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子育ては大変です。
毎日苦労ばかりです。
こんなに大変なこと、いつまで続くのだろう、
早く大人になってほしい、などと
一日に一度は考えてしまいそうです。

でも、
本当にその日が来たとき、
多くの人が後悔します。
あの大変な時が、いちばん幸せだったんじゃないかと。
あの一日一日をもっと大切に過ごせばよかったと。

その日の後悔が一つでも減らせるように、
この歌を贈ります。




詩集『季節の小箱 第一集』

  家族の時代

   誰よりも
   ゴールで君が待っている
   何度目かの静けさの中で
   Kiss&Goal
   Just a Litle Love
   みさき
   あなたが四月に生まれたら
   夢の中 夢の後
   その日
   エスケリ
   ふとんの舟
   君は誰
   青い海の夢
   私もこの子を前にして
   灯り一つの部屋で
   Moon Light Kiss
   みいちゃんのおふろ
   父さん、父さん、かたぐるま
   高熱
   針
   君が生きていて
   木の下
   十歳
   皺と線
   真夜中の背中
   息子と同じ月を見る
   雪の降らないクリスマスの夜
   解体
   ひとり
   そこにいる  
   アルバムが笑っても
   Mの記憶
   家族の時代
   思い出
   象舎の前の坂道で
   ふたり
   手のひらの中に 




   誰よりも

あなただと気がついた
その笑顔を見たとき
小さな頃から夢で会ってた人が
誰よりもそばにいて
明日をつくってゆく
searchin' for my love
一人の夜も
この日が来ると信じてたから

生まれた日からずっと包んでくれた愛が
今日は大きな手で背中を押してくれる
だれよりも大切に育ててくれた日々を
thank you for your love
胸に灯して
二人の道を歩いていく

誰よりもまっすぐに互いを見つめられる
searchin' for our dream
二人が生きる世界は
今 始まったばかり




  ゴールで君が待っている

何も見えず 走ってた頃は
周りの足音ばかり気になったけど
ゴールで君が待っている今は
明日のこと考えて走っていられる

遠く遠く続くこの道で
これから同じものを見よう
幸せの花束ができるほど
二人でこの道に種を蒔こう

一人だけで走っていたら
過ぎゆく季節の風も見えなかったよ
ゴールで君が待っている今は
風の色もわかるほど 気持ちが広がる

遠く遠く続くこの道が
だからこそ 楽しく見える
幸せの花束ができるまで
二人でこの道をかけていこう

遠く遠く続くこの道で
これから同じものを見よう
幸せの花束ができるほど
二人でこの道に種を蒔こう




  何度目かの静けさの中で


「本日は、お忙しい中、長男・・・」
決まりきった言葉が
  少し乱れた それでも
決まりきったリズムで
今日、何度目かの静けさの中に
響き始めた

彼のお父さんの声は震えていた
原稿を持つ指はもっと震えていた
どうして「昔の人」は
一生に何度もない大切な思いを
自分の言葉で語らないのだろう
この疑問は晴れないけれど
彼のお父さんは
「結婚式スピーチ集」から
そのまま写した文を読みながら
本当の気持ちを伝えていた

もしかしたら この世には
本当のことを伝えるただ一つの言葉など
存在しないのかもしれない

「・・・若輩者の二人ではありますが・・・」
何度か繰られた紙は
あと二、三行で終わる
しばらく後に会場にあふれるはずの
演出された拍手と涙の中にも
いくつかの真実がこぼれるのだろう
彼のお父さんの人生を知る人の胸の中から
きっと こぼれ落ちるのだろう




