日記を毎日書く

 私には宝物がいくつかあります。先日、その一つ、一冊のファイルを教室で子供たちに見せました。それは、これまでに担任した6年生が卒業式の日にプレゼントしてくれたものです。中身は、子供たちが書いた日記への私の返事の中から、良かったものを選んで、子供たちがそれを写してくれたものです。

 トータルしてみると、日記を熱心に書いてくるのは女の子の方が多いのですが、時には男の子もがんばってかいてきます。

 6年前に受け持ったA君は、地区の選抜チームにも選ばれていたサッカー選手で、人にも優しく、みんなから信頼されている男の子でした。A君の記録によると、A君が6年生の一年間で書いた日記は276日分。それに対する私の返事は200日分だそうです。その200日分の多分全部が、A君の細かな字で、レポート用紙16枚にわたって書かれています。中身はほとんどサッカーのこと。いくら観るのが好きとはいえ、一度もサッカーの経験のない私が、A君が一流選手になるためのトレーニング方法を毎日赤いボールペンで書いていたかと思うと、少し照れ臭くなります。

 日記の宿題は、6年前も今と同じように、「週に1日以上必ず出す」でした。ですから、いやいや週に1回出していた子もいましたが、全く出さずに知らん顔を決め込む子は、いませんでした。

 自分を表現する方法はいろいろありますが、言葉による表現の重要性は、この子たちが生きている間は変わらないでしょう。きちんと話せればとりあえずことは足りますが、長い内容のものを言葉で伝えるとなると、文章を書くトレーニングというのは、やはり非常に重要になってきます。

 言葉を効果的に使う方程式は確かにあります。しかし、それもトレーニングを積んで、手になじませなければ使い物になりません。計算の力と同じです。日記を書くのは、計算ドリルをやるような効果があるのです。

 本読みと同じように、できれば毎日子供たちの悩みを聞いてやって、出来る限り手助けしてやりたいと思っています。しかし、「子供たちにゆとりを」と叫ばれているのとは裏腹に年々ゆとりのなくなっていく教室では、29人の悩みを、毎日全員分聞いてやることはできません。日記に返事を書くことなら、左手に給食のパンを持ち、口に牛乳のストローを咥えながら、何とか毎日続けられそうです。

 このクラスにも、毎日日記を書き続けている子がいます。Cさんは、初めなかなか自分の思いが文に表せませんでしたが、毎日続けているうちに、最近、少しずつ文の表現もうまくなってきました。

 まじめさというのは、一度の情熱では表せません。こつこつと続けることができたとき、初めて人に認められるのだと思います。

 D君は、先週、これから毎日書こうと決心しました。「これまで日記を書くのをよく忘れたけれど、忘れないための良い方法はないか」というD君の質問に、私が「毎日書いて出せば、週に一度の日記を出す日は忘れない」という返事をしたからです。そのときの私の返事を、ここに書いておきます。

                
 毎日書きなさい。毎日書けば、一日や二日忘れても、全く問題ありません。毎日真剣に授業を受けていれば、書くことはたくさんあるはずです。今日は音楽の時間に何がわかりましたか。社会は?算数は?道徳は?国語は?もしどの時間も書くことがなければ、君は一日中何も考えていない不まじめな人だということです。とにかく今日から必ず毎日書きなさい。
 時には3行しか書けない日があるかもしれませんが、それでもいいから毎日続けましょう。
 毎日書くこつを教えましょう。1日5時間の授業のうち、今日はこの授業について書こう、と朝決めてしまうのです。そうするとその授業に集中して、勉強もできるようになります。もちろん、決めていた授業より、もっと書きたいことが出てきたら、それを書けばいいですよ。
 

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