未知
いよいよ卒業が迫ってきました。卒業式の日を入れても、あと8日しか、この教室で学ぶ日はありません。これもただの通過点にしか過ぎないのですが、日本の学校制度が、脳の変革期を6年毎と設定し、その境目となる時期なので、重要なことは確かです。
子供たちにとって、中学校という未知の世界へ足を踏み入れる希望と不安の入り交じった時期です。しかし、未知の部分は、本当は中学校という器にあるのではなく、第2次性徴、思春期といった、自分自身の中に在る世界なのです。未知なる自分自身を、自意識を持って探る最初の経験をすることになります。
そのためには、やはりこれまでに学んだことをきちんと整理して、それを脳の中、体の中に収めておく必要があります。
まず、教科書を全部読み直しましょう。教科書に載っていることは、完全にマスターできているでしょうか。よく「学校の勉強は、社会に出てから役に立たない」と言う人がよくいますが、とてもかわいそうだなあと思います。きっとその人は、自分から勉強するということを全然しなかったか、中途半端でやめてしまった人でしょう。スポーツの世界でも、自分の限界まで挑戦した人は、たとえその道で成功しなくても、そのスポーツの鍛練で身につけたことが人生に生かされていることを感じるそうですが、中途半端でやめた人は、そのスポーツをやっていた期間が無駄に思えるそうです。学校の勉強も同じです。脳も体の一部なのですから。
次に日記を全部読み返しましょう。毎週きちんと書き続けていた人は、自分がどんなことに対して悩み、どんな答えを出してきたかを振り返ることができるでしょう。その時の自分の心の動きをもう一度整理しておくことで、これからぶつかる問題に対する力を蓄えることができます。当時、意味の分からなかった私の返事も、今だから役に立つということもあるかもしれません。
これから1カ月、一時も遊んでいる暇はありません。きちんと机に向かい、脳の中を整理しましょう。脳の未知の世界、第3段階へ入っていくのですから。
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「お前達にはやさしい人になってほしい。」
これが先生の初めての言葉でした。そして、6年2組の教室には、優しくなるための秘密がいくつかありました。種まきカード・見る、読む、動くのめあて・先生の話、そしてクラスのみんなです。
私ははじめ、見る、読む、動くのことがよくわかりませんでした。そのうちに、種まきカードというのをやるようになり、日記も書くようになり、たくさんの事について悩みました。こんな事をやってきて、クラスのめあてが本当にわかったのは、つい最近です。
めあてについて本当に理解できたのは、クラスのみんながいたからだと思います。もし一人だったら、相談することもできず、悩むことさえできなかったでしょう。見る、読む、動くも、クラスのみんながいなければ、実際にやってみることはできなかったのです。
前の日記で「共同生活は大変だ」と書いたけれど、今思うと、一日一日をどこかで助けられていたと思います。本当に6の2のみんな、先生と出会えて良かったです。
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この1年間、見て、読んで、動けたかと振り返ると、最初のころはできなかったと思います。友達がころんでも「大丈夫?」と聞くだけで、ひざについた泥や手についた石を取らなかったり、よく、いっぱいアルミ缶を持ってきてくれるおばあさんが学校に来ても、「重そうだなあ、手伝おうかな。」と思いながら結局は手伝わなかったり、という覚えがあります。
でも今は、友達がこけた時は、声をかけるだけでなく、石や泥を取ってやることもできます。2年生が重そうにテーブルや段ボールを運んでいた時も、すぐに手伝うことができました。「見て」「読んで」「動く」までできるようになったのです。せっかく、見て、読んで、動けるようになったのだから、これからもっともっと人の役に立てるようになりたいです。
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私はこの1年で、友達を読むというのが、少しできるようになりました。6年生の初めは、見る、ということもあまりできませんでした。種まきカードに誰の何を書くか、というのがすぐに思い浮かばなかったのが、その証拠です。
でも、今は、友達の良いところをたくさん見つけられます。読む、も少しできるようになりました。これからしばらくは、読む力を磨いていこうと思います。
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今までいろんなことがあったが、あと少しで小学校生活も終わりになる。そのために、まだ残っているテスト直しや日記の残りなどを片付けなければならない。
6年生になって、いろんな事を学んだ。友達の大切さ、もちろん勉強。敬語の使い方だって、6年になって、少しはできるようになった。学校ではいろんな人に会えて本当に良かったと思う。
だが、今、僕にはやることがある。初めに書いた勉強のこと、そして、もう一つ、何としても小学校最後のこの時に、あの1組や3組に2組が勝つこと。僕は学年オリンピックでサッカーに出る。がんばって、1組、3組に勝ちたい。
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やさしくなろう。
そう思ってきました。
3学期になって、先生が、
「おまえ達は、目の前にいる人には優しいけれど、見えない人にはやさしくない。」
と、おっしゃいました。見えない人というのがよくわからなくて、よく考えてみました。そして、少しずつわかってきました。
例えば、トイレのスリッパをそろえます。すると、自分の知っている人はもちろん、今けんかをしてしまっている人にも、全く知らない人にも、「授業が始まる寸前にトイレに行きたくなって、急いでトイレに飛び込んだ時、トイレのスリッパがそろっていたおかげで授業に遅れないですんだ」などというように、やさしくできるかもしれません。
今日国語の時間に勉強したように、田中正造さんが、自分だけでなく、家族だけでなく、顔も見たこともない、話したこともない人にやさしくしたことは、すごく勇気のいることです。田中さんのように死を覚悟してまでできるかわからないけれど、田中さんのように見えない人にもやさしくしたいと思います。田中さんを手本に生きていけば、私もそんなふうにしていけると思います。
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卒業式が近づいてきました。6年間の思い出、がんばってきたこと、勉強などがつまった卒業式は、最高のものにしたいと思っています。
卒業証書をもらう時、この小学校で起こったことが、一瞬頭をよぎって感動したり、歌を歌う時、6年間がんばったなと感じたりできたら幸せです。自分に自信を持って卒業できるようにしたい。やるべきことをやってから卒業したい。父さん、母さんにお礼を言って卒業していきたいです。
見ていてくれる人、聞いていてくれる人のことを思いながらやれば、失敗なんてしない。卒業式は緊張せずにやりたい。母さんや5年生に最高の卒業式を見せたい。この気持ちを卒業まで持っていたいと思います。5年生にとって先輩である僕たちは、最高の6年生として卒業していきたいと思います。