  Kiss&Goal

恋のサテライトが ひとつ昇格して
愛のトップゲームに 今日からデビューする
センターサークルに立った 輝く二人に
祝福の拍手が スタジアムうめつくしてる

だからKiss&Goal 決めるために走り続けよう
永い愛も 熱い夢も 始まったばかり

どんな厚い壁も 二人なら大丈夫
目と目を合わせればスルーパスで突き抜ける
二人 つくる トライアングル

巧みな たまさばき
11人のファミリー そこまで 
  You can make your love

だからKiss&Goal 決めるまでは走り続けよう
永い愛も 熱い夢も 始まったばかり




    Just a Little Love

きっと運命の女神は気まぐれじゃなくて
二人の出会いは けして偶然じゃない
風に遊ぶ吊り橋の上でも
その手 握れば もう ゆれたりしない

Just a Little Love
この小さな始まりが
いつか世界を暖めますように
to love 照れずに
愛をくちびるに乗せて
あなたと 少しずつ


信じることがこんなにうれしいなんて
明日のことも来年のことも
そして新しい命が生まれて
愛を確かに伝えていくこと

Just a Little Love
この小さな始まりが
いつか世界を暖めますように
to love 送った分だけ
愛は増えていく
あなたと いっしょなら




    みさき

春の風が強すぎて
もう 振り向けなくなる
外の海の波音が
東へと流れてゆく
穏やかな入り江の青い色と
みさきは 海を二つに分ける

けれど 海は ひとつ
流れる時も ひとつ
やがて生まれる君の名前を
こうして考えていた 三月


遠く過ぎる船影が
もう 形をくずして
西の雲が知らぬ間に
夕日を隠していた
夕凪が来るはず いつもならば
遠くの声が聞こえる時間

けれど 風は やまず
流れる時も やまず
昨日の夢と 明日の間に
とどまることなどない 三月


満ちゆく海 溢れる命
君が 今 この世界のひとつになる

やがて 大きく育った君に
話そう このみさきからみえるものを




  あなたが四月に生まれたら

あなたが四月に生まれたら
すみれの風に包まれて
かおるやさしさを知るでしょう

あなたが四月に生まれたら
春の光の指先で
人のぬくもりを知るでしょう

あなたが四月に生まれたら
すみれの花言葉のように
むくな心を持つでしょう

春の蝶々の伝言を
すみれのかおりにやさしく包み
小さな指でつかまえて

あなたが四月に生まれたら・・・




   夢の中 夢の後

君を乗せた月の舟は
今夜 星の河を渡る
時の流れを越えてめぐりあった
 二つの星の光の跡をたどりながら

風に乗って泳ぐように
そっとゆれて君が降りる
大地を踏む前に
二人の腕に強く抱かれて
明日のことを聞いてほしい

夢の中 夢の後 いつでも
微笑んだ君の顔 見せてよ
時を止めて かわらない いつまでも

君を 君をずっと待ってた
二人 愛を知った日から
その小さな指を離さないから
いっしょに行こう
禁断の実に出会う日まで

夢の中 夢の後 いつでも
透明な嘘の無いその声
歌う心 響かせて いつまでも




   その日

きれいな看護婦さんが
「お父さんですか。おめでとうございます。」
ぼくはどぎまぎ 視線をそらして
え?ああ どうも ええ まあ その
男ですか 女ですか
指はちゃんと五本ありますか
聞きたいことが頭の中で
縦横無尽にかけまわり
出てきた言葉は こともあろうに
親父の面目 まるつぶれ
あ、あの 足は何センチですか

扉の向こうに君が待っている
僕の大事な人といっしょに
君が待っている

やっぱり 僕も言われたらしい
「動物園の熊じゃないんだから。」
くまったなんて しゃれにもならない
え?ああ だって ふむ まあ あの
鼻の高さ 二重瞼
くちもとなどは女房に譲ろう
けれど 明るい性格は
僕に似なくちゃしかたない
看護婦さんが ぼくの顔を見て
少し笑ったような気がする
あ、あら お父さんにうり二つです

