算数(2)

手になじむ

 このクラスの最大の弱点は算数です。算数の力がこの程度のままでは、勉強や学校生活は、どんどんつまらなくなります。今のうちに手を打たなければなりません。

 1カ月間見ていて、算数が弱点になった理由を1つ見つけました。以前にも書いた、計算の力です。全員、九九以外の計算が「手になじんでいない」のです。まるで、釘を一本打つ度に、説明書を読んで、金づちの使い方を調べている大工さんのような感じです。

 このことに全員気づいたはずなのに、それをこの1月で直そうとした子は、数人しかいません。彼らが算数を弱点にしてしまった本当の理由がここにあることを、昨日発見しました。

 算数の時間、プリントを終えた後、「仮分数を帯分数に直せたか」というような自己診断のための設問を8つ用意しました。できているなら○、できていないなら×、そして、少し気になったので、普通だと思ったら△で答えなさいと言いました。すると、やはり、恐れていたとおりのことが起こりました。28人中27人が、8このうちいくつかに△と答えたのです。

 △の普通とはどういう意味だと聞くと、「一応できるけどそんなに自信があるわけではない」という答えでした。ここが大問題なのです。「自信がない」ということは、「もっと練習しておかなければいけない」ということです。しかし、「一応できる」という言い方は、「特にそれを必死になって練習することはない」という考え方を表しています。

 △は、「もっと練習しなければいけないことなのに、練習をしなくてもいい」と思っているということなのです。

 釘を打つのに自信のない大工さんに家を建ててほしいと思う人が、一体どこにいるでしょう。算数の勉強は、子供の仕事の一つ、子供たちは算数のプロフェッショナルでいなければならないはずです。

 やらなければいけないことはいくつもありますが、まず、毎日やっているプリント(プリントの内容については、お問い合わせがあればお知らせします)の10題を30秒以内にできるように、練習しましょう。説明書を見なくても、釘を打てるように。

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 算数で、低学年まで戻って歩き直すということを何度も子供たちに言ってきましたが、なかなか本気になってくれない子がたくさんいます。日一日とチャンスは少なくなっていくのに、とても残念なことです。ところが先週、A君のおかげで、多くの子の心に火がつけられました。

 算数の時間に、どんな方法で“戻れば”いいかを説明しているときでした。どのくらいの早さで答えられるか試してごらんと「12−8」のカードを出しました。すると、A君が「4」と即座に答えました。そして、一瞬、しんと静まり返った後、ほかの子たちが「4」と答えました。その差0.5秒!?A君の声とその他の子の声の間には確かに一瞬の沈黙がありました。

 次に足し算のカードを出しても同じでした。A君が答えた後、他の子たちが完全に一瞬遅れて答えるのです。そのことは、誰もが認めました。九九のカードをやってみると、これもA君が一人だけ早いのですが、九九の場合は、A君の声が消える前に、他の子の声が出ます。もう一度引き算をやってみると、これは前のように、A君の答えの早さは、他の子を寄せ付けません。

 A君は、算盤塾にも、算数の塾にも行っていないそうです。それどころか、1年生の時は、算数で分からないところがあって困っていたそうです。そのかわり、わからないのはくやしいので、徹底的に練習したようです。(A君はドリルのあるページの記録保持者ですが、1回目は、他の子に負けています。3回目でトップを取ったのは、A君の“姿勢”が表れているようです。)

 自動車の運転を始めたばかりのころは、「どのくらいハンドルを切れば、どのくらい曲がるのか。ブレーキやアクセルの踏み具合はどうすればいいか」と、一つ一つのやり方を丹念に考えながら運転します。しかし、慣れてしまえば、それらのことは、考えなくてもできるようになり、その分余裕ができて、回りの交通状況をより的確に判断できる安全な運転ができるようになります。

 足し算、引き算、九九も、最初は、どうすれば答えが出るのか、「やり方」の追求に時間をかけて、勉強します。しかし、それを実際に使うときには、すぐに答えが出るように手になじませておきたいものです。そうすれば、余裕が出て、その分、新しい勉強に集中できます。4月の彼らは、まだ、ハンドルの切り具合やアクセルの踏み具合に神経を擦り減らしながら、首都高を運転しているようなものでした。

 2574÷4の計算では、九九と引き算が3回ずつ必要です。0.5×6で1題について3秒、ドリル1ページ20題では1分の差がつきます。速さを極めてコンピューターに勝とうというのではありません。この1分の脳のエネルギーの浪費の差が、その後の脳の活躍を大きく左右するということが問題なのです。1分余分に走れば、その分疲れて、次のことをする力が減ってしまうです。

 「12−8」という字面を見ただけで「4」と出るようにトレーニングしましょう。また、「36」を見ただけで、「4×9, 6×6, 12×3, 18×2」が出るようにしましょう。(この「逆の九九」はB君のお父さんのアイデアです。)このトレーニングを積むだけで、脳に大きな余裕ができ、6年生の内容を考えるのも、その分楽になるはずです。

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