「・・・って、美月?」

  「え?あっ?」

いつの間にか、私は涙と笑顔が入り交じった顔になっていた。

  「もう・・・美月ってば。しょうがないですね・・・」

ふわっ・・・

もう一度、悠志郎が包み込んでくる。

  「悠志郎・・・」

私もさっきと同じように体を預ける。

・・・やっぱり暖かい。

  「どうしたんですか?」

  「ううん。何でもないよっ」

涙を拭って答える。

  「そうですか・・・。なら良いです」

  「ありがと・・・」

  「いえいえ」

  「・・・・・・」

  「・・・・・・」

  「・・・・・・」

  「願いは・・・人に話すと減ってしまうって言いますから」

  「え?」

沈黙を破ったのは悠志郎。

一瞬何のことだか分からなかった私は、間抜けな返事をしてしまった。

  「だから内緒です」

  「へぇ・・・。そうなんだ」

  「実際にはどうか分かりませんけどね」

  「でも・・・なんだか分かる気がする」

  「そうですよね」

  「うん」

  「だけど・・・、きっと私と美月の願いは同じだと思いますよ」

  「え?」

悠志郎の言葉に、またも間抜けな返答。

こんどは驚いたから。

私の願い。

それは・・・みんなが幸せであること。

みんな・・・、そう、みんな。

私と、悠志郎と、姉様と。

そして、母様と、父様と、柚鈴と。

みんなが幸せであること。

  「だって・・・ここは、有馬神社は・・・みんなの場所ですからね」

  「ゆうし・・・ろう。そう・・・だよね?みんなの場所だもんね?」

  「そうですよ。美月。みんなの場所です」

  「うん。ゆうしろぅ・・・」

じわり。

きっとその音が聞こえるならば、聞こえただろう。

私の目からは、また光の粒が溢れ始めた。

  「きっと・・・、鈴香さんもそう思ってるはずです」

  「うん。うんっ・・・」

必死に笑顔を作りながら・・・。

悠志郎には見えないけど、私が笑顔でいたかったから。

  「それに・・・」

  「それに?」

悠志郎の言葉に私は顔を上げる。

  「それに・・・、葉桐さんも」

  「えっ?」

  「一哉さんも」

  「うん・・・」

  「そして、柚鈴も」

  「う・・・ん・・・」

  「みんなそう思ってるはずです」

  「うっく・・・えぐっ・・・」

もう駄目だった。

我慢なんて出来なくて。

  「うぇぇぇぇぇん。ゆぅ・・・しろぅ・・・」

私は泣いた。

声を上げて。

これまでにないぐらい。

柚鈴がいなくなった朝にもなかったぐらいに。

悠志郎の腕をつかんで。

そこには影。
夕日の中に一つだけ。
二人の影が一つだけ。


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