学級王国

 学級王国、という言葉は、よい意味で使われません。

教師が自分の学級を、あたかも王様として独善的に支配している、という意味で使われます。

私は、毎年、学級王国を作ってきました。

もちろん王様は私です。

 私の学級王国には、法律があります。

法律を作るのは、もちろん、王様の私です。

法律は、全部で4つです。

1 人も自分も幸せになる。

2 誰が見ていても同じことをする。

3 自分から始める。

4 男は女を守る。

 「人も自分も幸せになる」は、この王国で生きていくための最も重要で基本的な法律です。

「周りのみんながつらく悲しくて泣いている時、ひとりだけ笑っている人と友達になりたいか。」

そう子どもたちに問えば、答えはもちろん全員ノーです。

だったら話は簡単です。

君はそうならないように人の幸せを大切にしなさい。

こんなふうに説明します。

 最初は何をどうすれば良いかわからない子も、人のために働いてみると、感謝されたり、笑顔が返って来たりするので、人に親切にするのが癖になります。

人に意地悪をしようとしても怖い王様が見張っています。

どの子も、人に意地悪するよりも、親切にしたほうが、自分が気持ちがいい、ということがわかってきます。

 この1つ目は、長い間「人の幸せを大切にする」でした。

しかし、これでは困ったことが起きているのに気づきました。

自分を犠牲にしてまでも、人のために尽くしてしまおうとする子が出てくるのです。

 自分が大変な分、人が幸せになると思ったら大間違いです。

自分に親切にしてくれた人が、それを一緒に喜んでやってくれている、と感じなれば、親切にされている方も、遠慮して素直に喜べません。

人に親切にしたことで、自分も幸せになることが大事です。

それで、ここ数年は、この「人も自分も幸せになる」に変えました。

 2つ目の「誰が見ていても同じことをする」は、次のように説明しています。

 A「先生がいる時も、いない時もまじめな子」

 B「先生がいる時はまじめなのに、先生がいなくなると不真面目になる子」

 C「先生がいる時も、いない時も不真面目な子」

A、B、Cの中で、最も危険な友達はどれでしょう。

答えは、Bです。

 例えば、AとCは、君とY君に同じことを言うでしょう。
言ってる内容はともかく、自分に言ったのと同じことを、自分がいない時にも言っているので、安心して付き合えます。

 でも、Bは危険です。

君には「僕は君のことが大好きだ。Y君なんて、大嫌いだよ」と言い、Y君には「僕はY君が大好きだ。あいつは本当は大嫌いなんだよ」と言っているかもしれません。

そんな人と安心して付き合えますか。

こんな人は絶対に友達にしてはいけません。

友達にすると君は不幸になります。

 この説明を聞くと、3ヵ月後には、こそこそと隠れて何かをするという子がいなくなります。

堂々としていないと、友達の視線が耐えられなくなってくるからです。

これは、王様に叱られるより大変だろうと思います。

 3つ目の「自分から始める」は、努力目標です。

初め「ロボットにならない」としていましたが、「〜ない」と否定形で終わる言葉は未来につながらないので、途中から変わりました。

大事なことだとはわかっても、すぐにはできないことも多いものです。

ですから、これはできなくても叱られません。どんな小さなことでも、これをしようとしたり、できたりしたら、誉められます。

 仕事に追われている時は、よいアイデアも浮かびませんが、仕事を追いかけている時は、どんどんアイデアが湧いてきます。

同じ仕事量でも、自分から追いかけている時は、疲労度も違うような気がします。

それがわかっているのに、大人でも、うっかりすると難しいことです。

ぜひ、子どもたちには、自分から始める素敵な人生を送ってほしいと思います。

 4つ目の法律をつくることにしたのは、お父さんの家庭内暴力で、不幸になってしまった子がいたからです。

男の腕力は強いので、家庭内で振るわれたら、幸せは逃げます。

 この法律のもと、男子は女子のために徹底的にがんばります。

女子が原因で男女間の喧嘩になりそうになっても、男子は女子と絶対に喧嘩しません。

男子は心の中では文句を言いながらも、仕方なく女子にやさしくします。

 最初は戸惑っている女子も、男子の強さとやさしさがわかってきて、男子をちょっぴり見直したりします。

高学年の女子と男子は、母親と息子、と見間違うほど成長の度合いが違います。

何もせずに放っておくと、女子は男子を見下すことが多い年代です。

でも、男子が黙々と働く姿を見せると、感動してくれる女子も表れます。

 でも、時には、男子が女子に逆らわないのをいいことに、女王様のような振る舞いをする女子グループが現れることもあります。ク

ラスの女子全員がそういう気持ちになってしまうこともあります。

 そういう時には、王様が女子を呼び話をします。

「男子の仕事が女子を守ることだったら、女子の仕事は何だ」と叱られます。

女子は王様に「女子の役目は何ですか」と聞きにきます。

でも王様は教えません。

教えたくても、王様は男なので、女子の役目がなんだかわからないからです。

 ある時、こんなことがありました。学級会で、学校の近くの川の掃除をすることになり、お昼休みからクラス全員で作業を始めました。

川に落ちているごみは予想以上に多く、予定時刻には終わらないことがわかってきました。

 男子が言いました。「暗くなると困るから、女子は先に帰れ」女子が言い返します。

「クラスで決めたことだから、一緒にやりたい。男子ばかりに大変なことはさせられない」

それでも男子は「帰れ」と怒り出しました。

女子は仕方なく、学校へ戻っていきました。

 男子だけで仕事を終えたのは、それから、随分経ってからです。

教室に戻ると、誰もいません。

女子は言われたとおり、全員、先に帰っていました。

教室で待っていてくれるのではないかと、ちょっぴり期待した男子もいたようです。

 しかし、教室をよく見ると、男子の机の上には、きちんと「帰りのしたく」をしたランドセルが乗っていました。

昼休みが終わってすぐでかけたので、男子は誰も蛙の支度がしてないはずです。

どの子の予定帳にも、明日の予定が書いてあり、それぞれにいろいろなメッセージも添えられていました。

「私たちの分までありがとう」「予定帳、下手な字でごめんね」「先に帰るね」男士達はにこにこして帰りました。

私も、女子の判断にうれしくなりました。

 ただ、4は、「男女共同参画」という考え方が出てきた時、「世間から誤解を受けるので、教室に書いて掲げるのはやめてくれ」と校長から言われて、掲げるのをやめました。

学級の子どもや、お父さん、お母さんにはしっかり説明しますが、私の説明も聞かずに誤解する人がいるのは困るので、校長の意見に従いました。

 長々と、私の学級の話をしました。

理由は、最近、過程の中に王様がいなくなったように感じているからです。

 王様になるのは、とても大変です。

王様は、すべてのことに責任を持たなければいけません。ルールを作る時も、未来を見通し、それを守る人が幸せになれるようなルールを精選し、絶えず進化させていかなければいけません。

王様がそれを怠ったら、学級でも家庭でも、そのチームは崩壊し、メンバーは皆不幸になります。

 今、家での王様は誰ですか。

王様は、未来を見通したルールを提唱し、責任を持って徹底的に守らせていますか。

 子どもを一人の人間として認めるということと、親が親の責任を放棄するということが混同されているのではないかという家庭をよく見かけます。

養育放棄は論外ですが、「人権」という言葉に混乱して、導くことに臆病になっているお父さん、お母さんがいるような気がします。

 第二次性徴が始まるまでに、正しく厳しく導いてやれば、人は人生を誤りません。

 ご家庭での「法律」「ルール」を教えてください。

みんなで出し合って、よりよいルールができるとうれしいです。


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