個性(1)
 

アルミ缶当番

 今週はアルミ缶当番です。アルミ缶ステーションに集められてくる大量のアルミ缶を処理する仕事です。昨年から、学級毎、1週間ずつ交替でやるようになりました。

 アルミ缶を上手につぶすと、体積が3分の1から、4分の1に減ります。環公害防止連絡協議会の方がトラックに積んでいってくれるのですが、しっかりつぶしてあれば、つぶしてない缶の3倍の量が運べ、運送費がそれだけ浮きます。その浮いた分を、環公害防止連絡協議会の方が車椅子の方に回してくれるということになっているので、アルミ缶をつぶして袋詰めにするのは、とても大切な作業です。

 大人ならば、うまくやれば一踏みできれいにつぶせることもありますが、子供の体重では無理です。一缶について、最低でも三回踏まなければなりません。きれいなアルミ缶なら足が疲れるだけですみますが、つぶしたアルミ缶からは、飲み残しのビールが飛び出してきます。中には、タバコの吸い殻やゴキブリが飛び出したりするものもあります。

 今の季節はまだいいのですが、夏になると、蒸発したビールのアルコール分で気持ちは悪くなるし、缶が増えれば、つぶす音も耳をふさぐほどうるさくなります。また、最近では、飲み残しをねらってスズメバチが来るらしいこともわかってきました。

 月曜の朝は、職員の会議があるので、アルミ缶ステーションは、子供たちに任せました。普通は会議の終わる時間になっても、缶の処理は終わることがないので、会議が終わった後ステーションに出向くと、作業はすでに終わり、子供たちは誰もいませんでした。

 なかなか素早い作業です。片付けもきちんとできていました。ここはひとつほめてやろうと、教室に向かって階段を昇りかけると、福祉委員会担当のA先生から声をかけられました。「6の2の子たちは、本当にきれいに片付けてくれたね。ほめてやってね。」

 A先生は、毎日、アルミ缶ステーションを見ていらっしゃいます。その先生からほめられたのですから、この日の彼らの片付け方は、相当よかったということです。とってもうれしくなりました。

 彼らが人のためによく働くという話は、受け持つ以前からよく聞いていました。心優しい子たちだなあと、前から私も思っていました。しかし、今日の仕事ぶりを想像すると、やさしさに加えて、さらに違う力が育ってきたのではないかと感じました。        

チーム

 チームで仕事をするときには、人数が多ければ多いほど早く終わることが多いのですが、その時間と人数とは必ずしも比例する訳ではありません。メンバー一人一人の質によって、その関係は大きく変わるのです。

 アルミ缶ステーションの仕事は、よほど効率よくやらないと、これだけの人数ではあんなに短時間にできないはずです。一人一人が、自分が何をやるべきかをはっきり意識し、それに向かって情熱的にやらねば、チームの仕事の能率はあがりません。この時の子供たちは、きっとそれができていたのだと想像できます。

 チームが効率よく活動し、大きな仕事を成し遂げるためには、二つの方法があります。一つ目は、強力なリーダーが細部にわたるまで指示をし、それに従って一人一人が動くという方法です。もう一つは、メンバー一人一人が判断し、チームが最高の力を出せるように自分の役割について考え動くという方法です。

 前者のよいところは、チームとしての決断が速いことです。リーダーの決断さえ早ければ、すぐに動き始められます。また、リーダーの卓抜した眼力によって、自分でさえ知らなかった一人一人の能力が引き出される場合もあります。

 欠点は、リーダー不在のときにチームの機能が停止すること。また、リーダーでなくても、その部署のエキスパートがいなくなると、機能が大幅に低下することです。そして、恐ろしいのは、リーダーの判断の誤りによって、チームが壊滅したり、誤った方向に進んでしまうことです。

 後者はその点、互いがコンセンサスを得るまでに手間がかかり、動き出すまでに時間がかかるかもしれません。また、自分の能力は自分で開発しなければなりません。

 しかし、その分、誰かがいなくなったり、どこかの部署が遅かったりするときは、誰の指示がなくてもそこをすばやく補うということを各人ができるようになっています。また、何といっても、それぞれがチームの行方を考えて動くので、人を不幸にする方向には進まないでしょう。

 このクラスには、卓抜したリーダーはいません。「やろうよ」と友達に声をかける人は何人もいますが、友達に仕事の指示を与える力のある子はいません。そんなリーダーのいないチームなのに、アルミ缶ステーションのような、人からほめられるような立派な仕事を、短時間のうちにやりとげることができます。一人一人が全体のことを見ながら、自分で考えて動けるようになってきた証拠だと、うれしく思っています。
 

          One of Crewへ      ホームへ