自転車
子どもの頃、近所の友達は、小学校になると、みんな自転車を買ってもらっていました。
でも、うちは貧乏で、子供用に自転車を買うなんて、余裕がなかったようです。
それで私は、友達の自転車を借りたり、母の使っている大人用の自転車を借りたりして、なんとか自転車に乗れるようになりました。
しかし、3年生になっても、4年生になっても自分の自転車を買ってもらえず、友達と遊ぶ時はいつも友達の後ろを走ってついていきました。
かわいそうだと思ったのか、父が、資源ごみ置き場から自転車の部品を集めてきて、小さな自転車を組み立ててくれました。
ペンキも有り合わせで、青と銀と肌色で塗られていました。
でも、初めての自分だけの自転車がうれしくて、6年生の途中までそれに乗っていました。
さすがに6年生の体格には合わない小ささであることがわかった父は、自転車を買ってくれました。
でも、行ったのは自転車屋ではありません。質屋でした。
そこで中古自転車が安く売られていたからです。みんなが新品の自転車なのに、自分だけは中古。
でも、恥ずかしいという気持ちはありませんでした。
高校1年の時に、自分の運転ミスで大破するまで、その自転車に乗りました。
もっと小さい頃、まわりの子に比べて自分の家が貧乏だったのを感じて、恥ずかしいと思ったことが何度もありました。
でも、6年生のその頃は、そういう気持ちがなくなっていたような気がします。
多分、父と母が、人生のすべてをかけて、自分を養い、自分をかわいがってくれているということを、言葉にできないながらもわかってきる年齢になっていたのだろうと思います。
でも、父と母に「ありがとう」と口に出して言ったことは、一度きり。
大学生活の4年間が終わって、下宿を引き払い、荷物を全部持って家に戻った夜、1回だけ、ありがとうと言った時だけです。
親不孝な息子です。
子どもは、口には出さなくても、小さな頃から親に感謝する気持ちは持っていると思います。
そしていつか必ず口に出して感謝してくれると思います。
その日までがんばりましょう。
3年生の教室、朝の会の「幸せと感謝のコーナー」で、最近、「今日の朝ごはんがとてもおいしかったです。お母さんに感謝しています」と言える子が増えてきました。