運がいい人

 6年生に「運がいい人と悪い人っていると思いますか」と質問しました。

 すると何人もの子が、

・運というのは、いい時と悪い時があってみんな平等

・幸運はみんなにやってくるけど、それを見つける力を身につけている人が幸運をつかむ

と言いました。「平等説」です。

 私もしばらく前まで、そう思っていましたが、最近、いろいろな本を読んだり、自分の人生を振り返ったりするうちに、考えが変わりました。

そこで、それを子どもたちに知ってほしいと思いました。

 それで、「今年、自分は幸運だったか。その理由も書いておいで」と宿題を出しました。

 湧く実、全員が、今年の自分を振り返って書いてきました。

数人、いいことも悪いこともあった、と書いていましたが、ほとんどの子は「今年は幸運だった」と書いてきました。

Aさんは「病気で1ヶ月以上入院した」が一番幸運だったことだと書いてきました。

Bさんは「漢字テストで1問間違えただけで、テスト直しをすることになった」ことが幸運だったと書いてきました。

 Aさんは、突然病気になり、1ヶ月以上入院しました。

「入院したおかげで、たくさんの友達に励まされ、友達の大切さがよくわかった。この入院を機会に、今までそれほど親しくなかった友達とも仲良くなれた。幸運だった」とAさんは書いてきました。

 3学期の初めの漢字テストで、1問でも間違えた者は、この1年のすべての漢字テストの再テストをするという罰を設けました。

Bさんは、1年間漢字の勉強をがんばってきたのですが、なぜかうっかり1問間違えてしまい、14枚分にも及ぶ再テストを受けることになったのです。

「あの1問を間違えたおかげで、今年1年の漢字の復習ができる。幸運だと思う」とBさんは書いてきました。

大人でも、こんな考え方は簡単にはできません。

 きっと、お父さんとお母さんが、12年間、こういう考え方でこの2人を育ててこられたのだろうと思います。

なんてすてきな子育てでしょう。

 この2人の考え方が、私の言いたかったことに大きく関係します。私の言いたかったのは、「運のいい人と悪い人というのはいる。しかも、運のいい人はずっと運がいい」ということでした。

 この後、子どもたちに、こんなことを話しました。

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 君に起きる出来事は、運がよいとか悪いとかという性質は持っていない。

ただ、そういうことが起こったというだけだ。

この言い方でわかりにくければ、ひとつの出来事には、運がよかった面と悪かった面があると考えればいい。

 Aさんが学校に来られなかったのは、運が悪いことのように見える。

でも、そのおかげで友達のありがたさがわかったり、友達が増えたりしたことは運がいいことだ。

 漢字の再テストをたくさん受けなければならない人は、すごく大変なことだから、その点では運が悪いと思える。

特に、1年間しっかり勉強したのに、うっかり1問書き間違えたとかいう人は、運が悪い。

でも、この再テストのおかげで、実力は大きくアップする。

Bさんのように考えれば、これは運のいい出来事になる。 

 この2人は、きっと今まで、運がよかったのだと思う。

今まで運がよかったから、自分に起きた出来事を全部運がいいことだと心から思うことができる。

 こんなふうに今までいいことばかりが起こった人は、自分が運がいいと思っているから、必ずいい方から物事を見るようになる。

だから、運のいい人はずっと運がいい。

 これだけだと、運ではなくて、ただ気持ちの問題じゃないかと思うだろう。

でも、運にはもうひとつ重要なことがあるんだよ。

 たとえば、A君はすごく運のいい人でやることすべて、ついていてうまく行く。

反対にB君は何をやってもついていない。

ねえ、C君、どちらと友達になりたい?

