良い頭をつくる  
 

勉強

 勉強=受験=暗記、という図式から、勉強=暗記という観念ができてしまったのは、いつからでしょうか。受験勉強に暗記の技術が必要なのは、何度か書いたように、受験の時期の脳が、すでに暗記力のピークを過ぎているためです。

 必要な情報はコンピューターの中に入れておけば、人間の脳の何万倍もの情報を正確に取っておくことができます。わたしたち人間は、どの情報をコンピューターから引き出して、どう組み合わせればよいかを考えるために、脳の廊下の力を鍛えればいいのです。

 こんなふうに言うと、自分はコンピューターに関わる仕事はしないと言う子もいます。しかし、私たちの生活はコンピューターを使いこなして行われているということを忘れてはいけません。自動車も、洗濯機も、炊飯器も、みんなコンピューターに蓄積された情報を我々が選択して、仕事をさせているのです。

 漢字を書く練習をしたり、計算の練習をしたりすることは、あたかも暗記力を高めるために行われているように思えますが、そうではありません。何度か書いたように、これらは、次の新しい(廊下をつなぐ)勉強をするための道具として手になじませておくために行っているのです。

 手になじんだかどうかを確かめたり、そのためのトレーニングにやる気を起こさせたりするために、この前の参観週間の算数の授業のように、授業中にドリルをやったりします。しかし、授業の中心となるのは、ドリルではありません。思考することによって、脳の部屋のつながりを多岐にわたらせるようにすることが、勉強で最も大切なことなのです。

 例えば、算数の分数の割り算の授業では、こんなところにじっくり時間をかけてやりました。

 「2lで6u塗れるペンキがある。1lでは何u?」という問題では、@のような図で答えが出せます。しかし、「3/4lで2/5u塗れる」ということになると、@のように、壁を縦に区切ったのでは、うまく解決できなくなります。そこでAのように、壁を横に区切るという考えが必要になります。さらに、この答えを出すためには、Bのように、幻の壁を思い描く必要があります。(図は省略)

 一つの問題にぶつかったとき、「@のように図で描くと簡単に解ける」「@のような縦切りでだめなら、Aのように横切りではどうか」「Aのままではだめだから、Bのように幻の壁を作ろう」というように、「図で描く」「縦でだめなら横」「無いものをあるように想定してもよい」という脳の部屋を次々にノックできるような廊下を作っていくことが、子どもたちの頭をよくするという言うことです。

 いくつ覚えたか、を競っても幸せな人生を切り開く道具にはなりません。知識を組み合わせてできるだけたくさんの発想をする、ということが、幸せな人生を切り開く道具を持つ第一歩なのです。

シンプル

 算数の授業です。
 「A君がバトンを1本、B君が2本持っている。B君は、A君の何倍持っているか。」・・・「2倍」
 「C君はバトンを2本、D君は4本持っている。D君は、C君の何倍持っているか。」・・・「2倍」       もちろん、全員正解です。

 「そこに、まだ“倍”という勉強をしていない2年生が来てこう言った。『B君は2本持っているから、答えが2だって僕にもわかるよ。でも、D君は4本も持っているのに、答えが2になるなんて変だよ。』この2年生が納得するように説明しなさい」

 ほとんどの子供達は、4÷2と、ただノートに書きました。答えの出し方としては正解です。しかし、これでは、2年生への説明にはなっていません。

 文で説明しようという子も出てきました。「4の中には2が2つあって…」と、ノートに5行も6行も書いています。理論的には正しいことが書いてありますが、小さい子にわかるとは、とても思えません。

 図を描き始める子も出てきました。図としては間違いはありませんが、その図で説明してごらん、というと、話す自信はなさそうです。

 1時間考えさせた後、実際に2人に出てきてもらい、バトンを持ってもらいました。C君には、片手に2本、D君には、両手に2本ずつ持ってもらいます。そして、私が袋を3枚用意し、バトンを持つ彼らの手に袋をかぶせていきました。1時間、この問題と格闘してくたくたに疲れた子は、袋をかぶせた瞬間、「あぁ、そうか。」と納得してくれました。

 この授業は、「倍」という考えを使うときは元となる量を1と見なす、ということをしっかり確認するために行いました。しかし、その裏には、もっと大切なことが隠れています。それは、最もよい考えというのは、誰にでも分かる最もシンプルなものであるということです。

 最もシンプルな形に戻ってみることで、難しい問題がするりと解けます。最も基本的なところまでさかのぼれず、4÷2というような途中で止まってしまった子は、この先、応用が効かなくなります。1,2年の基礎がいかに大切であるかということが、よくわかります。

 1,2年生の時は、1,2年生の勉強が難しいなあと思った子も多いと思います。しかし、今なら、簡単に分かるはずです。算数の苦手な子は、もう1度この時点で(この時点だからこそ)、計算だけでなく、算数の本全部をもう一度やり直すことをお勧めします。家に教科書は残っていますか。

 ついでに言うと、簡単なことを、難しい言葉を使って、いかにも大変なことのように話す評論家がいますが、その人の能力は高いとは言えません。誰も理解できないような難しいことを、誰にでも分かるようなシンプルな表現で人に伝えることができる人こそ、本当に頭のよい人です。
 
 

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