カンニングをしなさい
修学旅行に行ってきました。
「人と会う」という目的が充分に達成できた修学旅行でした
。中でも1時間以上にわたってお話いただいた「老舗 日本橋日月堂」の安西さんからは、貴重なお話を聞き、貴重な体験をさせてもらいました。
安西さんの話の中にいくつも印象に残った言葉があります。
安西さんは子供たちに「カンニングをしなさい」とおっしゃいました。
もちろん、テストで不正をしろということではありません。よいと思ったものを自分の力で「まねをして、学び取りなさい」という意味です。
日本の教育システムは、本当に素晴らしくて、これが税金だけで受けることができるなんて夢みたいだと、時々思います。
しかし、あまりに整いすぎていて、黙って座っていると次々に出てくる懐石料理、フランス料理みたいな部分も感じます。
そういうシステムの中で、子供たちをいかに飢えさせ、自ら食べ物をとろうとする意欲や意地を持たせるかが日本の教員に求められる技術だと私は思っています。
でも、とても難しいことです。
「職人の世界は、技を盗むことで一人前になるんだよ」と安西さんは子供たちに教えてくれました。
毎日いっしょに暮らしている教員が同じことを言っても子供にはなかなか響かない言葉です。
目の前で、あざやかな手つきで饅頭の餡を生地に包みながら話してくれる本物の職人さんの言葉は、とってもかっこよくて、子供たちの心の中に入っていきます。
私たちの小さな頃は、遊びが「技を盗む」ことを覚える場でした。
ゲームの攻略本もありませんでしたから、遊びで勝つには、上手な子の技を盗まなければいけませんでした。
勝つ、どころか、技がなければ遊びに参加することさえできなかったのです。
学校にも、遊びの場にも、「盗む」チャンスが激減している今、チャンスが残された場所は、家です。
「父の技」「母の技」たくさん盗むチャンスを与えてください。
料理、家の営繕…、家事の技は、ある日突然、子供の目にかっこよく映ります。
かっこいいものをまねして、自分もかっこよくなりたい。
こういう子供たちの本能は、まだ衰えてはいません。
お子さんが、自ら技を盗んで自分が進歩する快感を知れば、お子さんは一生学び続け進歩をし続ける人になるでしょう。
職人さんと違って、家事においては、自分がどんな技を持っているかを知るのは意外に困難です。
「君の包丁裁きは、最近素晴らしいね」
「あなたのペンキの塗り方も、なかなかのものよ」
互いに褒めあう中に、お父さん、お母さんの技は隠れています。