Q21 たくさん書き取りをすれば、漢字は覚えられますか。
A21 漢字書き取りは、たくさんやる必要はありません。
というより、何も工夫せずに沢山やるのは無駄です。
漢字は書いて覚えるものと教わった記憶のある方もいるかもしれませんが、それは勘違いです。
漢字は読んでいる時に覚えるのです。
書いている時に覚えられるのは、「てん」や「はね」といった漢字の細部で、その字そのものを覚えられるわけではありません。
漢字をたくさん覚えられる子は、実は、学校で漢字を練習する前に、多くの漢字に接しています。
といっても、塾で覚えたり、お父さん、お母さんが必死で教えているわけではありません。
小さなころ読み聞かせをしてもらいながら、その本をのぞき込む。
お父さんやお母さんが新聞を読むときにひざの間に割り込んでくる。
町やテレビや家の人が読んでいる本で見つけたおもしろい字の読み方を家の人に聞く。
こんなふうに、「意味も読み方もはっきり分からないけれどシャワーのように漢字を数多く浴びる」と、なんとなくその字のイメージが脳に宿ります。
そうした下地のある子がドリルで正式に学習すると「こう読むんだ」「こういう意味か」「ここははねて書くんだ」「書き順はこうか」とその字を完全に覚えるのです。
もし、こういった下地がなく、初めて見る字をその場で覚えられたら、本物の天才です。
ですから、「毎日練習しているのにどうしておぼえられないの」と責めるのかわいそうです。
毎日書き取りの宿題を私が出すのは、たくさんの漢字を覚えさせるためではなく、美しい字を書く手癖をつけるためなのです。
<漢字を覚えるために>
○漢字をとにかくたくさん見させる。
教室では、習っていない漢字も読み方を教えます。
その場で覚えるのではなく、イメージを持たせるためです。
また、これは同時に、自分は漢字をたくさん知っているという自信にもつながります。
○漢字書き取りは、一日一ページ、一字一字をじっくり時間をかけてていねいにやる。
気を抜いたままたくさんやるのは時間の浪費です。
時間の浪費以上に危険なのは、いい加減に書いた結果、だんだん細部が違う字になることが多いことです。
正しい字を気合をこめて書くことが大事です。
気が抜けなければ、何時間でも書いてください。
そういう場合は、もちろん、書けば書くほど力は伸びます。
2年生くらいでは、55ますの書き取り帳の字の大きさがちょうど練習しやすいでしょう。
小さなますのノートは細部に注意が行かなくなり、書けば書くほど字は下手になります。
毎日、書き取り帳を見ていると、誰が本気で勉強しようとしているかがはっきりわかります。
まだ字形がしっかりとれていなくても、やる気十分の子のノートからは、気合が伝わってきます。
そういう子に教えるのは、本当にわくわくします。
脳の箱のふたの開閉をすればするほど、錆び始める時期は遠くなる。
これが基本ですが、やたらに続けて開け閉めしても、それは、時間の無駄になります。
ほどよく期間をあけて、開け閉めすれば、効果的な勉強になります。
一つの字を、続けて10回も、20回も書いていませんか。
その字の美しさを追究するなら別ですが、その形を正確に覚えるのが目的なら、この方法は時間の無駄です。
気合を入れて、3回書けば、必ず脳の箱に入ります。
それで不安でも、一度に同じ字を、気合を入れて書ける回数は、5回が限度でしょう。
毎日、ドリルの同じ場所を、同じように写してくるという宿題が出ても、やり方によっては、効果的にふたの開閉ができます。
それは、今日のうちに、明日のテストを作っておく、という方法です。
漢字ノートには振り仮名を書く場所があります。
この振り仮名を次の日の分まで書いておけばいいのです。
ノートを開いたときに、すでに今日の分の振り仮名が振ってある。
テストのつもりで、昨日覚えた漢字の箱のふたを開けてみます。
漢字を箱に入れてから24時間後。何も見ずに書ければ、自信が持てます。
もし、ふたが自動で開かなければ、もう一度、ドリルを見れば、昨日のふたは開いて、錆び付く危険性はより少なくなります。
明日の分まで、振り仮名を書くというと、何だか2倍の時間をかけて勉強しているように思えますが、そんなことはありません。
だって、今日の振り仮名は、もう昨日すでに書いてあるのですから、今日やるのは「今日の漢字と明日の振り仮名」。
今までの量と少しも変わっていないのです。
最初の日だけ、1.5倍の時間をかけるだけであとは、これまでどおりの労力で、2倍の濃さの勉強ができます。
後は、どんなものと関連づけながら、ふたを開いていくか、が勝負です。
箱と箱をひもでつなぐ作業です。
今日覚えた漢字を少し復習した後、ページの残りに、新聞記事の漢字を練習してきた6年生がいます。
面白い記事を、お父さん、お母さんといっしょに探してみましょう。
漢和字典を徹底的に調べてきた5年生もいます。
私の意地悪宿題テストに対抗するため、ドリルの「漢字練習ではない部分(表紙裏の出版社の住所など)」まで漢字ノートに書いてきた4年生もいます。
気力と工夫の両輪が、12歳以降の学習の成功には、必要です。
卒業までに、その種を植えておきましょう。
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