爪のような月を見つける



極限まで切りそろえた
爪のような月が
西の空に浮かぶ

風の止まった夕暮れの散歩道
僕たちは世界中で一番先に
その月を見つけたような気分で
「ねえ、見える?」と互いに問う

こうして何十年も
ずっと同じ月を見て
いっしょに生きてこられたことは
宇宙の大きさからみれば
奇跡に近いことだけれど
「運命」という言葉が
僕たちを時々安心させる

また明日も
妻と二人で
この散歩道を歩く





  文芸やいづ 第27号 掲載

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