堅い言葉でくすぐる

 4年生の図工の授業で、机が汚れないように新聞紙を敷きました。

 制作が終わり、片づけの時間になった時に、こんな指示を出しました。

「新聞紙を、教科書くらいの大きさに畳んでしまいなさい。

その時の重ねた部分のずれの誤差は1ミリ以内です。」 

子どもたちは「えー」と驚きましたが、夢中になって新聞紙を畳み始めました。

結果、どの子も、大変美しく新聞紙が畳めました。

新聞紙が綺麗に畳んであれば、片付けた後のロッカーの中も、今までとは見違えるほど綺麗です。

 新聞紙を綺麗に畳ませる言葉は色々あります。

 「しまう時、くしゃくしゃにしては駄目ですよ。」

 多くの子は、適度に綺麗に畳み、くしゃくしゃにしている子が、他の子から叱られたりします。

 「ちゃんと畳んでしまいましょう。」

 一人一人の子どもの中には、すでに「ちゃんと」「しっかり」の基準があるので、今迄通りの畳み方になります。

 「綺麗に畳んでしまいましょう。」

 丁寧さに自信のある子は、綺麗に畳もうとしますが、多くの子は、それほど神経を使いません。

 今回の指示のポイントは3つです。

 一つ目は、1ミリの「1」という数字を使っていること。

子どもたちは、数字を目にしたり耳にしたりすると、それに合わせて、きちんとしようと考えます。

 着替えや支度が遅くなっている時、何の指示も出さず、いきなり、「10、9、8、…」とカウントダウンを始めると、0になる前に終わろうと頑張ります。

「あと10秒で出来なければ…」などと脅かす必要は全くありません。

 二つ目は、1ミリの「ミリ」。

 「ミリメートル」は、子どもたちにとって尋常ではない小さな単位です。

そんな細かいことが自分にはできるのか、もしできたら凄いかも、と思わせる長さです。

これで、集中できます。

 三つ目は、「誤差」という少し堅い言葉です。

 4年生では、「ごさ」と耳にして、一瞬で、それを漢字に変換し、意味を正確に捉えられる子は多くありません。

しかし、「ごさいちみりいない」というのは、何となく、「寸分の狂いもなく」という意味だろうと想像はできます。

その意味は「ちゃんと」「しっかり」「とてもきれいに」と同じですが、「誤差」という言葉は何となくかっこよく聞こえ、かっこよく聞こえた言葉を聞いて、それを遂行する自分は、少し大人になった気分になります。

これは、「1歳上の所作で褒められる」ことに繋がっています。

「ぴったり」と「誤差1ミリ以内」は、ある年齢の子どもにとって、全く違う言葉であることを大人が知っていると、子どもの心をくすぐることができます。


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