扉の向こうに君が待っている
僕の大事な人といっしょに
君が待っている





    エスケリ

こんな気持ちは 初めてだよ
会う人みんなに 感謝したいよ
だけど ありがとうなんて がらじゃないから
遠い異国の言葉を 誰にも知れぬよう
エスケリ

出会った頃は 気持ちを計り
遠慮しがちな二人だったね
そんな 僕と君の間に 愛の間に
こんなすてきな生命が 生まれてきたんだ

黙って眠る君の呼吸が
なんだかとても 不思議な感じ
やっぱり 僕には 何もできない
こうして ただ君を 見ているほかには

大事な人を 愛してゆけば
心の底から 愛してゆけば
誰にでも こんな幸せが やってくるけど
今だけは この気持ち 独り占めしたい
エスケリ




    ふとんの舟


ボクはね これから ふとんの舟で
おもちゃの国へと でかけるのよ
そうして おもちゃのおひめさまと
なかよく 遊んでいらっしゃい

ボクとね ママのね ひみつなのよ
ふとんのお舟の出発時間
パパがね 帰ってくる前に
ふとんのお舟に乗り込もうね

ゆらり ゆらり 星の間
ゆらり ゆらり ふとんの舟

ボクはね これから ふとんの舟で
おもちゃの国へと でかけるのよ
ママのね だいじな 王子様
おやすみなさい おやすみ




   君は誰?
      ----娘が産院から初めて家に来た日----

君が目覚めたら この夢が終わる
そんな気持ちにさせる
不思議なときめき

初めて見る君の寝顔に話しかけ
何度も確かめなければ
消えてゆきそうな夜

君は誰?
目の前の今が信じられない
本当に 今日から君は
この部屋で眠るんだね
夢の世界へ 帰らないね


雨が降り出した
窓を流れてる
君の寝息のリズムは
やさしく かわらない

窓の外を行く時間の迷路の中
迷ってしまわないように
僕がそばにいるから

君は誰?
誰よりも いちばん大事な人
まだ臆病になるんだ
何度でも聞き返すよ
朝になっても
   ・・・君は誰?




