息子と散歩をする時に


 息子は父親を求めています。
父親だって、息子に「お父さん」を感じてほしい。
でも、子どもが起きる前に仕事に出かけ、子どもが寝てから帰宅するお父さんには、毎日息子との時間を過ごすなんて夢のような話でしょう。

かといって、休日にまとめて、と思えば思うほど、何をしていいかわからず、過剰な家庭サービスをしてしまう例があるとも聞きます。

 休日、少しだけ時間があったら、とりあえず息子さんと散歩してみませんか。散歩のよいところは、体を動かすことで心が柔らかになること、心のリズムが合ってくることです。

 小学校低学年なら、お父さんと手をつなぎたがっています。高学年になって生意気になっても、お父さんとの散歩は楽しいのです。さて、散歩の途中、どんな話をしましょうか。

一日目

 「学校の様子はどうだ」「勉強についていけてるのか」「いじめられていないか」…話すことがないと、親というのは、つい「尋問」をしてしまいます。
もちろん、質問上手なお父さんもいるでしょうが、自分が話すことがない時に苦し紛れに質問するのは最悪の事態を招きがちです。

 こんな時は、子どもに合わせようとしないで、遠慮せず自分の話したいことをどんどん言ってしまえばいいのです。

 まず初めはなんといっても、お母さんの話題にしましょう。
お父さんがお母さんのことをどれほど愛しているかを好きなだけ息子に聞かせてください。
「無理」だとか、「文句ばかりになってしまう」だとか、言っている場合ではありません。

 「お母さんが作る○○はおいしいよなあ。」
料理の話からなら、照れずにできそうですね。
ちょっと勇気を出して、「お母さんがあの服を着た時は、ちょっときれいだなあ」「お母さんのあの言い方、お父さんは好きなんだ。」なんて話はどうですか。

 夢中になって、恋人時代のことまでおしゃべりするのもいいですが、おしゃべりしながら息子さんの息をよく感じてください。
お父さんがうれしそうにお母さんの話をするうちに、息子さんの方もいっしょになってお母さんの話をしたがるはずです。
子どもが話したくて息を吸うのをしっかり感じてやるのが大人の役目です。

 息子さんも基本的にはお母さんが大好き。大好きな人の大好きなところについて話すのは、とても幸せなものです。

 万全を期すために、お母さんのよいところをメモしてから出かけますか。

二日目

 息子は学校でどんな友達と付き合っているか、いじめられてはいないか、など、やはり気になります。
そこで、二日目は、友達の話です。

 パターンはお母さんの時と同じ。まずお父さんが友達自慢をしてください。
友達といっても幼馴染とか、親友の話はひとまず置いておきましょう。ここでするのは、毎日お父さんが仕事で会っている人たちの話です。

 尊敬する上司のこと、気に入っている同僚や後輩、それから素敵なお客様。
身近で毎日会っている人のことを話しましょう。
話し方のこつは、「こんなにすごい人がいるんだよ」ではなく「この前、こんなことがあってね」です。

 その人全体を好きでなくても、ここだけは気に入っているという部分があるはずです。
それを具体的なできごとを通して話してみましょう。
息子さんも日常の出来事を話しやすくなります。

 息子さんが、いろいろな友達のことを話し始めたとき、もしそれが「いじめられているのではないか」と感じても、「それでどうした」「いじめられてるのか」なんて血相を変えてはいけません。
息子はお父さんに、もう少し大きな器を求めているでしょう。

 「ちょっとまずそうな話」の時は、「ふ〜ん、そうかあ」と聞き流しましょう。
ただ、聞き流してばかりだと、「お父さんは僕の話を真剣に聞いていないのかも」と思われます。
びしっと反応しなければいけない所はびしっと反応してください。
それは、どこかと言うと、息子さんが「友達のよいところ」を話した時です。

 「その子はいい子だなあ」「お父さんも親友と同じようなことがあったよ」などとどんどん話をふくらめましょう。
息子さんは人のよいところを見つけるのが楽しくなります。

三日目

 息子さんは、お母さんのよいところ、友達のよいところをたくさん話すようになりましたか。
幸せそうにたくさんの人をほめているのを聞くのは、こちらも幸せになりますね。

 息子さんがたくさん話すようになると、心配になるのが、授業中もこんなふうに進んで発表しているのかなあ、なんてこと。でも、学校で発表をちゃんとしてるか、なんて、やっぱり聞かないほうがいいです。
その代わりに、発表するこつを何気なく教えてあげるといいでしょう。

