90点は0点以下

 先日B君は、「算数の勉強を本気でやろうと思っているのですが、何をすればいいかわかりません。僕の弱点はどこですか。」と日記に書いてきました。B君がやる気になったことを、私はうれしく思いましたが、同時に、B君がまだ本当に目覚めているのではないと感じました。B君は、算数のテストでは、いつも80点から90点くらいを取ります。しかし、残念ながら、100点は、まだ取れません。こういう状況の子が一番自分の弱点を自分で知りやすいからです。

 100点ばかりをとっているのに、授業中は他の子より遅れているような気がしてならないというような子が、自分でその原因と対策を見つけるのは大変です。逆に、20点、30点しか取れない子も、できていないことが多すぎて、どこから手をつければ最も効率よくリカバーしていけるかを探すのは、自分だけでは骨が折れます。

 そのような子に比べ、B君のような立場の子は、まず何をすればいいかがはっきりしています。そのテストでたった1問だけ間違えた、その問題に関連する項目が、ただ一つの弱点だからです。

 毎回、毎回90点取れる子は、「うっかりしてしまった。ミスをなくせば今度は満点がとれるだろう。」と自分に言い聞かせがちです。しかし、それは、大きな間違いです。たった1問の間違いですが、その間違いは、自分に何かできていない部分があるということであって、けっして神様が悪戯した訳ではないのです。

 90点は0点と同じだ。こんなふうに自分に厳しく、そして冷静に間違えた訳を考え、似たような問題をあちこちから探してきて何度もやり直そうとすれば、90点の子は、すぐに満点を取れる子に変身します。しかし、たった1問だから、きっとこれは神様の悪戯だから、と考える子は、すぐに50点の子に追い越されていくのです。

 量と単位の学習は、6年生の算数の、最後の、しかも、けっこう高いハードルです。中でも、単位の換算は、しっかり気合を入れて学習しない子にとっては、やっかいな代物です。

 6題のテストをしたところ全部正解したのは、29名中、17名でした。17名の中には、もう、すでに頭の中に換算表を書いて答えを出せる子もいます。換算表を、まずていねいにテストの裏に自分で書いてから、答えをじっくり出していった子もいます。どちらも、自分の実力をよく知って、それに合わせた勉強をしっかりやってきたことがよく分かる解答でした。

 6題全問正解できなかった12名の内訳を見てみましょう。
・換算表の時点ではあっていたのに、あわてて、答えを写し間違えた。  1人
・換算表を作るとき、いくつか単位を書き忘れた。                  4人
・換算表を作るとき、あわててひとます単位を入れ間違えた。         1人
・換算表をきれいに書かなかったので、途中からますが違ってきた。   2人
・表を書かずにやろうとして失敗した。                            1人
・表を作ってやり始めたが、途中から表を使わずにやって失敗した。   1人
・表の作り方を練習してこなかった。                             2人

 この12名の中のほとんどの子が、いつもは、算数のテストで高得点を取れる子です。過信、集中力の欠如、テストに取り組む真剣さの欠如、・・・理由はそれぞれですが、理解できているのに、方法がわかっているのに最良の結果を出せないということについては、きちんと反省しなくてはいけません。ここで「自分を甘やかした反省」しかできないようでは、その子はこのままだめになります。たった1枚のテストではないか、100点のうちのたった5点にすぎない、など考えたら、何も解決しません。

 長野オリンピックでは、100分の数秒の差が、天国と地獄を分けています。40?のリレーでさえ100分の2秒の差の世界です。あの人たちは、たまたま勝ったのではありません。すべての練習において、100分の1秒の研ぎ澄まされた勝負を積み重ねた結果として、あの一瞬があるのです。

 お子さんは、これからの人生の中で何度もテストを受けるでしょう。これまで何度も言ってきましたが、テストは、自分の努力の成果を見せることのできる格好の場です。スポーツで言えば試合です。オリンピックです。ワールドカップなのです。努力の成果を出す喜びを味わえるのは、努力した人だけです。

 オリンピックの晴れ舞台で競技したり、演技したりするのは、さすがに緊張するでしょう。しかし、自分を選手に選ばないでほしいと言っている人はいないはずです。誰も真剣に取り組んできたのですから。
 

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