 青い海の夢

青く遠く続いてゆく
はるかな海よりもっと大きく
君が見てる夢はいつも
ときめく心を教えてくれる

心はいつでも
ゆれてるけれど

夢の色を数えながら
明日の港を探してごらん


遠まわりの道をえらぶ勇気も
時には大切なもの
風を受けてふくらむ帆は
小さな望みもつつんでくれる

指からこぼれる夢のかけらを

ほら 何度も あきらめずに
集めて 抱きしめ
育てていこう


大きな嵐もやってくるけど

ほら 何度も 顔を上げて
笑ってみせてね
明日の朝も




  私もこの子を前にして

悲しい顔はしなかった
一度も泣いたりしなかった
しかった顔は見たけれど
怒った顔は見なかった

笑った顔はおぼえてる
笑った声もおぼえてる
笑った匂いもおぼえてる
鏡を出して、まねてみる

私もこの子を前にして
これから10年、20年
強い心で、ねえ、母さん
強い心で、生きなくちゃ




   灯り一つの部屋で


僕は右の頬で 君の呼吸を数える
僕は睫毛で 君の産毛を数える

僕は固めた瞼で 君の瞬きを数える
僕は寝かせた指先で 君の鼓動を数える

僕は人差し指の根で 君の指の力を数える
僕は煙草の代わりの珈琲で 君の日齢を数える

僕は夢現の中で 君の泣き声は数えない
僕は彼女との語らいの中で 君のこれからの幸せを数える

そろそろ 僕は父親と呼ばれ始める
次の春 僕を君は何と呼んでいるのだろう

触れる前に 壊れるな
戦争という名のもとに




  Moon Light Kiss

ぼうやが見ているわ
ほら あのドアのすきまよ
今すぐ 白いひげ
かくしてよ My Sweet Kiss

Ring a Bell  イヴの夜
星も 虹も 月影も
プレゼントしてくれた あの頃
思い出してほしい

だから
少しだけ Shall we dance?
ぼうやが 夢に かえるまで


Moon Light Kiss  窓の外
降り出した雪が光る
愛を急がせてた あの頃
降りつもってゆくの 

だから
少しだけ Shall we dance?
二人が 夢に かえるまで




  みいちゃんのおふろ

みいちゃんの おふろはね
パパも あらうの
くまの あんよも
タオルで ごしごし

みいちゃんの おふろはね
シャンプーも へいきよ
ぞうさん はなから
シャワーで ふわふわ

みいちゃんの おふろはね
あついの へいきよ
あせを かいても
まだ まだ でないよ


いぃち にいぃ さぁん しいぃ ごおぉ 
ろくしちはちくぅじゅっ

おかあさーーーん みいちゃん でるぅ




  父さん、父さん、かたぐるま

上のボタンに手がとどかない
飲みたいジュースが出てこない
父さん、父さん、かたぐるま

こわいよ 足がとどかない
これじゃ 顔までもぐっちゃう
父さん、父さん、かたぐるま

ぶらぶら でんきにとどかない
早く「おやすみ」したいのに
父さん、父さん、かたぐるま




   高熱

息子が布団の中で手足を伸ばした
呼吸も少しだけ大きくなる
峠を越えた息子の寝息が
部屋の中の時間を
ゆっくりと動かし出す

昨日まであった
息子へのさまざまな夢や希望が
たった一つの祈りに束ねられていく
私より
一日でも長く生きてほしい




     針

「慣れているから、もう平気だよ」
そう言って、顔は笑った
九歳の娘が
毎日三回 自分の手で
太ももに針を刺す
注射も慣れれば痛くないのか、と
自分の経験しないことを いつか納得していた

娘の針が皮膚で止まった
足の親指が反り返っている
他の八本はしっかり握っている
針先と肉の接点を見つめたまま
注射器を押す手は止まっている
四歳の娘に初めて針を刺した時の
思いのほかかたい肉の感触が私の手にも戻ってくる
自己注射の痛みに 「慣れ」なんてないのだ
たとえ親子でも本当の痛みは分かち合えないのか

気が付くと 娘は注射を終わり
インスリンのセットを片付けている
「ね、平気でしょ」
そう言って、顔は笑った




   君が生きていて


インスリンが目薬になったらいいねと言う私に
目薬はこわいから注射の方がいいと言う
痛くない所がわかるんだよと言いながら
同じ場所にばかり針を刺すから
ほら そこがもう青ずんで 腫れている

もっと自由が欲しいと言う人達は
きっと本当の束縛を知らない
娘を毎日縛る鎖は
一生ほどけないとドクターに言われても
何とか力ずくで切ろうと引っ張りまわし
見知らぬ人にまで 声をからし 頭を下げ
今は
手を合わせ 祈るだけになった

私の三十七歳の誕生日を祝うために
娘がこっそりと「わたしのおとうさん」を描いている

君が生きていて 笑ってくれている
私の歳を追いこせるよね きっと




   木の下

ちょっと見ただけでは
なかなか見つからないけれど
ひとつ見つけると
意外なほど たくさん落ちている 
どんぐり

木の下にせまる石畳の歩道で
踏まれ つぶされているのを見て
かわいそうだね
まだ きれいなのは拾っていくよ
息子が集め始める

踏みつぶされても
拾われても
どんぐりが その人生を全うしないことは
今日は まだ
息子には黙っておこう




   皺と線

手作り地球儀は手強い
十八枚の地球の皮を
ハワイから西へ向かって
一枚ずつ貼る
赤道を合わせても
高い緯度がずれる
必ずどこかに皺が寄る
肩越しに心配そうに見る息子に
「うまく山が盛り上がった」
って言った途端
海の方にまで皺がのびる