 発表力を上げるキーワードのひとつに「〜のようだ」があります。
「この木の芽は赤ちゃんのほっぺみたいに柔らかいなあ」
「今日の夕焼けはお母さんの怒った時の顔より赤いよ」

 何かにたとえる力が伸びると、発見する力が伸びます。
また、友達の発言につけたせることが楽にできるようになります。
これで息子さんの発表力は飛躍的に伸びます。

四日目

 では、もう一つ、息子さんを学校で活躍させる方法を考えましょう。
キーワードは「不思議だなあ」です。
どの勉強も、「不思議だなあ」がモチベーションになります。
いくら先生が知識を詰め込んでも、詰め込まれる側に「不思議だなあ」という器がなければ、知識はしみこんでいかないのです。

 息子さんがこの力を身に着けるのは簡単です。
お父さんが「不思議だなあ」と言っていればいいのです。
散歩で見つけたもの、なんでもかんでも不思議だなあ、とまずお父さんが言ってください。
息子さんが真似をして口癖になれば、息子さんも不思議を見つける力が自然に伸びていきます。
もし、「お父さんは何も知らないのか」と思われるのが心配になったら、時々、「不思議だなあ。まてよ、これは確か、こうだったはず」とちょっぴりフォローしておけば大丈夫です。

五日目

 勉強以外でも息子さんを活躍させましょう。

 「ありがとう」を息子さんの口癖にさせてみませんか。
何をするにも、まず「ありがとう」と言える子どもになると、友達も増え、先生からもよい子だと見てもらえます。

 これも、お父さんが「ありがとう」を連発すればいいのですが、散歩の途中、ありがとうと言い続けるのもおかしいですね。
そういう時は、「ありがとうで得をした話」をしてやりましょう。
仕事の中で「ありがとう」が潤滑油になって、うまくことが運ぶことは、たくさんあるでしょう。
お父さんが職場で見たままを話せばいいのです。

 どうしても見つからないときは、「神様にお祈りをする時には、まず始めにありがとうというのがこつだよ。神様は喜んで、何でも言うことを聞いてくれるからね」などと話して、散歩途中の神社などで、息子さんといっしょに手を合わせてみましょう。

六日目

 散歩をすれば自然に話ができる。
息子さんとの散歩がこんなふうに楽しくなってきたでしょうか。

 今日は、逆に「しばらく話さないで歩こうか」と提案してみてください。
しばらく歩いている間に息子さんの中で、話したいことがあふれてくるはずです。
そうしたら、散歩の後半はいくらでも聞いてあげましょう。

 もし、散歩後半になっても、そうならなかったら「耳を澄ましていると、いつも聞こえてこない音が聞こえてくるだろう」と言ってみましょう。
目で発見する力も大事ですが、耳で発見する力も大事です。
普段聞こえない町の音を息子さんが見つけたら、ほめてやってください。
息子さんは、人の声や自然の音に耳を澄ませることのできる優秀な子どもになります。

 おかえりなさい。
いい散歩になりましたか。
では、最後に、家に入る時に気をつけることを二つだけ。

 一つ目は、うれしそうに「お母さん、ただいま」と言うこと。
散歩してよかった、家に帰ったのもうれしい、お母さんの顔を見るのもうれしい…。
今、自分が幸せな場所で生きているということを、この笑顔の「ただいま」の一言で、息子さんは実感します。

 二つ目は、靴をきちんとそろえて家に上がること。靴箱にしまう場合も、一度きちんとそろえて家に上がり、手洗いうがいをした後、靴箱にしまうのがいいかもしれません。
履物をそろえる子どもは上品に育っていると思われます。
学校、公民館、旅館等の公共の履物を自然にそろえられる子は、次に来る人のことを考えられるとても賢い子に見えます。
自然に身についたほんの小さな仕草で、人間性を評価されることは、意外に多いのです。

 次の休日は、きっと、息子さんが先に靴を履いて、散歩を待っています。お楽しみに。

    『文芸やいづ』第22号(平成23年度) 掲載

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