言葉のメイクアップ

 先日、テレビを見ていると、幼稚園でお母さんが困っている、という絵が出てきました。

そして、その絵の下に「先生、お手数をおかけして、申し訳ありません」と書いてあります。

 何だろうと見ていると、その絵の解説が始まりました。

 「こうして、幼稚園から娘さんの具合が悪いという連絡があって、幼稚園に行った時には、先生には、こういってあいさつをするとよいでしょう。

お手数をかけた、というのは、先生が娘さんの様子をよく見ていて具合の悪いのを発見してくれた、熱を計って休ませてくれた、お母さんの所に連絡をしてくれた、など、幼稚園の先生方が娘さんのために、いろいろなことをしてくれたということです。

丁寧にあいさつをしましょう。」

 「とうとう、こういう番組が始まったか。

最近のお母さんには、こうして教える必要があるよね。」

私は本気でそう思ってしまいました。

 でもしばらく見ていると、それが、日本で暮らす外国の人のための日本語講座であることがわかりました。

とんだ勘違いでした。

でも、もしかしたら、日本中の教員がこの番組をこのタイミングで見たら、かなり多くの確率で、同じ勘違いをするかもしれない、とも思いました。

 バブルを経験してから、日本人全体が、サービスはお金で買う、という意識が根付いてしまったのではないかと、心配です。

お金をはらっているんだから、自分は客なのだから威張って当然と思っている人は周りにいませんか。

 払ったお金に見合ったサービスが受けられないことにクレームをつけるのは当然です。

代価に見合わないひどい扱いをされて泣き寝入りをする必要はありません。

しかし、サービスを仕事とする人は、お金を払った人の奴隷ではありません。

 互いのことを尊重しあうことで、サービスする側もされる側も、よりレベルの高いものを得られるということを、忘れている日本人が最近多すぎませんか。

 以上のことは、本当に大きな問題ですが、ここに、もう一つの問題があります。

たとえ心の中では、威張っているつもりがなくても、それを上手に言葉で表現できない人に、最近出会ったことはありませんか。

 実は、これで大きく損をしている子がたくさん出てきています。

 人に対して酷い言葉を投げつける子どもがいます。

これは指導が必要だと思い、その子に注意します。

しかし、よくよく聞いてみると、こちらが受け取る意味と全然違う意味やニュアンスで、その言葉を使っているのです。

 「先生のいる教室」だからよかったものの、もし他の所で、おなじように言っていたら無事に終わらないだろうというような言葉遣い、言い方をしています。

年々、こんな子が増えつづけているように思えます。

 これは、周りの大人の真似です。親の話し方の影響が一番大きいのは当然ですが、最近は、親と話す時間よりもメディアと付き合う時間が長くて、その影響を受けている子もいます。

 人は言葉によって思考するので、前述のような子どもたちも、発している言葉に沿って心が育っていくのは当然です。

周りの大人は、自分の発する言葉の一つ一つが、子どもの脳を形成することを忘れてはいけません。

 では、お父さんとお母さんはどうすればいいでしょう。

 まず、お父さんとお母さんが、互いの言葉遣いについて、話し合ってみましょう。

互いの言葉遣いについて話し合ったことはありますか。

多分、多くのご夫婦が、結婚後何年もたって、互いの言葉遣いについてなんて、話し合ったことはないと思います。

もし、あるとしたら、きっと夫婦喧嘩の時かもしれません。

「その口のきき方が、前から気に入らなかった」なんて。

 互いの言葉遣いについての話し合う時に気をつけなければいけないのは、いきなり互いの言葉遣いの気に入らないところを言ってはいけないということです。

すぐ夫婦喧嘩になってしまいます。

 まず、素敵だなあと思っている言葉遣いについて出し合ってみましょう。

と言っても、これはとても難しいことかもしれません。

気に障る言葉というのは、すぐに脳にインプットされるのですが、気持ちのよい言葉は、するすると脳の奥の方に入っていってしまうので、すぐに挙げなさいと言われても、なかなか出てきません。

恋人同士の時には、簡単にできたかもしれませんが。

 そこで、2週間それについて考えるという期間を作ります。

なぜこんなに長いかというと、すぐにやろうとすると、それを意識して、しゃべり方がたどたどしくなってしまうことが多いからです。

2週間ではなく1日にしてしまうと、普段の話し方をしないまま終わってしまいそうです。

2週間くらい長いと、言葉を観察し合っていることを途中で忘れてしまいます。

互いに違うタイミングで忘れているので、互いの素直な言葉遣いを観察することができます。

 もうひとつ難しいのは、「君のこの言葉遣いは素敵だよ」と面と向かって言うことです。照れてしまうかもしれません。

これも、恋人同士の時には、簡単にできていたことですね。

でもここはお子さんのために意を決してやってみましょう。

 でも、どうしても、面と向かって「あなたのこんな言葉が好き」と言えなければ、紙に書いてみましょう。これは、後々使えます。

 それができたら、素敵だと言われた言い方を、意識して使ってみましょう。

それだけで、家の中の雰囲気はがらりと変わるかもしれません。

もし、どうしても気になるなら、「どんな言い方が気に障るのか」を聞いてもいいですが、聞かなくても大丈夫です。

誉めてもらった言い方をしているうちに、気に障る言い方は自然に消えていきます。

 夫婦ではどうしても、という方は、気の置けない友達に相談して、話し方や言葉の診断をしてもらいましょう。

 ただ、気の置けない友達というのは(夫婦もそうなのですが)、同じ環境の中にいることが多いので、自分たちの「変な言葉遣い」に気づかないことが多いようです。

カウンセラーなどに冷静に診断してもらうのが一番よいかもしれません。

 小学校高学年の女の子の一部は、眉毛、爪、耳のメイクに夢中です。

その子達は、「言葉のメイクアップほど、有効な化粧はない」と誰からも教わっていないでしょう。

化粧品のファンデーションは毎日落として塗りなおしですが、言葉のメイクは、人生の本物のファンデーションになるのです。

 いつか、どこかから、お子さんの言葉遣いを誉められた時は、お父さん、お母さんの子育てが正しかったと自信をもってください。


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