鉛筆ゴールド

 「うちの子、鉛筆の持ち方が直りました。ありがとうございます。もう、半分あきらめていたんです。」面談の時に、A子さんのお母さんがこうおっしゃいました。

 ここ数年、鉛筆の持ち方がよくなった子の名前を教室の掲示板に書く、ということをしてきました。

授業で鉛筆の正しい持ち方を教え、子どもがその持ち方ができるようになったと私が判断したら、その掲示板に名前を書きます。

 高学年には、どうしてその持ち方がよいのかということを教えたり考えさせたりもします。

どの学年でも、くわしく教えれば、その持ち方ができるようになります。

 ただ、「できる」ようになるのですが、「する」ようには、なかなかなりません。

「意識すればできる、けれど、無意識にできるようになってはいない」子がほとんどで、1年が終わってしまいます。

 こちらが「鉛筆の持ち方はどうかな」と言えば、全員さっと正しい持ち方になりますが、計算テストなど、夢中で書いている時は、みんな元の変な持ち方に戻ってしまいます。

「大人になって意識した時にできれば、いいか」と最近はあきらめていたところです。

 ところが、A子さんは、4ヶ月も経たないうちに、無意識の時でも正しい持ち方ができるようになりました。

できた理由は、まだはっきりわかりません。

A子さんが、とても素直な心の持ち主であるか、すごい根性の持ち主なのかもしれません。

 A子さんのお母さんが「あきらめていた」とおっしゃったということは、ある時期、家で、そうとう厳しく教えられて、それがある日突然、花開いたのかもしれません。

 ひとつだけ確かなことは、A子さんは、これから一生、どんな時も、鉛筆の持ち方が正しいということです。

 10歳までに一度身についたものは、無意識のうちに使えて様々な幸運を呼ぶ一生の宝です。

 お父さん、お母さんは、お子さんにどんなことを身につけてほしいと思っていますか。

 オリンピックを見ていると、この競技、明日から習わせちゃおうかしら、などと欲も出てきますが、子供たちが身につけて幸せになれるものは、もっと他にもたくさんあります。

 お箸の持ち方、あいさつ、笑顔…。

 お父さん、お母さんが人生でいちばん大事にしているものをお子さんの体に埋め込んでください。鉄は熱いうちに打て、です。


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