(最初にこちらに来るべきでしたね・・・)

走る。

暗い森の中を。

切れる息が白い。

  (こういうときは・・・神威の力があれば便利なんですけど・・・)

あの時力を使いすぎたせいなのだろうか、私から神威の力は消えた。

別に力が欲しいわけではなかったので、消えてくれてむしろ良かったと思っていたのだが・・・。

  (今回は場所が分かっているのが不幸中の幸いですね)

ガサガサガササっ

下草を掻き分ける。

向かう場所までは後少し。

  「美月・・・」

待っていてください、と強く願う。

そして・・・・・・

  「ひっく。ひっく。・・・えぐぅ・・・・・・」

声が・・・聞こえた。

速度を緩める。

そして、一歩一歩。

覚悟を決めるように。

泣き声に向かって足を踏み出す。

安心と不安。

相反する想いに包まれて。

  「・・・わたし・・・どうしたら・・・」

声が近づく。

後、ほんの数歩。

  (・・・私も駄目・・・ですね。ここまで来て・・・)

行って良いのだろうか?

そんな思いに駆られている自分に気が付いて、自分を諫める。

  (悠志郎。しっかりしなさい!)

そこに、もう一つの声が重なる。

  「そうですよっ、悠志郎さん。しっかりして下さい。美月は・・・きっと待ってるんですから」

ハッとして立ち止まる。

  「柚・・・鈴?」

辺りを見回す。

しかし、その姿はない。

ただ木々が風にざわめくだけ。

  (そう・・・ですよね。わかってます・・・柚鈴・・・)

そして、

  「ゆうしろぅ・・・ゆうしろぅ・・・ひっく」

林の向こうから、美月の声。

吹っ切れた。

  (・・・私を・・・呼んでくれているのですね)

もう大丈夫。

やるべきことは、一つなのだから。

そしてもう一歩。

ついに林が切れる。

そこには・・・


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