エスカレーターは左に
「エスカレーターは左に乗るんだよ」
駅で、上りのエスカレーターに乗った私の後ろで声がしました。
振り向くと、小学生の男の子が、自分のおばあさんであろう人にかけた声でした。
最近、いつの間にかできたルール「エスカレーターの右側は、急ぐ人のために空けておく」(滋賀県以西では逆ですし、混んでいる時は半分空けずに2列で詰めた方が早く混雑がなくなるという研究も発表されたようです)を、男の子がおばあさんに教えています。
男の子の声はやさしく、おばあさんはにこにこうなづき、体を左側に寄せました。
多分この男の子は、気持ちがよかったでしょう。
自分が知っていることを家族に教えた、とか、家族が恥をかかないように自分が守った、とか、きっと男の子の心の中では言葉にはなっていない、いろいろな誇らしさが生まれていたと思います。
家の中、家族の中で子どもは育ちます。
でも、家の中にいるだけでは子どもは育ちません。
家の中は、子どもにとって「安心の場所」だからです。
子どもは公共の場に出ることで緊張し、さらにそこで家族に認められることで、より一層育っていくのだと思います。
おじいさんに見送られて、列車に乗る家族もいました。
おじいさんの名残惜しそうな顔を見ると、きっと久しぶりの「おじいちゃんちへの家族旅行」なのだろうと思います。
家族旅行は、子どもが成長する上で、とても大事な行事です。
中でも、人に会いに行く旅行は格別です。
子どもはそこで「公」に接する経験を積むからです。
日頃会わない親戚の人などに、
・どのようなあいさつをするか
・用意していただいたものをどういただくか
・いろいろな会話をはずませることができるか
家族や親しい友達と接するだけでは経験できない、少し緊張した時間を過ごすことが、子どもを大きく成長させます。
特別に人と会わない旅行でも、電車、宿、食堂等、公の場での振舞い、話す声の大きさなど、こういう機会にしか学べないことがたくさんあります。
遠くに行く必要はありません。隣の町の親戚に行くだけでも、家族旅行は子どもの大きな経験の場になります。
娘が高校を卒業して家を出て行く時、いちばん思い出に残る場所に家族で旅行しようと提案したら、娘は、隣町の動物園にみんなで行きたい、と言いました。