 (A君、B君を目の前にいる友達の名前で言ったので、C君はB君に遠慮しながらもA君と友達になりたいと言いました。)

 そうだよね。

誰だってA君と友達になりたいに決まってる。

運がいい人には自然に人が集まってくるんだ。

 みんなA君の顔とB君の顔を見比べてごらん。

2人の運が実際によいのか悪いのかはわからないけど、私が少し言い続けただけで、二人の表情は全然違うでしょ。A

君はうれしそうな顔になってきたし、B君はくら〜い顔になってきた。(B君、変な役でごめんね)

 この顔見たら、その人のことをよく知らない人でも、A君を選ぶよね。

 私も最近わかったんだけど、幸せって必ず誰かの手を介してやってくる。

 たとえば、一人きりでがんばってお金をたくさん稼いで、最高級の大根を買おうと店に行く。

いちばん高い値段の大根が買える。

ところが本当にいい大根はそうそう店頭には並ばない。

ところが最高の大根を育てている人と友達なら、その最高の大根をその人が喜んで君にただでくれる。

 ただでものを手に入れるということがいいんじゃないんだ。

高いお金で売った人はたくさんのお金を手に入れたことを喜ぶけれど、君のことが好きで大根を君にプレゼントしてくれた人は、君がもらってくれたことそのものを喜んでくれる。

その人の顔を見たら、君はさらに幸せな気持ちになる。そして、君の顔はさらに人に好かれる顔になるよ。

 こういうことが人生のいたるところで起こるんだ。

どんなにお金を稼いでも、一人ぼっちの人の幸せは、たくさんの人と心からつながってる人の幸せにはかなわない。

 たくさんの人と心からつながっている人には、その人たちからいろいろな幸運が贈られてくる。

もちろん自分も楽しく贈ることができる。だから、運のいい人はずっと運がいい。

 多くの人と繋がること以外にも、運のいい人になれる方法がある。

 最初の幸運を引き寄せる方法は前から教えてあるよ。それは予定帳。

 予定帳の書き方を聞いて毎日まじめに取り組んできた人の予定帳はほんとうに素晴らしい。

自分に必要なことがすべて書いてある。日本中の6年生のどの先生に見せても、絶対驚くよ。

 予定帳をしっかり書きたいなあと思っていると、常に勉強のことが頭と心の片隅にあって、ふとした時に、予定帳に書くことのヒントを見つけることができる。

予定帳を熱心にやらなかった人は、そのくせがまだついていないね。

 頭と心にこのくせをつけることが重要なんだ。

 1年間、「総合」の授業で自分がなりたいものを夢に描く練習をしてきただろう。

本当にそうなりたいと思って、予定帳のくせが身についた人は、生活の中のすべてのことの中から、夢につながるヒントを見つけることができるんだよ。

 幸運はみんなに平等にやってくるけど、それを見つける力のある人がより幸運に恵まれると言ってた人がいるけど、これと同じかもしれないね。

いちばん最初にこの方法で幸運をひとつ手に入れれば、その笑顔と自信で、あとは雪だるまのように幸運は人の手を介してやってくるよ。

 今年、予定帳や、平仮名の練習にがんばれた人には共通点があるんだよ。

それは、できる人に本気であこがれた人。

 すぐに予定帳に花丸をもらったり、すぐに平仮名が上手になった人を見て「あの人、できて、いいなあ」って、全員が思ったはずだよ。

これは「うらやましい」という気持ちだ。

 その中から、あの人みたいにできるようになりたいなあ、と思った人がいる。

「あこがれる」という気持ちだね。

本気であこがれて、自分がそうなった姿を思い浮かべた人は、がんばり続けることができたんだよ。

 18歳までは、あきらめずに続ければ、どんなこともできるようになる。

人と繋がる時、「うらやむ」のではなく、「あこがれる」気持ちを本気で持って、やり続けてごらん。

 今まで失敗した人にも、まだもう少しの時間、チャンスはあるんだよ。

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 予定帳、美しい平仮名、のぼり棒、逆上がり、正しい鉛筆の持ち方…

 今年も子どもたちはたくさんのことを達成して、「続ければできるようになる」が現実に起こることを私は目のあたりにしました。

この子達に出会って、自分は運のいい人間だと再確認できました。


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