息
大きく息を吸い、吐く
三回続けて繰り返し
風船が膨らむ
自分の頭と同じ大きさの風船の中には
自分の頭と同じかさの息が入っている
庭で大きく吸い込んだ金木犀の香りが
私の体を通過して
風船の中に詰まっているのか
先ほど一緒に笑った娘と息子の声が
私の体を通過して
風船の中に詰まっているのか
その正体はわからないけれど
風が
この星を思いのままに駆けて
全ての生き物の吐く息を
一つに巻き込んでいるのなら
この風船の中の空気の中には
世界中の香りと笑い声が
溶け込んでいるのだろう
指が一瞬緩んで
風船から息がもれる
その息を風が巻きとって
世界のどこかに連れて行った
反対側から、また、違う世界の風が
娘と息子の未来に触れた
静岡新聞 2018新春文芸 第1席
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