10年間だけ理想の人を演じる
38年間、小学生とつきあってきて、つくづく思うのは、「子は親の鏡」だということです。
どの子も、お父さん、お母さん、そっくりです。
これは、姿形のことではありません。
どんな物の見方をするか、どんな言葉を選ぶか、というような行動様式のことです。
有名な教育評論家の話を聞き、その通りに子どもに言ってみても、評論家の言うとおりの結果にならないのは、結局、「親が何を言っても子どもは親の言う通りには育たず、親がした通りに育つ」からです。
ですから、こんな人間に育ってほしいと願ったら、親自身が、そういう理想の人間でいればよいわけです。
「そんなの無理です。」と言われそうですが、こんなふうに考えてみてください。
まず、「理想の人」を演じるのは、子どもが生まれてから10年間だけです。
お子さんが二人で、3歳違いだとすると、13年間の辛抱です。
80年以上の人生で、10年間は長く感じますか。
次に、「理想」についてですが、「親と正反対の人生を歩んでほしい」と漠然と思っていると、理想の人を演じるのは大変なことになります。
でも、よく考えてください。
お父さん、お母さんの今の人生は、とっても素敵です。
お互い、素敵な人に出会って結婚し、かわいい子供に恵まれたのです。
基本的に幸せな人生です。
ですから、「こんな人に育ってほしい」という願いのほとんどは、お父さん、お母さん御自身がすでに実現されているのです。
でも、自分を振り返ると、子どもには、もっとやさしい人になってほしいとか、もっと明るい人になってほしいとかいう願いがわいてきます。
そうしたら、親は10年間だけ、少し無理をして、優しい人や明るい人を演じればいいのです。
上品な人になってほしいと思ったら、お父さん、お母さんが理想とする上品な話し方で、10年間過ごしてください。
もっと勉強してほしいと思ったら、お父さん、お母さんも、御自身の仕事に関する勉強を猛烈にやればいいでしょう。
演じるのは大変ですが、愛する子どものためです。
もっと運のいい人になってほしいとか、不幸な目にあわない人になってほしいとか思うかもしれません。
そうならば、赤ちゃんが生まれた日から、ご夫婦で、ラッキーだった話をたくさんし、それから10年間、家族の食卓で(どんなにちいさなことでも)本当にあったラッキーな話をしつづけてください。
そうすると、10年後には、お子さんが「幸せ見つけ」の達人になっていて、それが幸運を呼び込むようになります。
それでも、「親と正反対の人生を送ってほしい」と思ったら、いちばん不幸だったことを思い出して、それがなぜ起こったのかを考えてください。
その原因のほとんどが、避けられない運命だと思えるでしょうが、冷静に、よく考えると、必ず、自分の中に少しだけ原因があることが多いようです。
「あの時、あんな言い方をして、あの人を傷つけなければ…」
それがわかったら、10年間、優しい言葉だけを使う人を演じ続けましょう。
「あの時、欲張って、これを選ばずに、こちらを選んでおけば…」
それがわかったら、10年間、謙虚に振る舞う人を演じ続けましょう。
「あの時、躊躇せずに、思い切ってやっていたら…」
それがわかったら、10年間、新しいものに挑戦する人を演じ続けましょう。
「あの時、あんな無茶をしなかったら…」
それがわかったら、10年間、冷静な人を演じ続けましょう。
10年間、理想の人を演じるのは、親の義務です。
10年間、理想の人を演じられて初めて、人は親になります。
教師も同じです。
理想の人を演じ続けると、お父さん、お母さん自身の生活に、ちょっと面白いことが起こるかもしれません。
演じるのは、たったの10年と思えば、やれるような気がしませんか。