お前には
皺の寄った地球しか贈れないが
お前が大人になる頃
宇宙旅行ができるようになっていたら
国境線さえない地球を
その目で見てくるといい




    十歳

十本のろうそくを
一息で吹き消した
ちらっと こちらを見ては
にやっと いばってみせる
君は十歳になった

初めての誕生日
君の年齢は 私のたった三十分の一
なのに 今日は
もう四分の一まで近づいた

     君が生まれた時は まだ
     商店街のアーケードが
     何十年分かの時間を支えていた

たった十年が
ほんのすこし 私を変え
知らぬうちに 町を変え
とほうもなく 君を変え

     君の背丈が どこまでも伸びるよう
     商店街の天井が 青空に変わってゆく

その速度の違いは
少し うれしくて
少し さみしくて
少しだけ 少しずつ
君は十歳になった




   真夜中の背中

肩どころか
背中をすべて露にして
眠る娘の布団を掛け直す

背中どころか
足元のあたりで 踏み固められた
息子の掛け布団を
体の下から 引っ張り出す

昼間の子供に会えない男は
真夜中の背中を見ながら
少しだけれど 父親を楽しむ




  息子と同じ月を見る

おつきたま

おつきたま

あの頃の息子は
どんな月を見ていたのだろう
あの頃 私の見ていた月は
今とそれほど変わりがない

もうすぐ
視線の高さが並ぶ息子と
今夜 私は
同じ月を見る

それから すぐに
息子は私の背を追い越し
違う月を見るだろう

長い人生の中で
たった 今だけ 私は
息子と同じ月を見ている




  雪の降らないクリスマスの夜

娘も息子も
私たちとテーブルをはさんで座る
四人とも別々のメニューから顔を上げない

あの頃は
メニューをテーブルに広げ
それぞれの選んだ「御馳走」に
感心したり、文句を唱えたり・・・

二人を見ている私に気づき
「楽になったものだ」とあなたが言う
でも

顔を上げた弟は
相変わらずいちばん高い品を選ぶ
姉は弟をひとにらみした後
値段の安い方を選ぶ
娘の気づかいが
いつか訪れるであろう終わりの予備信号のようで
少しこわい

お寺の鐘を百八つ数え
鳥居をくぐって柏手を打つ私たちに
十二月二十五日を祝う理由は少しもないのだから
年に一度の家族の楽しみを
いつまでも続けたいと思うのは
ぜいたくなのかもしれない

もう何年も
クリスマスのこの町には雪が降らない
雪のクリスマスはすてきだろうけれど
また今年も 
雪の降らないこの町で
四人のクリスマスを迎えられたことを
今夜は神様にそっと感謝しよう





