ないのですが、私一人で行きます」
「え・・?」
「鈴香さんが美月を心配する気持ちは分かるのですが、一人で行かせてください」
「・・・・・・」
返事はない。
きっと困っているのだろう。
私の心を計っているのかもしれない。
「美月が・・・美月が、あの場所でいると言うことは、きっとなにかを思ってのことだと思うのです」
「あ・・・」
「それも・・・誰にも言いたくない、相談もできないなにかを」
「そう・・・ですね・・・」
「ですから、私一人で行きたいと思います」
決心をこめて。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙。
それもそうだろう。
鈴香さんに取っては、残ったたった一人の家族なのだから。
その家族に手を差し伸べることを、私に任せてくれと言っているのだから。
駄目、と言われても致し方ないと思った。
その時は、二人で行くまでのこと。
そう思っていた。
(それに、これは私の我が儘でもあるのですからね)
「・・・わかりました」
「え?」
「わかりましたと言ったのです」
「鈴香さん・・・」
「そうと決まれば、早く行ってあげてください。きっと、待ってますよ」
「・・・すみません・・・」
「いいえ、構いませんよ。だって、悠志郎さんも・・・家族・・・なのですから」
「・・・はい」
ありがたい。
心からの感謝を込めて頭を垂れる。
「私は、一応境内を見直してみますので」
「わかりました。それでは・・・」
「ええ。あ、悠志郎さん」
「はい?」
「美月を・・・宜しくお願いいたします」
「はいっ!」