卵からはい出したイモムシは、やがて、サナギに変身し、さらにもう一度、蝶へと変身します。人間は、ずっと同じ姿なので、変身とは全く関係ないように錯覚しますが、実は人間も蝶と同じように、2度の変身をします。1度目は6歳前後、歯が生え変わるという、何とも不思議な現象が表れます。2度目はまたその6年後、第2次性徴といわれる変身です。声が変わったり髭が生えたり、生理が始まったり、子供自身が心配になるくらい、体のいろいろな部分が変わります。
この先のしばらくは、思春期と呼ばれ、親子ともども心の揺れに悩まされることになります。そのため、心の変化には誰も敏感になり、その対処法の解説書もたくさん出版されています。しかし、この変身にはもっとたくさんの重要な事柄が含まれているのです。
たとえば心は(西洋医学の範疇の中で考えれば)脳の中にあるのであって、第2次性徴によって多少なりとも心が変化するのであれば、脳そのものか、それを司るホルモンが変化しているのは明らかです。ということは、学習にも影響があって当然です。
簡単に言うと、脳の働きも、6歳と12歳を境に大きく変わっていくのです。
6歳までの子供は、勉強をする気がなくても、自然にものが覚えられました。世界の言語の中で、もっとも難しいとされる日本語(最近の研究では、話し言葉に限っては、世界の言語の中で簡単な方に入るという説もありますが)を、ちゃんとした学習なしに自然に使いこなしています。部屋の中にじっとしていられない子も、きちんと日本語が話せるのです。そのころ子供たちは誰もが天才なのです。
歯のはえかわりと共に、記憶するという脳の性能は落ちます。今までは、1日中外を飛び回っていても、おとなしく家で過ごしていても、覚えることに差がつかなかったのに、ここからは違ってきます。授業中、教室で落ち着いて人の話を聞いている子と、授業時間になってもなかなか落ち着いて席に座っていられない子とでは、大きく差がついてしまいます。
第2次性徴の時期が過ぎると、さらに、記憶の力は落ちます。ここからは、黙っておとなしく人の話を聞くだけでは、ものが覚えられなくなります。自分から進んで勉強に取り組んだ人だけが、その成果を出せるようになるのです。
受験勉強の時期がいちばんいろいろなことを覚えたと勘違いしがちですが、6歳以前に記憶した情報量は、受験勉強で手に入れた情報量より桁外れに多いのです。しかも、受験勉強は語呂合わせで年号を覚えたりして、誰も苦労して暗記しますが、6歳以前に、ものを覚えるのに苦労している子は皆無のはずです。
そして、とうとう、18歳を過ぎると、脳の細胞は死に始めます。
そこで言えるのは、まず、これまでに少し出遅れてしまった人は、第2次性徴が完成する前に取り戻した方がいいということです。6年生のこの1年間はそのための絶好のチャンスです。先日書いたように、出遅れた分をごまかさないで正直に認めて、しっかりそこまで戻って勉強のし直しをしてほしいと思います。今からなら、絶対手遅れではありません。
もう一つ、この1年間でしてほしいのは、勉強の仕方を少しずつ変えて、来るべき第2次性徴後の勉強に備えてほしいということです。
これまでは、先生の言うとおりの宿題を、ていねいにやるだけで優等生になれたはずです。しかし、この先、変身を終えた後は、それだけでは、脳の能力を高めることはできなくなります。自分でやるべきことを見つけ、どうやれば一番いいかを判断し、自分から進んで実行していくという、勉強方法に少しずつ切り替えていかなければなりません。
この1年間で「見る、読む、動く」が自分の意思でできるようになることは、行動にしても、勉強にしても、これから先の人生を有意義に歩くために、欠くことのできないものなのです。