  解体


思い出は壊れない
そう わかっていても
まるで心の中で行われているように
建て替えのための解体が進んでいく

自分の人生の半分を費やして建てた家が消え
その空間に
あとの半分を費やして育てた子供たちが
また
その人生の半分を費やして家を建てる

折れる柱
割れる窓
舞うかのように宙を漂い
斜めに落ちていく障子

いっそ こなごなになってくれればいいのに
どれも中途半端な形を残したまま
今日の作業は終わり
陽が暮れていく




    ひとり

テレビに向かって文句を言う父を見て
歳をとったとため息をつき
ゲームに浸る息子を
外で遊べと叱った夜

パソコンに向かってひとりごとを言う
自分に気づく




    そこにいる

話しかけても答えぬ花を
それを理由に
嫌う人はいない

会話のまばらな家族を前に
さみしさといっしょに
怒りさえ感じている

思いがけない秋の夕焼けを前に
もっと美しい冬景色を早く見せろと
要求する人はいない

飲んでくだまく私に
つき合う友人に
何とか言えよとからんでいる

そこにいる
そこにいてくれる

家族も友人も
それだけで充分なのに

私は時々
こんなことさえ忘れている




    アルバムが笑っても    

写真の整理に精を出す
老後の楽しみに備えてだというと
まだ早いよ、と 誰もが言う

でも

地震の時、火事の時
家族の命の次に
このアルバムを連れ出したいね、と
やはり 誰もが 微笑む

これは 君が病気になる前の写真だね
とても楽しそうだけど
今の君の方が すてきな顔をしているよ

今を悲しむために
戻れない昨日をのぞくのではなく
昨日と、昨日と、・・・昨日の積み重ねが
今日を創り出したのだと
自信を持って言うために

写真の整理に精を出す




    Μの記憶

君の少女の面影が しだいに遠のいて
すねたような笑い顔 もう見ることができないね
菜の花でふくれた 春の土手の上で
ひこうき雲に手をふっていた頃

僕にはもどれない
もどれないのだから
今 この時を抱きしめて
肩を越えた君の髪の長さだけ たしかめる

君がどこかで立ち止まり 振り向くその時に
もしかしたら もう ぼくは いないのかもしれないね
おとぎ話の夜と夢の朝の間
泣きながら 目を覚ます ふとんの中

君にももどれない
もどれないのだから
今 この時を抱きしめて 
風のように 君のままで
振り向かず行きなさい

幻を愛し続ければ きっと自分も幻になる
君が涙いっぱいにして見つめるのは
今は まだ 昨日ではなく 明日だけでいい
誰にももどれない
もどれないのだから
今 この時を抱きしめて
今 この時を抱きしめて




  家族の時代

ねえ、お父さん
本当はね
幼稚園の頃から
サンタクロースの正体
私、知ってたのよ

わかっていたさ

じゃ、どうして毎年黙って続けたの

あの頃が
もう二度と来ないかもしれない
家族の時代だったからね




   思い出

ずいぶんと
一人きりで生きてきた
そう思っていたが
思い出といえば
いつも誰かといっしょに
楽しんだり 苦しんだりしたことばかりだ
疲れた心をいやしてくれる場面は
なおさらに

そうか
君をもっと大切にしなければ




   象舎の前の坂道で


象舎の前の坂道を
登り切って振り向くと
象より優しい目をした父と母が
手を振りながら登ってくる
春の動物園は
桜色の道に風

象舎の前の坂道で
少し遅れる君の目を見ずに手を出す
黙ってそれに応える君も
おそらく恥ずかしげに、僕を見ていない
夏の動物園は
坂道に灼きつける
歩き始めた二人の影

象舎の前の坂道の
少し先で娘がころぶ
かけ出そうとする君の腕をつかんで止めた
立ち上がりにっこり笑った娘に
胸をなでおろした僕は
見た目ほど冷静ではない
秋の動物園は
娘も僕も救う
落ち葉のじゅうたん

動物園に行ったのに
人ばかりを見ていた

象舎の前の坂道に
孫が生まれてせがまれるまで
行く理由は見つからない
冬の動物園は
陽だまりを少し まわり道




  ふ た り

世界中の人を愛せたらいいね
でも、ぼくらは神様じゃないから
そんなに一度に愛は送れない
ゆれたり、傷ついたり、
たったひとつの愛さえ手放しそうになる
でも
やっぱりぼくらは人間だから
せめて
愛のいちばん小さな単位『ふたり』だけは
こわれないように、いつでも
がんばっていく




   手のひらの中に

坂道はいつも切なくて
思い出をそっと語りかけてきたけれど
君の手を握れば
夢を形にする勇気さえ持てるから
出会ったばかりのときめきをいつも
ポケットに入れて歩いてゆく
手のひらの中の小さなぬくもり
二人で育てよう 大切に

坂道も君といっしょなら
これからは前を向いたままで歩けるよ
いつも近くにいて同じ歌を歌う
ハーモニー重ねながら
出会ったばかりのときめきをいつも
ポケットに入れて歩いてゆく
手のひらの中にあふれる明日を
二人で生み出そう いつまでも

手のひらの中で君の指先が
僕に話しかけるように踊る
手のひらの中の小さなぬくもり
二人で育てよう 大切に




長かったのかなあ

短かったのかなあ

子供の時には知らなかった

家族の時代が

     あるってことを

長かったのかなあ

短かったのかなあ

子供の時には知らなかった

家族の時代が

     あるってことを




掲載

 『静岡新聞』
   何度目かの静けさの中で
   皺と線
   雪の降らないクリスマスの夜
   そこにいる

 『文芸やいづ』
   灯り一つの部屋で
   十歳
   解体


作曲

 前島英世
  夢の中 夢の後

 島田佳弥
  Mの記憶

 増田浩二
  誰よりも
  ゴールで君が待っている
  Just a Litle Love
  ふとんの舟
  君は誰
  青い海の夢
  Moon Light Kiss
  みいちゃんのおふろ
  手のひらの中に